表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/33

12. 選別と選択

「カリネー!」


「フラーエンー!」


 朝の回廊で、遠目に見つけ合った二人は、小走りに駆け寄り手を握り合った。

 時は茶会の翌日。胸がざわついて眠れる気がしなかったが、結局起こされるまで眠るのがフラーエンである。

 侍女のスコーラに体をゆすられて、さっき目覚めたところだった。


「あんたってば魔物の巣窟に引き込まれて、もう会えないと思ったわ!」


「私も!不思議な気分よ。昨日の出来事って現実なのかな」


「王妃様が一階の大部屋を談話室にしてくださったのよ。そこで詳しく聞かせてよ」


「ええ、行きましょ」


 そう言ってフラーエンとカリネは腕を組んで歩き出した。言葉の裏を作らないカリネの安心感たるや。フラーエンはようやく神経を休ませることができた。


 周りを見れば、腕を組んで歩いている令嬢が多い。昨日の茶会の効果の一つが現れていた。

 そして、フラーエンへの視線も雨のように降り注ぐ。昨日で少し慣れたと思ったが、やはりそうでもなかった。


「もう荷をまとめてる娘も多いわね。あの茶会を見れば仕方ないけど」


 茶会のもう一つの効果も、しっかりと目に見えて現れていた。

 ロザリードとルーベルン家の力の誇示は成功し、勝ち目がないと悟った家は退散を決めたようだった。


 歩きながらカリネが言う。


「私は帰らないけど、王太子殿下は諦めるわ」


「えっ、なんで?」


「なんでって、ロザリードと争っても仕方ないじゃない。王族は他にもいるし、王族じゃなくてもいいってのが、父上の新しい方針。あんたはやる気?」


「ん……わからない」


「わからない?」


「花のティアラは…欲しい。そのために来たんだもの。王太子殿下も素敵だわ。でも、ロザリードも良い人で、争いたくない。それに争う相手は他にもいて、リリアンはもう諦めたのかも知らないけど、ヘレネッサとか、他にもいて……ねえカリネ。私ってどう?」


「頭の中めちゃくちゃなのはわかるわ」


 二人は一階に到着し、廊下を歩き、談話室の扉の前に立った。右手に両開きの大きい扉。左手には、中庭へ出られる手摺りの途切れ目が合った。

 解放された談話室には、多くの令嬢が早速殺到していた。中を覗くと、飽きもせずに香草茶を持ち寄り、小規模な茶会が随所で花開いている。


「わーいっぱい。席あるかな……どうしたのカリネ?入らないの?」


 中庭の方を見て、カリネは真剣な面持ちでフラーエンに問いかけた。


「あんたは気付いた?昨日招待されたのは、全ての令嬢なんかじゃなかったことに」


 フラーエンの認識では、全員だった。皆そう言っていたはずだ。


「私、端の卓だったから見えたんだけど、あの青い封蝋の招待状。全員には届けられていないわ」


「どういうこと?」


「何も持たない娘が、青マントの騎士に追い返されるの、端では見えてたの。追い払われるあの娘達の顔…なんか見てて辛かったわ…」


 フラーエンは驚いて、言葉が出なかった。ロザリードは確かに初めの印象は怖かったが、とても優しかった。

 ヘレネッサやリリアンとのやりとりは難解だったが、あれはヘレネッサから仕掛けてロザリードが返り討ちにしたんだとフラーエンは思っている。

 カリネの見た出来事が事実なら、行われたのは"選別"なのだろうか。

 一度収まったはずの胸騒ぎが再び始まった。


「は、入ろうよ。カリネ」


「そうね。お友達作りましょうか」


 フラーエンが中に入ると、令嬢達の会話が一瞬静まり、またひそひそとざわめき始めた。

 ロザリードやヘレネッサといった、あの円卓にいた令嬢達はここにはいないようだった。

 フラーエンの背筋が固まったの察して、カリネが明るく話しかける。


「あーららどうしましょ。空いてる席ないじゃない。みんな朝早いわね」


 座れる場所を見つけるため部屋を見渡すと、北部を蔑むエラナ・アリーシュと、取り巻き二人の姿を見つけた。

 だが三人はフラーエンと目が合うと、さっと視線を外し、絡んでくる気はないようだった。


「天気良いし、中庭行こっか」


 そう言って外に出ようとしたその時、扉が開いた。


「あら、おはようフラーエン」


 逆光を背に、にこりと優雅に微笑んだのは、十人ほどの令嬢を後ろに引き連れたロザリードだった。

 アレイン・ギースと、青いドレスの令嬢達。その中に一人混じり、乳白色のリリアン・ベティオルがロザリードの隣に立っている。


「…おはよう、ロザリード」


 フラーエンの挨拶を最後に、談話室の会話はぴたりと止まる。


「残念。これじゃ座るところがなさそうね。また外に卓を出しましょうか」


 ロザリードがそう言うと、窓辺の席に座っていた一人の令嬢が声を上げた。


「あ、あの!よろしかったら、ここ、どうぞ…」


「まあ、譲ってくださるの?そんないけないわ。まだ茶を入れたところでしょう?」


「い、いえ。そろそろ出ようかと思ってましたの。ね?」


 その令嬢は、同じ卓にいた者達に同意を求める。


「え、ええ!そうなんです」


「ちょうど良い頃合いでしたわ」


 そう言うとまだかなり熱そうな香草茶を急いで飲み干し、五つの席が空いた。


「親切なのね。ありがとう」


「あ…ゼリア・トワーズと申します…!昨日はご招待いただきありがとうございました!」


「こちらこそ、来てくださってありがとう」


 席を立った令嬢達は、ゼリアに続き名を叫んだ。

 空いた席は五つ、ロザリード一行は十一人。誰も何も言わずとも、周辺の席がさらに六人分空いた。


「何だか申し訳ないわね」


 アレインが引いた椅子に腰を落としながら、ロザリードは瞬きする。

 続いてリリアンが座り、他の者も座った。


 フラーエンはその様子を、扉の前に立ったまま黙って見ていた。


「どうしたのアレイン?」


 リリアンの綺麗な声が響く。

 アレインが座らず、ロザリードの隣りが空いていた。


「父を手伝う用事を思い出しました」


 アレインがそう言うと、ロザリードがちらりと見上げて言う。


「悪いわね」


 他の青ドレス達に目配せして、アレインは扉に向かう。談話室中の令嬢達が、その様子を凝視する。


 フラーエンの横を通り過ぎる瞬間、アレインが小声で囁いた。


「あなたの席です」


 振り返る間もなく、アレインはいなくなった。フラーエンは一瞬カリネと顔を見合わせ、アレインが空けた椅子を見た。


 ロザリードと目が合う。彼女は少し微笑み、何も言わなかった。

 フラーエンが行けば、歓迎されるのだろう。

 だがフラーエンは行けなかった。


 そこにカリネの席はなかった。今ロザリードの隣に座れば、より親しくなれるだろう。だがそうすれば、カリネはここで一人になる。

 カリネのことだからすぐに他の卓に馴染むだろうが、そういうことではない。


 不思議と迷いはなかった。


 フラーエンはロザリードの目を見て微笑み、浅く一礼した。

 座ったままで、ロザリードも微笑み返す。


「行こう、カリネ」


 フラーエンは中庭に出た。太陽が燦々と煌めき、春だと言うのに少し暑い。


「あんた、多分間違えたわよ」


 空を仰ぐフラーエンに、カリネが後ろから声をかけた。


「いいえ。間違ってなんかいないわ」


 清々しい乾いた風が、フラーエンの心を通り抜け、青い空に舞い上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ