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しかし女の子は答えることなく、いきなり立ち上がり、こちらに歩いてくる。
『えっ? なっ何?』
床に座り込んだままのわたしの目の前に膝をつき、マジマジとわたしの顔を見る。
そしてゆっくりと全身を見ていく…んだけれど、何かこの視線、危険な感じがするのは何故?
「…うん、七十点だな」
『はっ? 何がっ?』
思わず裏返ってしまった声。
だけど女の子は構わず、手を伸ばしてわたしの頬に触れた。
「おおっ! 流石は死霊、冷たいな!」
そりゃあ肉体がないから、冷たくて当たり前なんだけど…。
と言うか、この人、普通にわたしに触っている…。
……何で?
「うむ。これなら眠れそうだ」
女の子は喜びながら、わたしを立たせた。
立ってみて分かったことだけど、女の子の方が身長が高い。
わたしが小柄なせいもあるけれど、女の子の顎の辺りがわたしの頭の部分となる。
二人で向かい合わせになると、いきなり抱き着かれた!
『きっ…きゃあきゃあーーー!』
なっ何で抱き着くの?
しかも思いっきりぎゅっと!
「お~、コレは良いな。冷えた抱き枕と思えば、良く眠れそうだ」
女の子は言葉通り、わたしの体を抱き枕のようにズルズルと引きずって、再び布団の中に入った。
女の子に抱き着かれたままだったわたしも、そのまま布団の中に入ってしまうわけで…。
『えっ、えっ、ええっ!?』
訳の分からないことの連発に、わたしの頭は久しぶりにパニックになっている。
「うるさい。布団の中に入ったら静かにするものだと、ばあさんから教わっていたんだろう?」
『そっそれはそうだけど…』
それはわたしが小説で書いたこと。
女の子は覚えていたんだ。
「だったら大人しくしていろ。なぁに、抱き着いて寝るだけで、他は何もしない」
『されたら困るっ!』
「じゃあ大人しくしろ。わたしが次に眼を覚ますまでの辛抱だ」
『ううっ…』
どうしようもなくなって大人しくしていると、やがて寝息が聞こえてきた。
…この人、本当に眠ったみたい。
しかも死霊であるわたしを抱き締めながら。
いくら体が冷たいからって、抱き枕の代わりにするなんて、絶対に変!
でも寝顔も美人。
漆黒のサラサラヘアーは立ち上がった時、腰まで揺れていた。
前髪は眉毛の上まで、きちんと切りそろえられている。
黒い瞳は切れ長で、唇は何も塗っていないのに真っ赤で艶がある。
白くキメ細やかな肌に、すんなり伸びた手足。
そしてどことなく…変わった空気を持っている。
時々、力を持つ人間に当たる時があったから、こういう空気をわたしは知っている。
…だけどこんな反応をしたのは、この人が始めて。
『黙っていれば、美人なんだけどね』
体付きは女性そのものだけど、顔付きはちょっと中世的な雰囲気がある。
こういう人が友達だったら、きっと自慢してしまう。
わたしは女の子の寝顔を見ながら、息を吐いた。
生前に出会えていたのなら…わたしはこういう存在にならずに済んだのかもしれない。




