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「…目的も何も、わたしの小説を読んだのなら分かっているでしょう?」
わたしは俯き、膝に置いた両手を握り締めた。
「お前をイジメた人間を殺す為に、お前は人成らざるモノへと成った。しかしその代償に、その後も同じことを続けることがお前の存在意義と成ってしまった。そのことに後悔は無いのか?」
「……別に。わたしはただ、アイツ等を殺したかっただけ。それ以上に重要なことなんてないもの」
自分でも分かるほどに、声が冷たい。
それは本音だったから。
心から思っている言葉だから、冷たくなるんだろう。
「じゃあ私がお前を解き放てば、同じことを繰り返していくつもりか?」
「そう…でしょうね」
最早どこへ行けば良いのか、分からなくなってしまった。
少なくとも…おばあちゃんと同じ所へは行けないだろうな。
わたしをイジメたアイツらよりも、深い闇に落ちていくんだろう…。
「…お前、自分が仕出かしていることを、本当に全て分かっているのか?」
「分かっているわよ。わたしの小説を読んだ人の所へ行って、苦しみを味あわせる。そして―殺す」
するとわたしは元いる闇の場所へ戻る。
次の読者が現れるまで、わたしはそこに留まり続けるのだ。
「それを何時まで続ける? お前がいくら殺そうが、何も変わらないことは変わらない。意味がないんだぞ?」
…マカは本当にはっきり言うなぁ。
わたしが考えたくなかったことを、ハッキリと。
「…でもわたしはもう分からないの。自分がどうあるべきか、忘れてしまった」
だから続けるしかない。
今までと同じことを、繰り返すしかないのだ。
「もし…お前を自由にする、と言ったらどうする?」
「えっ?」
驚いて顔を上げると、マカは真面目な表情を浮かべた。
「お前に言った通り、私は人成らざる力を持つモノ達の長になるモノだ。お前を自由にすることぐらい、何とかできる」
「自由…に」
「ああ。成仏するも良し、またはハズミやマミヤのように私の眷属になるも良し。お前が望むのならば、の話だがな。今までと同じで良いと言うのであれば、開放する」
わたしが…ハズミやマミヤ、彼等のようにマカと一緒にいる…。
「まあもっともタダで、というわけにはいかんがな。きっちりと働いてはもらう」
…ちょっと間違えた。
彼等のように、マカに使われる存在に成るってことだった。
「今は味方の人手不足でな。敵が多すぎて対処できん。お前なら使えそうだしな」
ううっ…。
ヒドイ言葉を言われているはずなのに、嬉しく感じてしまうのは何故だろう?
こんなわたしでも、マカの役に立てるなら…と思ってしまう。
「…少し、考えさせて」
「ああ」
「寝室で少し考えてくるね」
「分かった」
そしてわたしは寝室へ向かった。
マカはわたしの姿が見えなくなると、深くため息をついた。
「選択は与えた。後はお前次第だ、ナナオ」
マカはテーブルに置いたパソコンの電源を入れた。
「だが私の方はまだ終わったワケじゃない。コウガ、しっかりと働いてくれよ」




