ナナオの決意
「マカぁ、メイドさん達って何時頃来るの?」
「確か夕方と言っていたな」
「じゃあお夕飯、作らなくても良い?」
「ああ」
約束の期日、わたしは今まで以上にバタバタしていた。
マカはいつものように、パソコンに向かい合ったまま。
わたしはメイドさん達が戻って来ても大丈夫なように、家事を済ませとくことで忙しかった。
マカは最終日になっても、変わらない。
だから…わたしも心穏やかに、結果を言える。
「ふぅ…。一段落、ついたかな?」
朝からバタバタしていたけれど、3時のオヤツを食べ終え、後片付けを終えると、することが思い浮かばなくなった。
…いや、しなくちゃいけない大事なことが、残っている。
「マカ、話があるんだけど、良い?」
「ああ」
マカはノートパソコンを閉じて、真っ直ぐにわたしを見る。
「とりあえず、今までありがとうございました」
エプロンを脱いで、元のセーラー服に着替えたわたしは、深々とマカに頭を下げた。
「マカと過ごしたこの数日間、本当に楽しかった。生きている時より、楽しかった」
「そうか」
「うん…。だからマカの眷属になって、生きるのも楽しそうだと思った。ハズミやマミヤを見ていると、余計にそう思えた。だけど…」
わたしは唇をぎゅと噛んだ。
「…やっぱり、わたしはわたしの役目を果たしたい。マカから見れば、ホントにバカなマネをしていると思うでしょうけど…」
それでもマカは、わたしから眼をそらさない。
その心と同じく、澄んだ眼で見てくる。
「でもわたしが決めたことだから。バカなことでも、わたし自身が決めたことだから…。やり続けるわ」
「…そうか。分かった」
マカはノートパソコンを持って、立ち上がった。
「こっちへ」
「うん」
マカは寝室に入った。
そしてテーブルにノートパソコンを置く。
キーボードを叩き、数分もしないうちに顔を上げた。
「こっちへ来い」
「うっうん」
マカは画面を指さした。
そしてわたしは驚いた。
「えっ? なっ何で午前0時でもないのに、このサイトが開けるの?」
画面には、わたしのサイトが出ていた。
「ちょっとした裏技でな。だがこの画面はお前の知っているのとは、ちょっと違う。コレは言わば道。お前の帰り道を表しただけだ」
「そう…なの」
本当にマカって、できないことが無いんじゃないかな?
「同じ血族の者に、作らせたんだ。お前がこの画面に触れれば、元いた場所に戻れるだろう」
「そっか…」
マカはわざわざ、帰り道を用意してくれていたのか。
ずっとノートパソコンの前にいたのも、そのせいかな?
わたしは泣きそうなのをグッとこらえ、マカに満面の笑みを浮かべて見せた。
「それじゃあ…帰るね。マカ、これからも元気で」
「ああ」
マカは最後まで、無表情だった。
わたしはスっと手を伸ばし、画面に触れた。
するといつものように、闇に吸い込まれていく。
ああ…本当に、戻ってしまうんだな。
自分で決めたことなのに、残念に思う気持ちがある。
けれどやっぱり、戻らなくてはいけない。
わたしの体はやがて輪郭がぼやけていき、画面の中に全て吸収されていった。
「―さよなら、ナナオ」
そして画面は普通の待ち受けに戻った。
マカは眼を閉じて、パソコンのフタを締めた。




