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キッチンのテーブルの隅に、何枚かのエプロンを見つけた。
グリーンのチェック柄のを身に付けて、わたしは冷蔵庫の中を見た。
業務用かと思えるほど、大きくて立派な冷蔵庫には、ぎっしり食材があった。
『わぁ! コレだけあると、何作ろうか悩むなぁ』
そう言いつつも、どこか心が浮かれてしまう。
わたしは材料を見ながら、何を作るか考え始めた。
―30分ほど経って、女の子が戻ってきた。
「冷水シャワーで、ようやく目が覚めた。メシはできたか?」
『えっええ』
とりあえずサンドイッチとコンソメスープを作った。
トレーに載せて、女の子がいるテーブルセットまで運ぶ。
女の子は黒髪を頭の上で結んでいて、白生地に青の朝顔の浴衣を着ていた。
…黙っていれば、本当に美人なのに。
「んっ、んまい。が、ちょっと味が濃いな。味見しなかったのか?」
『味見ができるの?』
何かを食べることなんて、もう二度とできないと思っていた。
「さっき言っただろう? この部屋にいる間だけは、普通の人間と同じことができると」
つまり…寝ることや食事をすることも、可能ってこと?
確かに寝ることはできたけど…。
考え込んでいると、女の子は一つのサンドイッチをわたしの目の前に差し出した。
「ほれ、食ってみろ」
『うっうん…』
わたしは恐る恐る口を開けて、サンドイッチを食べてみた。
『っ! ん~しょっぱいっ!』
久しぶりに感じた味覚は、しょっぱさ。
けれど材料が良かったおかげで、塩分がある程度は抑えられているけれど、このしょっぱさは有り得ない!
『ごっごめんなさい! 作り直すから…』
「別にこれでも構わん。汗をかいた分、塩分が欲しかったからな」
『…ごめんなさい』
味見ができるかどうか、まず試してみれば良かった。
料理をするのも久し振りだったから、感覚が狂っているのも気付かなかった。
「そう済まなそうな顔をするな。私は味が濃いのが好みだし、本当にイヤだったら食べない」
『うっうん』
「だが飲み物は欲しいな。紅茶でもいれてくれ」
『わっ分かったわ。アイスティーで良い?』
「ストレートで頼む」
『うん、ちょっと待ってて』
慌ててキッチンへ向かう中、わたしは思った。
言葉は悪い…と言うより古臭くて、態度は大きいけれど……決して怖くはない。
怒鳴っている姿を見ても、そんなに恐ろしくないというか…。
多分、気持ちがそのまま表に全部出ているからだろう。
ウソ・偽りなく、素直に行動しているから、イヤな感じが全然しないんだろうな。
…良いな。
あの女の子なら素の自分を表に出しても、周囲の人達は受け入れるだろう。
……もっとも、受け入れられなくても女の子は平然とするだろうな。
受け入れられなかった受け入れられなかったで、その状況を真正面から受け止めそうだ。
女の子のそういう強さ、わたしにもあったのなら……。




