1/1
試練の鐘が鳴るとき
朝の鐘が鳴り響くと同時に、真城蓮司は窓を開け放った。
澄んだ空気の中に、魔力を帯びた風が流れ込む。古い石造りの校舎に差し込む光は、今日もまた騒がしい一日の始まりを告げていた。
黒板にチョークを走らせながら、彼はちらりと教室を見渡す。机に腰を下ろした生徒たちの瞳には、未来への期待と、抑えきれない魔力の輝きが宿っていた。ここは王立魔法学園――未熟な力を抱える少年少女たちを導く場所。そして蓮司は、その若き教師のひとりだ。
「おはよう。今日も基礎魔法から始めるぞ」
軽く笑みを浮かべると、教室のあちこちで小さなざわめきが起こった。蓮司は、生徒から慕われる教師だ。若さゆえの親しみやすさと、確かな実力を兼ね備えていたからだ。
だが、彼自身は知っている。――人気も称賛も、ただの表の顔にすぎないことを。心の奥には、誰にも見せられない執着が潜んでいる。
その視線の先、空席がひとつ。
桐谷美月の席だった。