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ゴゴゴゴゴっ…!
しかしマノンの声は、突如響いた地響きの音に消されてしまった。
やがて音は止み、再び静寂が訪れる。
「…どっかの扉が開いたかな?」
「だね。さて、そこはどこかな?」
リウが鳥に視線を向けると、鳥は再び移動する。
それは奥の部屋。
壁際には食器棚が置かれており、今度はそこをくちばしで突っついている。
「なるほど。マノン、影の力であの食器棚をどかせてくれる?」
「はいよ」
マノンの影が、ぐにゃっ…と動いた。
すると幾重もの紐のように伸び、食器棚を掴み上げた。
「おっ、ビンゴ。この食器棚の影に、隠し通路があったんだ」
「だな」
マノンは食器棚を窓際に置いた。
影は元通り、マノンの影に戻る。
「明かりは…あっ、スイッチがあった」
石の通路の壁際にはスイッチがあり、押すと天井からぶら下がっている電球に光が宿る。
「逃げたばっかりだから、電気が通ってて良かったよ」
「ボクは別に暗闇でも平気だけど」
「…マノンは良いかもしれないけど、僕の足はまだ、コレなんだから」
リウは困り顔で、ズボンを掴んで上げた。
リウの細い足は、真っ黒に染まっている。
「普通に歩く分には何ともないけど、こういう石の階段はちょっとキツそう」
「影に乗る?」
「それは激しく遠慮するよ」
「楽なのに」
リウは普通に階段を降りていく。
しかしマノンは足の裏に影を入れて、滑るように降りていく。
「出来れば短い距離であってほしいけど」
「そんなに奥までは続いていないみたいだよ。まあこんな所から逃げ出すなんて、逃亡方法が分かりやすいな」
マノンはニヤッと笑う。
リウの願った通り、階段はそんなに長くは続かなかった。
たどり着いたのは、地下倉庫。
壁際にワインの樽や棚が置いてあるだけだが、その床は広い。
「一見は何の変哲もないみたいだけど」
マノンは影から飛び降り、床に降り立つ。
すると床から黒い光の魔方陣が浮かび上がった。
「床には移動式の魔方陣が書かれてあって、力を持つ者が踏むと作動するって仕掛け。うん、なかなか良いね」
「いや、この方法はセツカがよくする方法だよ。ほら、マノンも一回引っかかっているだろう?」
リウの言葉で、思い出したマノンは引きつった笑みを浮かべた。
「…ああ、そうだった。偽の情報を掴まされた挙句、こういう方法で足止めされたんだった」
「流石はキミの甥。やることが凝っているね」
「…それ、絶対褒め言葉じゃないだろう?」
「感心はしているよ」
リウもマノンに続き、魔法陣の中に入る。
「本当にキミ達は敵に回したくない存在だと思うよ」
「うっさいなぁ」
やがて魔法陣は、黒き光を部屋中に放ち始める。
それを見て、マノンは笑う。
「さぁて。今回のはちょっと期待できるな。何せ古の神とやらだし。いろいろ喰らっているみたいだからね」
「本音を言えば、魂を喰らった状態の方が良かったんでしょう?」
「まあね。でも姉さんにあのシステム、破壊されちゃったし。まさか爆破するなんて、さすがのボクも思い付かなかったよ」
「危険性は高いけど、まあ一度に済ませるなら確実な方法だね。こっちに手が伸ばされる前で良かったかも」
「だね。流石にこっちにはまだ手が伸びていないようだし」
マノンは薄く唇を開けて、ペロッと舌舐めずりをした。
「良いエサは早く食べたいな」
夢見るようにうっとりとマノンが呟いた後、魔法陣は二人を移動させた。
―古き神と、それを信仰する団体の元へ。




