第十五話 汚れた血
一つの違和感がグレシィルの頭に浮かび上がる。瞬きもせず苦しみを顔に出すこともなく、ただひたすらに少年は自身の目を見つめていた。自身の手で首を絞めている少年は顔色を全く変えない。今まで多くの人間を同じように首を絞め、気を失わせてこの地下室に閉じ込めてきた自信は次第に消え、少しづつ違和感がハッキリとしていく。
「お前、何人殺した?」
目の前の少年はさっきの幼子の声とは声色を変え、その一言でグレシィルを威圧し、グレシィルの動きを止めた。
「質問を変えようか?お前、何人の女を犯してお前の実験道具にした?」
威圧は徐々に強くなり、地下室中の空気が張り詰める。
「ナァニを言っているですカァ、彼女たちは私のペットにナァリたくて、なったのです!!ペットは主人の言うことを聞かなければ、、、ナ―――ラないのデェス」
「ふざけるなよ……。舐めた口調で話しやがって。不快なんだよ」
「ああああああぁぁぁぁ!!!ダメ!ダメ!ダメ!デェス⁉ペットはしっかり私の言うことを聞かなけれバァ、私の言うコトに歯向かうのはダメ!!ダメ!ダメェデス」
「おい、お前に五秒くれてやる。今すぐ失せろ」
怒りを露にするシダに不安になるグレシィルは狂ったようにガリガリと爪を噛み始めた。噛んだ爪はボロボロと床に落ち次第にグレシィルは自身の指までも噛みちぎり、血が垂れ血だまりができる程にグレシィルは指を噛みちぎった。
「ダメ!!ダメ!!ダメェェェェェェェェェェェェエエエエエ”エ”エ”エ”!!!!マァっママママママァァァ!!!!」
血だまりはグレシィルを囲むように広がりグレシィルの叫び声により、血だまりに波紋が広がると血が人の形を成すように固まり始めた。
「お前がぁ、お前がぁ!!私の子を気づけたのかああああ!!!!」
女の叫びが地下室に響き血で形成された人間は大きな体となり般若のような形相をした化け物となった。
「マァマァァ…………イダイ!!イタイ!イタイ“イ”イ”!!!」
血でできた女の化け物に擦り寄るグレシィルの頭を撫でると、
「よぉしよし!!痛かったねぇ。大丈夫だよママがいるからね!」
化け物はシダを睨みつけ、拳を振り上げて襲い掛かった。
「五秒はもう過ぎた。お前を殺す」
ドゴォ”ォ”オ
シダが言い放った直後、血の化け物の振り上げた腕は勢いよく壁に叩きつけられた。
「俺はお前みたいな奴が大っ嫌いだ。だからお前を殺す。お前が苦しもうが悲しもうが、泣きわめき俺に命乞いをしようがお前を殺す。絶対に何があってもお前を殺す。俺はお前に五秒あげた。お前がここにいる人間にあげた時間よりは短いよなぁ。答えろ!!!!」
怒鳴る声と魔力の威圧により地下室の壁に亀裂が入る。
「お前ぇ!!私の子を怒鳴ったな!!許さない許さない許さない!!あの男たちと同じだ!!男はしょせんあいつらとおっお同じぃぃぃぃぃそうやってぇえ、汚れた手でわ”だじにい”ぃ”」
狂った化け物は体をさらに大きく膨らませ、床、壁、天井へと血を張り巡らせ、血を槍のごとく尖らせ、シダを囲むように攻撃した。
「喋るな、動くな、抗うな、これがお前達にできる最低限度の行動だ」
『土属性魔法 大地の鎖』
地下室の亀裂の入った箇所から石で結ばれた鎖が血を払いのけグレシィルの体を拘束した。
「私の子に何をしたああああぁぁぁぁあ!!!!!」
狂ったように叫ぶと地下室中の血を一点に圧縮しに十センチ程の球体を作り出す。
「これで死ねぇぇぇ!!」
球体は無数の血の槍へと姿を変えシダを襲う。
「甘いんだよ。魔法ってのはこう使うんだよ」
突き出したシダの人差し指の指先に風が巻き起こる。吹き荒れる風を一点に集中させ圧縮する。更に風を起こし、より小さくより圧縮させる。それを一瞬の間に何十回と何百回と何千回と繰り返すことで極度に圧縮された魔力は輝きを放つ。
その輝きは放出の合図、放たれた風はシダの天才的なコントロールにより目に見えぬ超高火力の斬撃となり血の槍がシダに到達するよりも速く、衝突する全てを裂き化け物の体を両断した。
「お前には黙ってもらう」
「いや”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁ!!!ママ”ァ”ァァッッッ!!!」
拘束されながらも既に形が崩れ血のたまり場となったモノにグレシィルが近づこうとする。
「マッマ”ア”ア”。よかった、マダ、生きてるかラァ、マダ戦えるネ」
グレシィルが血に触れた刹那、血が女性の顔になり口を大きく広げるとグレシィルの頭を噛みちぎった。
ゴクリと頭を丸呑みし、バランスを失った胴体はバタリと床に倒れる。
「よかったわぁ……。これで我が子とようやく一つになれた。これで、これで、これでぇぇええええええ!!お前を存分に殺せる!!」
再び血を集め始め固まり、一人の女性を作り上げた。
「あんたがそいつに憑いていた魂霊か…」
「そうよ、そう!!私がこの子の母よ。あはははあははは!!!」
高らかに笑うと足を大きく広げ素早く踏み出した。急接近し魔法ではなく近接戦を仕掛ける。
女は考えていた。目の前にいる小さな存在はただ魔法が使えるだけの存在だと。この場において自分が狩る側の存在だと。