蠢く闇
「あ~りゃりゃ。逃げられちゃったか」
ナナオがかつて身を投げた崖の上には、2人の少年の姿がある。
一人はマカと同じ顔をした、黒づくめの少年。
マカの双子の弟である、マノン。
「相変わらずマカは行動が素早い上に、迅速だね」
マノンの隣にいるのは、リウ。
セツカと同じ歳で同属の者だったが、血族を裏切り、今はマノンと行動を共にしている。
「ホントに。…で? どこに逃げたか、分かる?」
マノンはフードの奥から、怪しい光を眼に宿し、リウを見る。
「うん」
リウが手を上げると、一羽の鳥がとまる。
しかしその頭には、黒い指の跡が残っていた。
「どうやら教会の奥に、隠し通路があったみたい。そこからみんな、移動したって」
「じゃ、行こうか。ボク、いい加減お腹減ったよぉ」
マノンは顔をしかめ、腹を撫でた。
「マノンは少し、喰らい過ぎだよ。エサを探す方の身にもなってよね」
「探してもあまり栄養にならなかったり、また姉さんに邪魔されたりで、良いエサにたどり着いていないじゃん」
リウの手から、鳥が飛びたつ。
二人はその後を追う。
崖近くに、その教会はあった。
「建物自体はキレイだね。元は空き教会だったのを、例の団体が直したみたいだけど」
「そうじゃなきゃ、潜伏するのが難しかったんだろう? それに問題児も集められない」
「まあマノンの言う通りだね。ちゃんとしているように見せなきゃ、集まるもんも集まらないだろうし」
リウはそう言って、正面の木の扉を開けた。
そして二人の眼に映ったのは、巨大な黒き十字架。
だがその左右はまるで翼の羽のように見え、そして十字架の頭は蛇のような形をしている。
それを見て、マノンは口の端を上げ、皮肉げに笑った。
「翼を持つ蛇、か…。地を這うモノが、天を飛ぶモノを持っているなんて、おかしな存在だ」
「だから邪教なんて呼ばれていたんじゃないの?」
「リウは意外に辛口だよな」
「キミやマカには心底負けるよ」
リウは何とも言えない複雑な顔をしながら、歩み進める。
やがて十字架の下の部分にたどり着く。
そこで鳥がクチバシを使って、十字架の下の部分をしつこく叩いていた。
「ふぅん。こうかな?」
リウは十字架の下の部分を押した。
そこは胴の部分より、少し太くなっている。
「コレってアレかな? いわゆる男性…」
ゴンッ!
教会の中に、リウがマノンの後頭部を殴る音が響いた。
「いったー!」
「マカは下ネタが大嫌いだったからね。移ったかな?」
そう言いつつ、マノンを殴った手を振る。
「だからって殴ること…」




