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15. 横顔

「……どうすればいい?ハウゼン」


「はい?」


「彼女が来る。会わない方がいいか?俺が行けば"その気がある"、行かなければ"冷たい男"だ」


「あなたは王子ですから、好きなようになされば…」


「真面目に!」


「う、至って真面目ですが……。では殿下らしく、堂々としていればいいのでは?個人的な好意で近付いたと誤解されなければ問題ないかと」


「誤解されるか?」


「されますとも。されるに決まってるでしょう。王太子殿下が“わざわざ城壁に現れて話しかける”なんて」


「では……どうすれば」


 ハウゼンは肩をすくめる。


「お好きにどうぞ。ただし政治的正解は、

 “偶然通りかかった二人に、軽く挨拶だけする”。

 深入りは避けてください」


 フラーエン達がどんどん近付いて来る。エメルディアは手綱を握らせるように、ハウゼンに全てを任せた。


「君が調整してくれ。頼む」


「ええ!丸投げ!?」


 二人は城壁から外を指差し、大袈裟な声音で政治の話を展開した。


「あのあたりはまだ舗装されていません。職人を集めるならあそこでしょう」


「それは良い考えだ。行商が通りやすくなるし、うん。良いと思う」


 互いにどこを見て話しているのかもわからないが、適当な演技で城壁に滞在する正当性を整えた。


 ちらりと横目に右を見ると、二人はすぐそこまで来ていた。何の話をしているのかはわからないが大層に笑っており、その度に歩調が少し落ちる。


「あのへんも街にしましょう。そしてあそこに櫓を建てれば、盗賊も現れないでしょう」


「さすがだハウゼン卿。君の政策はいつも見事だ」


 中身のない会話を必死に紡いでくれるハウゼンに感謝しつつも、エメルディアの注意はすぐそこまで来たフラーエン・ノーツァースに向いていた。

 一緒にいる黄色いドレスの娘と楽しそうに話す内容が聞こえ始めた。


「それでマイスがね!あっ、マイスは私の隣だった娘ね。茶瓶に蜘蛛が入ったことに気づかなくて…」

「嘘でしょ飲んじゃったの?」

「ええ、独特な香りが私の鼻にも触れたけど、マイスったら"あぁ、芳しい…"って、もうロザリード様みたいに…!」

「アッハッハッハッハ!」

「それから優雅に微笑んでたわ」

「やめて、苦しい!もう喋らないで!」

「だって本当なんだもの!」


 見たことがないような大笑いをしながら、二人はすたすたと歩いては立ち止まり歩いては立ち止まり。想定した速度で進んで来ないので、ハウゼンの話も適当になっていく。


「あ、あそこの屋根壊れてますね。直させないと…」


 そしてようやく、声をかければ届く距離に、フラーエンが歩いて来た。エメルディアは顔を向けるが、二人の令嬢は話に夢中なようで、そこに立つのが王太子だとは気付いていない。

 それも当然、こんなところで立ち話をする王太子など、普通想像しない。きっと文官だと思われているのだろう。


 ハウゼンは話すのをやめ、城壁に手をついてにやけ顔でエメルディアを見ている。


「や、やあ…フラーエン嬢…」


 声をかけようとしたその時。強烈な突風が、城壁の上を吹き抜けた。

 黄金の馬を描いた王家の旗を激しく靡かせ、エメルディアとハウゼンのローブも強く煽られた。


「キャァー!」

「ヒィー!」


 赤と黄のドレスが旗のように翻り、二人は悲鳴を上げながらスカートを抑えた。

 突風が止むと、また二人は笑い出す。


 その笑い声を聞いて、エメルディアも明るい気持ちになった。


 目の前を通り過ぎる娘は、乱れて口に入った長い黒髪を、指で摘み出している。

 貴族なのだからもう少し気取ればよいものを、何度も破顔して、友達と肩を掴み合って歩く。

 茶会で気後れしていないかと案じていたが、周りが見えなくなるくらい楽しい時間を過ごしているのだろう、横顔が眩しかった。

 明るいところで見ると、本当に綺麗な顔をしている。エメルディアと同じ深く青い瞳に、長いまつ毛。

 少し焼けた肌が、馬に跳ねられても動じない彼女の強さを語るよう。

 エメルディアとほとんど目線が変わらないような背の高さに、美しい細く長い首。耳たぶに付いた金細工と赤い宝石。

 よく笑うその声は、芯の強さを感じさせつつも、年頃の可憐さも合わさっている。


「殿下…行っちゃいましたよ…」


 ハウゼンがぽかんとしながら言う。エメルディアがぼーっとしているので、さらに続けた。


「ま、政治的にはこれでよしと…」



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