17. 未来の剪定
「話って?」
窓の外には青空が覗き、日の当たる場所でロッシュが寝ている。
執務室の椅子に座ったまま、エメルディアは、上目遣いに母に尋ねた。
「母上。私は誰を、何を選ぶべきですか…」
セレナリスは目を丸くした。
卓上のペンの羽が揺れて、紙束が少し動く。
「意見されるのは嫌だったんじゃ?」
「わからないんです。ティアラの価値が。ロザリードもヘレネッサもリリアンも、皆朗らかで優しい娘達だった。なのに今は…」
「そういうこと」
セレナリスはゆっくりと息子の向かいの椅子に腰を降ろした。
「妻となる者の一族に力を与える。それは理解しています。でも、彼女達の本心は一体…」
「本心?それが重要なら、聞いてみればいいんじゃない?誰かを遣わしてもいいし」
「そういうことではなくて、その…」
「どうしたの一体。はっきりなさい」
「わかっているのでしょうか。私の妻になると言うことが」
セレナリスが思うより、エメルディアは深刻に悩んでいるようだった。
「私では国を守れるかわからない。オルド帝国の侵攻を止められたのは父上だったからだ」
「確かにオルドは強大な宿敵ね」
「世界の西ではルディアニスが滅び、ローグバルズも降伏した。ミラディス王国の命運も風前の灯火でしょう」
セレナリスはエメルディアの目を見つめ、黙って頷く。エメルディアの視線は足元にあり、まるで独り言を吐き出しているよう。
「父上の病を、帝国による呪いの類と噂する者もいます。スロンディア王さえいなければ、セルナールを落とすのは容易いと」
「そんなものを信じるほど、あなたは愚かではないはずよ」
「では神官達の祈祷は?国庫を叩いてまで毎年父上のために、大神官を呼ぶのは何故です?」
「それは、神々への冒涜よ」
その言葉に、エメルディアは口をつぐみ、足元に深く息を吐く。
セレナリスは息子の手を握り、優しく、力強く諭すように話した。
「大丈夫よ、エメルディア。落ち着きなさい。この先王国がどうなろうと、あなたは独りじゃない。スロンディアだって、独りでは帝国には勝てなかった。アフィルド卿やガルディス公、共に戦った諸侯達がいたから今があるの」
エメルディアは顔を上げる。
「建国王ハレイには三騎士が。刃の女王ロウエンには王配メレコがいた。時には孤独な王もいたけれど、あなたはそうはならない。それは私が保証するわ」
「苦難の時代となります。私の妻になれば、きっと、より…」
「慈しむのはやめなさい」
セレナリスの語気が強くなる。
「重要なのは、勿論国益よ。それ以外無いと言ってよいほどに。でも母としては、息子に愛を捨てろとも言いたくない。
でももし、弱い娘にティアラを与えると言うなら」
セレナリスは立ち上がる。
「国家のために、間引くしかないわ」
そう言うと、母はドレスを翻し、扉の前で一度止まった。
「王冠を戴くのはあなた一人と決まってるけれど、花のティアラは誰もが手を伸ばすことを許されている。これが価値の答えよ」
扉が開き、セレナリスは出て行く。目が覚めていたロッシュが、床に伏せたまま丸い瞳でエメルディアを見上げていた。




