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第七話 魔法言語

「魔法とは魔力を運用して発動する現象のことで、魔法の発動には色んなやり方があるんだけど、基本的には二つ。詠唱化、術式化となる。詠唱化ってのは言葉通り魔法の起動と運用に必要な術式を詠唱によって行い魔力に形を作り具現化すること。術式化は術式を刻んだり術式の形を作ったりしてそこに魔力を流すことで具現化すること。まぁその中でも詳しく分けてしまえばどっちも沢山の種類に分けれてーーー」


「それで、どこに関係するのよ。そんなの言われもよく分かんないわ」


不満げにシルビオットの説明を断ち切った。


「ごめん、ごめん。分かりやすく言うと魔法には二つやり方がって、言葉にして魔法を使うやり方。魔法の術式を書いて使うやり方。それで、どっちにも魔法言語を使わないといけないから必要なんだ」


分かりやすく言えばそういうことね。で、なんで魔法がこの世界に必要不可欠なんだ?


「それで、さっき説明した昔の戦争で人間、私達の先祖も戦っていたんだ。人間が戦った相手には人間よりも数倍と大きい体に凶暴な牙や翼に圧倒的な力を持った種族がいたりして、人間が生身で勝てる敵は少なかった。そこで、対抗するために沢山のものを戦争の中で創造し、それを極め、広めた。その一つが魔法ってこと。まぁ、それでも敵対する種族はめっちゃ強いし他の種族も魔法を使ってたから戦場はますます地獄絵図になっていっちゃって、そんな戦争を終わらせるために種族のめっちゃ偉い人達が集まって”ある魔法”を使って戦争を終わらせた。だから魔法ってめっちゃ重要で今の私達にも関係することなんだ」


説明を終えると、ゆっくりと席に着いた。


「ふーん。だったら今日は何の授業をするの?シルビオット”様”」


わざとらしく”様”を強調して質問するシャローネに


「そうだよね!気になるよね!二人には今日から共通言語と魔法言語の二つをやってもらうんだけど、今日は少ししかやらないから安心して」


待ってましたと言わんばかりに元気よく答えた。



「それじゃあはじめるけど、今日から二人が学ぶ言語学ってのはどんなものなのかって話だね。私の思う言語学ってのはその地域の特性や歴史、人などのいろんなものを調べて考えて学ぶものなんだ。つまり!言語学はただ言葉を理解するだけじゃないってことなんだ」


「それじゃあ僕たちの言葉も歴史があるんですか?」


純粋な疑問をシルビオットに問いかけた。


「良い質問だね。そう、実は私たちが使う言葉は結構歴史があるんだ。共通言語ってのは一般的な呼び名であって本当の言い方はクリティアス語なんだ。このクリティアスってのは物凄く昔に『賢者』と呼ばれた人の名前で、そのクリティアス様が作ったからそういう名前になったんだよ」


「その、くりてぃあす?って人の名前ならどうしてクリティアス語って呼ばれないのよ」


たしかにシャローネの言う通りだ。賢者と呼ばれるまでの人間が作り出した言葉を今もこうして使っているのに共通言語という別の言い方になるのは少し違和感がある。


「あーー。えぇっとね、そのクリティアス様ってのは実はみんなよく分かってないんだ。存在したことは色んなものに記されているのに詳しい情報がないんだ。例えば容姿なんかは他の歴史上の人物だとちゃんと記されているのにクリティアス様は容姿が分からないままなんだ。だからどんな存在だったかも怪しい人間の作った言葉を使うのはどうなんだってことで共通言語という呼び方をしてるんだね」


説明を終えるとシルビオットは鞄から数冊の本を机に取り出すと一冊ずつ濃色の本をシャローネと俺の席に置いた。


「これはね、クリティアス様のことが分かりやすく記された子供用の本で二人が興味があるならまずはこれを授業でやるけど、どう?」


『賢者』と呼ばれた人間が記された本。こんなの目の前に出された読むしか選択肢はないだろ。古の戦争と魔法と賢者なんて男子が喜ぶハッピーセット。ここまで今すぐにでも勉強したいのは初めてだ。


「「やります」」


シャローネと俺の声が三人だけの書物庫に響いた。


なんだ、シャローネもそういうのに興味があるのか。シャローネを見るとうっとりと本を眺めていた。きっとシャローネも俺と同じように賢者という言葉に魅了されているのだろう。


「分かった、じゃあこれを教材にしよう。この本は二人にあげるよ」


「いいんですかシルビオット様の大事なものを貰って?」


重要な資料をあげたから大金で返せとか後で言われたりしないよな。


「うん、いいよ。その代わり二人にはしっかり勉強を頑張ってもらうからね」


そう言うとシルビオットは微笑んだ。



コンコン


「夕食の準備が整いました」


書物庫の扉の先からハンナの声が聞こえた。


もうそんな時間か。シルビオットの授業があっという間に終わってしまった。シルビオットはここまで知識があって分かりやすい授業ができるのだから教師や教授にでもなればいいのに。まぁ、シルビオットにはこれからもこの屋敷で沢山授業をして欲しいのだが。


「それじゃあ今日はこの辺にしとこうか」


そう言うとシルビオットは机の上の地図や本を鞄に入れ始めた。


机の上のものを片付けて書物庫の扉を開けると、ハンナが待っていた。


「このまま、食堂まで案内させていたただきます」


「ありがとうございます」


シルビオットが礼を言うと俺達もハンナの背中を追って食堂までついて行った。


「こちらが食堂でございます」


ハンナは案内を終えると食堂のドアを開いた。


食欲をそそるような匂いが食堂中に広がっていて、ご飯に近づかなくても鼻に届くいい匂い。この匂いはシチューかな?楽しみだ。


「さぁ、ご飯が冷めないうちに席についてください」


今朝とは随分と違う態度で迎えてくるジンガに思うものはあるが、今は目の前に広がる美味しそうな料理に夢中なので考えないでおく。


「「「いただきます」」」


やっぱり家族で食べるご飯は美味しい。このトロっとした甘いクリームが使われたシチューはいつ食べても口の中と心の中が幸せで満たされる。


不安そうにダイシャが口を開いた。


「うちの子は授業をちゃんと受けていたのでしょうか?」


その言葉で全員のご飯を食べる手を止めた。


「えぇ二人とも意欲があるようで、しっかりと授業を聞いてくれました。二人は知識もあって覚えが良いのできっとすぐ言葉を覚えて私よりも詳しくなりますよ」


「そうですか、シルビオット様の教えがあればうちの子にも良い教育になります。本当に仕事を受けていただきありがとうございます」


ジンガが礼を言うと慌てるように


「こっこちらこそ、仕事を依頼していただきありがとうこざいます」


シルビオットが頭を下げた。


「そんな、頭を上げてください。そもそも、シルビオット様のような方に家庭教師として招くなど無礼なことなのです」


そんなにカノン家ってお偉い一族なのか?というか仕事の話なんて子供の食事中じゃないとこでやって欲しいところだ。


シチューの残りのスープがぬるくなっている頃にはシルビオットとジンガも緊張が解けて仲良し気に話していた。きっと貴族同士、気が合うところがあって仲良くなったんだろう。


「「「ごちそうさまでした」」」


今日も美味しい料理が食べれて良かった。それにシルビオットとジンガも大分親しくなれたみたいだし、今日の夕食はとてもいい時間だった。明日もこんな感じで夕食を皆で囲めれば良いけど。


「それでは私は仕事が残っておりますので、ここらへんで仕事に戻らせていただきます」


そう言うとジンガは薄暗い廊下の奥へと歩き始めた。


「今日は授業を行って頂きありがとうございます。明日からもよろしくお願いします」


シルビオットに今日のお礼をして自室へ向かった。



ベッドに腰かけると窓から見える月を見上げる。


今夜は月に雲がかかって月の光はいつもより静かだ。この世界にも月と太陽があって、夜空に輝く月を見ていると少し心が落ち着く。別に前の世界が恋しく思うわけでもないが心の奥底にある記憶を月が照らしてくれている間は、良い思い出も嫌な思い出も少しだけ温かく感じる。


少し落ち着いた頃、ゆっくりと体を横にすると眠気に任せて目を閉じる。だんだんと眠気が体を支配し眠りに落ちた。



「ねぇ!!??私の話聞いてる?」


誰かの怒鳴る声が聞こえると思ったら急に頭を鈍器で殴られたような感覚になり、目を開けると騒がしい体育館のど真ん中にぽつりと立っていた。


あぁ、この何度も聞いた声に目の前で腕を組んで偉そうに立つこの女は――――――――。

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