第十八話 想像で創造
一頭の鯨がシダへ襲い掛かる。
水で生成された鯨。どうやら魔法の使用者が離れても意思を持って動き続けるみたいだな。この大きさは久しぶりだ。大きな敵ってのはいつになってもワクワクさせてくれるなぁ!!
襲い掛かる鯨に、シダのカウンターの拳があと数センチと迫る。
キイィィィィ―——ンン
シダと鯨の頭部の空間に魔法陣が展開される。その魔法陣によりシダの攻撃は拒絶されシダを数メートル離れた木立の一本に叩きつけた。
防御系の魔法…?いや、だとしら俺の攻撃を防ぐまでしか効果はないはずだが…。アレはまだ俺の知らない魔法…。警戒する必要はあるが、これぐらいでは俺の体には傷をつけることもできない。さっきからやられっぱなしはつまらないし、それにあの地下室にはまだ生きている人がいる可能性がある。こんな雑魚に時間を稼がれては助けれる命も助けれない!!
一撃必殺!!といきたいけど、町はずれとはいえ大技を放てば町の人間にバレて厄介なことになるのはごめんだ。選択肢、それは一つ――――。
鯨はシダを確認しようと近づくが、そこにシダはいない。シダの狙いは地下室に近いもう一頭の鯨だった。鯨が狙いに気づく頃にはシダはもう一頭の鯨に接近していた。
『水属性魔法 水銃』
鯨の放つ攻撃はシダの体を掠めることなくシダの接近を許してしまう。シダは鯨の真下に潜り込んだ。
こいつは局所的にあの魔法を作ると考えると、全体を覆う程の攻撃をされた場合、防ぐことは出来ない。
『風属性魔法 渦風』
ジンガの魔法は足元に風を集め、周囲の風を巻き込み鯨を飲み込む程の竜巻となる。攻撃に対して鯨は防御の為の魔法を体全体に展開した。
なんだ、その魔法結構大きく展開できるんだな。まぁ大きくしたところで防げるとは思わないけどね。
竜巻の中に展開された防御魔法は、鋭く何重とも重なる風の斬撃により一瞬にして砕かれた。防ぐ手段を失った鯨に容赦なく斬撃が直撃し、鯨は体を細かく裂かれ分裂した体を維持できない鯨は消滅した。
「先ずは一頭ってとこか」
『水属性魔法 溟海の牢獄』
もう一頭がシダに接近しシダを囲む水の牢獄を作り出す。
シダを覆う直径7.63メートルの水で形成された牢獄は、水を圧縮することでシダの動きを封じる。さらに、牢内に満たされれた水はシダの体を貫こうと無数の針となりシダの全身に突き刺さる。
水に魔力を吸収させることで中の人間の魔力操作までも奪う。そして吸収した魔力をこの魔法の運用に使用する。脱出しようとすればするほど追い込まれる。そして、この水球内の水を変形してでできた針で着実にこっちの命を奪う。そういう仕組みか。
だったらこっちも少し本気を出そうか――――――――――――――、
『火属性魔法 炎天』
魔法とは想像の力。理に囚われず、全てを再現する力。たとえそれが火が水を燃やすことは不可能というごくごく当たり前の常識さえも。
刹那、巨大な火柱が上がり、取り囲む溟海の牢獄とシダを喰らおうと近づいた鯨は猛火に飲み込まれ蒸発した。
「この技はやっぱりコントロールが難しいな。人相手ではその人ごと消し炭にしてしまう…」
火柱から不満そうに語るシダが現れる。燃え尽きた周囲の物を気にすることなくシダは地下室へ歩き始めるた。
こうして雄風が吹き抜ける町はずれの土地での戦いはバルベルトの逃亡により幕を閉じた。