24. 共謀
正門から中庭へ続く大廊下の影から、緋色のドレスと赤い髪が見えた。侍女と騎士を後ろに連れて、真っ直ぐに歩いている。
「本当だ、ヘレネッサだわ…」
ヘレネッサは茶会以降、城下の館に退き一度も姿を見せていなかった。
フラーエンやカリネ、サラも、青ドレスの令嬢も、皆同じように、ロザリードの顔色がどうなっているのかに注意した。
ロザリードは、最早優雅な微笑みを繕う必要など無いと、真っ直ぐにヘレネッサを見ていた。
そして中庭の陽光が、ヘレネッサの髪を鮮やかに照らす。奥へと続く中央の道を歩きながら、傍で見ている令嬢達に彼女は軽く視線を振る。
その一瞥の中で、ヘレネッサとロザリードの目が確かに交わったことを、フラーエンは感じた。
「まさか喧嘩をした騎士って、ベルクレイン家とベティオル家?」
「そのようね」
多くの者の視線をその背に受けながら、ヘレネッサは凛とした歩みで静かに去って行った。
その後、御所では両家の代表が集まり王家への謝罪が行われた。死人が出たわけではないと、王太子も王妃も怒りを見せることはなかったが、この騒動を起こした当事者同士の解決は早急に済ませることを求められた。
「やっと二人で話せるわね」
御所の中にあるとある一室。夕暮れの光がテラスを赤く映し、遠くの山々も同じ色に染まっている。 百令嬢の茶会で、ロザリードに腕輪を贈ったリリアンが言った。
「それにしても、"跪き姫"はあんまりじゃない?私、跪いてはいないわ」
正面からロザリードに挑み、敗北したヘレネッサがそれに返した。
「ああそれ、ごめんなさいね。実は私が言えって言ったの。だって私だけ泥を被りすぎでしょう?」
大袈裟に口を開けて驚いた顔をしたリリアンは、眉を寄せてヘレネッサを睨む。
「あなたって…まあいいわ」
「汚れた価値は?」
「大いにあったわよ。おかげで彼女の"波"の達するところをおおよそ掴めた」
「それはよかった。ちなみにだけど、ここは本当に安全なのかしら」
「もしここまでして聞かれてるのなら、それはもうお手上げね。彼女は魔女ということになるわ」
「ふん、似たようなものだと思うけど…。
ロザリードはあの舞踏会で、王家の壇上で交わされた会話の全てを把握していた。私と王妃様の会話もね。いくらなんでもあそこまで波が届くのはおかしいわ」
「あの場所に関しては、波の満ち引きは運任せよ。耳となっていたのは恐らくフレディア殿下」
「フレディア!?どうしてあの豚が。まさか王族を買収したと?」
「そこはまだ精査中よ」
ヘレネッサは眉を顰める。
「他にもわかったことがあるわ」
「実はロマンス好きの乙女とか?」
「そんなわけないでしょ。確信したのは、彼女の野心は想像以上に危険ということ。蛇のように囁いて、私の父にも」
「本当に大丈夫なんでしょうね?」
「父はずっと危惧しているわ。ルーベルンと組んで名誉が傷つくことをね」
「ベティオル家らしいわね。では槍試合は、予定通りと考えていいのかしら」
「ええ。この槍試合、間違いなくルーベルンが勝つようにできているわ。正面から勝てないのなら…」
「その勝利の価値を削ぎ落とす」




