暑い朝
「ううっ…」
『…はっ!』
わたしは女の子の呻き声で、眼を覚ました。
…あれ?
わたし、もしかしなくても眠ってた?
「朝も朝とて暑い…。風呂でも入るかな」
もっそりと起き上がった女の子は、昨夜より機嫌は回復したいみたい。
『あっあのぉ…』
わたしも続いて起き上がると、女の子は視線を向けてきた。
「お前、料理作れるんだよな? 朝飯、頼む」
『えっ? でもわたし、もう体が無いから…』
料理なんてできるはずもない、と思った。
だけど女の子はケロッとして、一言。
「一晩中、私の力をお前に注ぎ込んだ。この部屋の中であれば、お前は普通の人間と同じ行動ができるはずだ」
『力? どっどういう意味?』
女の子は黙って等身大の鏡を指さした。
『…うそ…』
昨夜はピンボケした白黒写真に映ったようなわたしの体。
けれど今朝は色が付き、形はまだ少しぼんやりとしているものの、生前の姿に近くなっている。
布団から慌てて飛び出し、わたしは鏡の前に立った。
『どっどうして…』
「私は力尽きたモノに、自分の力を分け与えることができるんだ。でもまあ一時的なものだし、この部屋の中という条件がある。とりあえず、メシを作っといてくれ」
女の子はのっそりと布団から出て、部屋からも出て行った。
『あっ、待って!』
ふすまを開けると、そこは広いリビングルーム。
ダイニングキッチンもあって、かなりの広さがある。
「材料は冷蔵庫にある。メイド達が昨日、しこたま買いだめしたはずだから、好きな材料で作れ」
『ええっ!?』
「あとエプロンもキッチンのどっかにあるから、探して適当なのを使ってくれ。んじゃ、私は風呂に入ってくる。誰か来たり、電話が鳴っても無視しといてくれ」
そう言って女の子は部屋の奥へと行ってしまった。
しばらくして水音が聞こえてきたから、本当にお風呂に入っているみたい…。
『えっと…エプロンはキッチンにあるんだっけ?』
とりあえず、エプロンを探すことにした。
死霊に朝食を作らせるなんて…と思うけれど、女の子は何とも思っていないらしい。
それに何もしないと、昨夜のように大暴れされても困る。




