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第十三話 静夜の森

ミリスと階段を降り、玄関まで歩くとダイシャとジンガがシャローネの支度を待っていた。


「おはようございます。お父様、お母様」


「シダ、私とシャローネとお父さんは今日から一週間ぐらい屋敷を離れるから、シルビット様とミリスやハンナの言うことをちゃんと聞いていい子で待ってるのよ?」


手持ち鏡で髪型を確認するダイシャは、普段よりも少し濃い目の化粧をしていた。ダイシャは化粧が要らないくらい艶麗なのだが、そりゃ自分が愛する旦那と王都に行くのだからそうするか。それに王都の大教会には国中の子供が集められるとしたら()()も来るだろうからな。


「シダ、剣術の稽古を怠ることが無いように。何かあったらすぐにシルビオット様達を頼りなさい。大人達を頼れば大抵のことは何とかなるはずだ。それとシダ以外はこの家に残らない、だからルイシャを頼んだぞ」


あー、ルイシャの面倒は俺が見る感じか…。てっきり一人の時間ができるから魔法の練習でもしようと思っていたところなのだが………。まぁそれくらいなら別に苦にならないのでOK!


「すいませんおとぉ様、少し遅れました!」


シャローネがようやく支度を終え、玄関まで来た。


荷物を確認し終えたダイシャが口を開いた。


「それじゃあ、いってくるねーシダ!」


「はい!お母様!」


こうしてシャローネ達は馬車に乗り込み王都へ向かった。


一週間後


「ただいまーーーーー!!!」


帰ってきたシャローネの声が屋敷の玄関から書物庫にいる俺とルイシャの耳に届いた。


もう帰って来たのかよ。もう少し、あと二ヶ月ぐらい別に儀式とやらの時間があっても構わないのだが…。帰ってきたのはしょうがない。俺は結局ルイシャがずっと着いて来てしまったせいで魔法の練習なんてする時間も無いし。夜になったら怖いから本を読んで寝かせてと言われて結局朝から晩までルイシャと過ごしてしまった。俺の一人の時間はどこに行ってしまったのやら……。さて、迎えに行くか…。




「私は風の魔力適性があったわ!!これで私もおとぉ様みたいに立派な剣士になるのよ。早く魔法を使ってみたいわ!魔法も使って、魔剣士になるの!!それで、それで―――――」


ドヤ顔で俺達の目の前に立ち、将来の夢について一人でに語り始めるシャローネに俺とルイシャは呆然とする。


帰ってきてそうそうに言うことが弟に対する自慢とは、、もう少し他にあるだろ。王都がどんな場所かとか大教会での儀式の話だとか、その中で最初に話すのがそれか……。シャローネらしいよ。


魔力適性ってのは魔力の性質によりどんな魔法が使えたりできるかというのを属性ごとに分けた際に分けられたその人の適性属性のことだ。要はそいつがどんな属性が得意かを分かりやすくしたもの。魔法には属性を付与することで、魔法の幅を飛躍的に広げることが出来る。例えば吐息に火属性の魔力を付与すれば口から火を吹くし、手のひらに込めた魔力に水属性の魔力を付与すれば手のひらから水が溢れる。


この世界には基本的な属性は八つ。六大属性の火、水、木、土、風、雷と二極属性の光と闇だ。水を司る『大洋の支配者』、木を司る『世界樹の大精霊』、土を司る『鋼鉄の大昆虫』、風を司る『竜渓の王』、雷を司る『万雷の獣』、光を司る『閑雲の門番』、闇を司る『冥獄の覇者』達の大昔に属性を創造した存在を称え、その存在の力を借りていると考えるのがこの世界の魔法の属性に対する考えだ。火を司る存在はどの歴史書を漁っても見つからなかった。きっと大昔にやらかして歴史上のタブーになって消されたんだろう。他の七つの存在がかっこいい名前をしているのだから火を司る存在がどんな名前なのか気になるところだ。


「シャローネ、今日はもう遅いから早く寝なさい」


疲れ切って精気を失ったジンガが声を絞り出した。


そりゃあこのテンションに週間も付き合っていたらそんな顔になるよな。お疲れ様です。




数多の星々に照らされることにより明るさを保つ平原とは変わり、数メートル程の木々が生い茂ることことでこの森は光が地に届かず暗黒の空間と化す。その暗黒を駆ける者は今夜も人知れず静かにこの森を支配していた。


「今日は魔物が少ないな」


<<当たり前だ。貴様がほとんど狩りつくしたではないか>>


「それもそうだが、いつもより森が静かだ。何か嫌な予感がするな」


俺は魔力を得てから屋敷の裏の森で魔物という、魔力を持つ獣達を狩って少し戦闘の練習をして強くなっていた。魔力を得てこの森に入った当初は同じ魔力を使った殺し合いというのに慣れずに苦戦をする敵もいたが、もう慣れた。この森の中では弱肉強食。強い魔物は弱い魔物を喰らう。そしてそれを更に強い魔物が喰らう。その繰り返しだ。


シダの視界の先に異常な存在が映る。


あれは……?なんだ??山羊…なのか?魔物とは違って魔力の揺らぎが少ない。魔力をコントロールを上手にコントロールしてるな。


ギンッッ!!!


山羊のような獣は首を凄まじい速度で捻じ曲げシダの視線を捉え、シダへ不気味な笑みを浮かべた。


こいつ、俺のことを探知しているな。それにあのポックリと開いた眼球のない目。何か禍々しいオーラを感じる。嫌な感じの正体はあれか…。


<<いかん!!気をつけろ!!あれは――――>>


刹那、シダの体は動かすこともできない程の力で縛られる。それを認識し、更に口角を上げニタニタと笑う。獣の笑いは静寂な森に不気味に響いた。


これは、拘束系の魔法だな。それにあの目から視線を移動できない。さて、相手は殺意をこちらに向けてはいない。が、あいつは殺意関係なく周りの物を破壊していくタイプの気が狂った奴だった場合。殺意を読めれば相手の動きも読めるのだが、無差別に殺し回る奴には通用しない…。


「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」


笑い声は徐々にシダへと近づいてきている。走ることもなく、ただひたすらに笑みを浮かびゆっくりとゆっくりと確実にシダの元へ近づいていた。


「あは………あは…あ..あ.ああああ!!!なtzzぜぜっぜわらっ笑わないい”い”い”い”い”」


さっきまでとは打って変わって顔をしかめ、ギシギシと歯ぎしりを鳴らしながらシダに猛突進を始めた。


シダへの距離があと数歩と近づいた時、


「お前、俺がこんな技で縛れると思ったか??」


山羊の獣の首は夜空へと舞った。



「何だったんだ?こいつ。こんなのがジンガいない時に屋敷に来てたらシャローネ達が死んでいたな。拘束系の魔法を使う魔物?いや、こいつは何かが取り憑いてたみたいだな。正気を失っていたみたいだ」


<<小僧!!気を抜くな。この獣には悪霊が憑いておる!!体に入られる前に今すぐ距離を置け!!>>


マジかよ。なんか体に入られて乗っ取られるってエッチだな。それはそれとして、距離を置―—。


首を刎ねた胴体からニュルニュルと血が集まり人の顔のような形を作り出した。


「あばっばばぁ。かっかぁあssあああ。だだ……じぃい”い”、、、ね””ぇ”」


血で作られた口は再び言葉を放ち、胴体を起こしシダに襲い掛かる。


え、キモッ。


『剣技 嵐斬り(らんぎり)


俺もジンガに剣を教えてもらっているから別に剣技が使えない訳ではない。ただ、魔力で強化しないと、この体では子供が剣を振るっているだけなので、シャローネに剣が届かないだけだ。それでもシャローネはジンガの抜刀術を使用した。俺もまだまだだな……。


獣の胴体は原型を留めることができない程の斬撃を浴び、肉塊と化した。肉塊の血だまりからは肉塊となった体を寄せ集め辛うじて人間の形をした()()が立ち上がろうとしていた。


「こいつ殺してもキリがないね。ゾンビみたいだ」


<<小僧が肉塊に変えたのだろう!!まったく人の話を聞かぬか…。こいつは人間の魂が憑いているはわかるか?>>


「どうやらそうみたいだね。人間の魂と同じ形の魔力をしているね」


<<そうだ。これを魂霊(ゴースト)という。小僧も森で何回か森で見たはずだ。この魂霊(ゴースト)というのは人が死後、魂を型取っていた魔力が魂から離れた時に残る魔力のことだ。こいつは魂ではないただの魔力だ。だが、魂に触れていたことで魔力そのものに記憶が少し残る。それにより、生存本能のようなもので魔力が尽きまいと他の生物に寄生するように体内に潜り込み乗っ取るのだ>>


「じゃあこいつは魔力そのものだから吸収すれば解決だな…」


<<は?>>


シダは躊躇なく肉塊に触れ魔力を全て自身の体へと取り込んだ。


<<バカ!!乗っ取られる可能性があるのだぞ!!>>


「なに、乗っ取られなければただの魔力補給だ。それに俺とあんたがいるこの体をこんなちっぽけな魔力で乗っ取るには無理がある。そうだろう?」


<<それはそうだが……。貴様は命の危機というのを知らんのか、まったく>>


「あんたがいてくれるから、俺は安心だ」


<<ふん!!当たり前だ!!>>


吸収を終え、その場を去ろうとしたシダの体は固まり、シダの意識が朦朧とする。


「あっ、やべっ。倒れ――――――」

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