暑い夜に…
わたしはいつも、暗い空間に1人でいる。
1人は楽、そして暗闇も心地いい。
正確な時間は分からないけれど、ただ1回だけ、知ることができる。
それは誰かがわたしのサイトにアクセスして、小説を読んでいる時。
サイトは午前0時にしか開かないから、誰かが読み始めた頃はその時間であることが分かる。
最近、このサイトが都市伝説としてウワサになっているみたいで、アクセスしようとする人が増えた。
…バッカみたい。
このサイトに辿りついて、無事な人間は一人もいないというのに…。
何故読もうとするの?
自分だけが無事に済むとでも思っているの?
何て浅はかで愚かな考え。
―わたしはそんなに甘くないのに。
読んだ人がどんな人であろうと、わたしの小説を読んだからには同じ運命をたどらせる。
そう、わたしをイジメた人間と同じ末路を―。
わたしの小説を読んだ人間の反応は、みんな同じ。
わたしの姿を見ては怯え、そして小説通りに殺される不安からおかしくなっていく。
そしてやがて、本当に小説通りに死んでいくのだ。
死が怖いならば、興味本位で読まなければ良い。
なのに最後まで読むのだから、呆れたものだ。
でも数ある都市伝説の中で、どれが本物かなんて、分かる人なんているんだろうか?
そして分かっていながらも、無事で済む人は…いるんだろうか?
…おかしな話だ。
そういう風にしているのは、他でもなくわたし自身なのに。
暗闇の中で、パッと白い光がついた。
どうやら午前0時になったらしい。
今日もまた、わたしの小説を読んでいる人がいる。
…わたしの小説自体は、どう思われているんだろうか?
イジメをテーマにしているけれど、わたしが生きてきたことも描いている。
大好きだったおばあちゃん、一緒にいてくれた頃は幸せだったな…。
その分、死んじゃった時は悲しかったっけ。
今ではその悲しみも遠い昔みたいに感じられる。
けれど憎しみの心は未だ、この胸の中で重く暗く存在している。
すでに憎しみの対象となる人達は、とっくにこの世にはいないと言うのに…。
憎しみの心を晴らせる術を、あなたは知っている?
ふぅ…。
もうよそう。
今日も今日で、読者の元へ行かなければならない。
そうしておぞましい死を与えるのが、今のわたしの役目であり、存在する意味。
…一体いつからこうなんだっけ?
最初はただ、イジメた人達を苦しませたかっただけだったんだけど。
いつの間に、こんな風になったんだろう?
そんなことをぼんやり考えながら、わたしは白い光が差す方へ向かった。
この先には、読者がいる。
この前は確か中学生の女の子、その前は大学生の青年、それより前は……どうだったかな?
すでに数え切れない人の元へ行くから、記憶もあやふやだ。
今から会いに行く人も、いつまで覚えていられるのかな?