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「わたしはこの黒猫のが良いな」
「分かった。主人、この白狐と黒猫の面をくれ」
マカはお面を受け取り、お金を払う。
「何かマカにお金払わせてばかりで悪いなぁ」
「気にするな。今までのバイト料だと思え」
「そっそう?」
「ああ」
マカはあくまでも無表情。
だけど頭の飾りに触れないように、お面を横に付けてくれた。
「水ヨーヨーは最後にするか。もし途中で破裂したら、泣けるしな」
「あっ、でもわたし、輪投げで水風船当てたよ?」
今はしぼんだ状態だけど、いっぱい入っているし、家に帰ったら作れる。
「それとこれとは別。お前のは帰ったら、風呂に入る時にでも使おう」
…マカ、水風船をお風呂に入れて遊ぶ気?
何だか見た目と違ってお茶目なところがあるなぁ。
「それじゃあそろそろ腹も減ってきたし…」
言いかけて、マカはふと歩を止める。
「マカ?」
どうしたのか尋ねようとしたが、マカは急に振り返った。
そしてわたしのお面を手に取り、そのまま顔を隠してしまう。
「えっ?」
「ちょっと黙っていろ」
目の部分は穴が空いているので、視界はせまいけれど見える。
向こう側から、3人組の女の子が来ている。
そのうち二人は普通の女子高校生ぐらいの女の子だけど、真ん中にいるのは外国の女の子。
「チッ。魔女も祭りに来るのか」
マカは低く、しかも忌々しそうに呟いた。
「魔女…?」
「あら、マカ先輩」
ふと外国の女の子がマカに気付いた。
「きゃあ! マカ先輩、こんばんわ」
「マカ先輩もお友達と来てたんですか?」
途端に二人の女の子ははしゃぐ。
どうやらマカは人気者らしい。
当の本人はニコッと淡く微笑んだ。
「ええ。田舎から親戚が遊びに来ててね。今日はお祭りだし、案内していたところ」
声も口調も今時の女子高校生のように振る舞う。
すると表情も歳相応に見えるから、とっても不思議。
「ミナさんはご一緒じゃないんですか?」
と外国の女の子が言う。
外見と浴衣が、合わないようで似合っている。
流れるような長い銀髪に、深海色の瞳。
同じく浴衣の生地は深海色で、銀色の鳥が柄になっていた。
色白の肌に良く似合っているな。
…けれど何だろう?
マカとは正反対の容姿と雰囲気を持っているのに、何か…近い存在のように感じられる。
そうだ。マカと最初に会った時にも、同じことを感じた。
―このコ、普通の人間じゃない。
そう言えばマカは言っていた。
『魔女』と。
それはこの外国の女の子のことをさしていたんだろう。
「ミナはご両親の田舎に行っているわ。帰るのは後一週間ぐらいになりそうだって」
「そうなんですか。でもそちらの方がいらっしゃるなら、マカ先輩も寂しくないですね」
外国の女の子の目が、わたしに向く。
「あっ…」
思わず一歩後ろに下がると、マカがわたしを庇うように前に立った。
「それじゃあそろそろ私達は行くから」
「お引き止めしてすみません。ではわたし達もこれで」
「マカ先輩、また学校でお会いしましょうね」
「新学期、楽しみにしています!」
「ええ、またね」
そうして三人とすれ違いざま、外国の女の子がわたしにだけ聞こえる声で呟いた。
「―早く元いる場所にお戻りなさいな」
「っ!?」
それは一瞬の出来事。
けれど久々に身も心も凍る思いを味わった。
やっぱり…わたしの正体が分かる者、なんだ。




