第十二話 宿りし力
<<小僧、何故あの攻撃を避けようとしなかった>>
平原の孤樹にもたれる俺に声を掛けた。
「何故って別に避けようと思えば避けれたみたいに言うけどあの速さはまだこの体では避けれないよ」
<<魔力を使えばあの速さなど歩いてでも当たることはないだろう>>
「あのねぇ、何回も言ってるけど剣の技術を鍛える練習で、魔力なんて使ったら練習にならないの。ジンガには俺が魔力を使えることは隠してるんだからバレたらダメに決まってるでしょ??」
ディアブロシスは俺と契約をしてから俺の体の中にいる。宿主がどうたらってのはこういうことらしい。約束通りディアブロシスは魔法を俺に教えた。長寿な竜種だけあって魔力の運用、魔法の発動となにもかも詳しかった。魔法は詠唱化、術式化、どちらもきっちり学ぶことが出来た。
そして、俺は今まで魔力を使えることをジンガ達に隠し続けている。シルビットとシャローネは知っているが、二人には秘密にしてもらっている。シルビオットは他の人間に言えばシルビット自身も国の法律に反することがバレる。シャローネにはシルビットが俺に魔法を掛けてその魔法で俺が跳躍して黒竜の注目を集めることにより隙を作り、その隙でジンガが黒竜の首を取ったと誤魔化した。
俺の魔法が使えるという事実はシルビオット以外本当のことを知らない。そのシルビオットも俺がディアブロシスと契約をしたことを知らない。誰にも全容を知られず上手く隠すことが出来た。たまに、シルビオットにお願いして魔法の仕組みが記された魔法書を貸してもらうのは二人だけの秘密だ。
<<小僧、まさかそこまで強い存在でありなが普通の生活を送るつもりか?>>
「当たり前だ。魔法を極めるだけだからな」
<<クハハハハ!!しかしな、小僧の力は今やあのジンガ?とかいう男を軽く超えている。そんな存在を狙う輩は多くいるぞ。それでもなお貴様は普通の生活を送る気か?>>
「そんな時があればそいつらを倒すだけだ」
<<そういうことではない。小僧よりも強い存在が現れたらどうするのだ>>
俺より強い存在ね。たしかに存在するかもしれない。だけど、今すぐ目の前に現れて俺を殺しに来る、なんてことは恐らく無い。だったら現れるまでにそいつよりも強くなればいいだけだ。
「大丈夫だ。俺は今より何倍も何千倍も強くなる予定だ。だからあんたと契約したんだ。もし俺よりも強い奴が現れるのであれば、そいつが現れるよりも先に俺がそいつを超えてやる」
<<クッククック、クハハハハハッッハハハ!!!それもそうだな。よかろう!!我が貴様を強くしてやろう。我が貴様を最強にしてやる!!>>
「それは頼もしいな。これからもビシバシ頼むぞ」
<<おう!!>>
次の日
「シャローネ、急ぎなさーい。早くしないと遅れるわよー」
ダイシャのシャローネを呼ぶ声で目が覚めた。体を起こし、窓を開けると秋風が吹き込む。今日も空の色は青く澄み渡っている。
今日ものんびりとした一日が始まるのだ。
「あら、シダ様もう起きていらしたのですね」
後ろでミリスの声が聞こえた。
ミリスは今も毎日欠かさずに俺を起こしに来てくれている。毎日顔を合わせるのもあってか昔よりは会話は弾むようになり、廊下ですれ違えば少し話すぐらいの仲にはなった。
「早くしないとシャローネ様の見送りに遅れますよ」
「見送り……??今日はなんか予定あったけ?」
「聞いてないのですか?今日はシャローネ様の魔力授与と固有能力授与の為に、王都に行く日です」
あれれぇ??そんなのがあるなんて聞いてないんですけど?てか知ってすらないんだけど。何?固有能力って。教えてないよねディアブロシス君、君魔法とかそういう関係するもの俺に教えるって言ったよね~。契約したよね~、ね!!
<<まっまぁ落ち着け小僧。別にわざと貴様に教えてないとかいうわけではない………。うん、断じてそういうものではない…>>
そういう嘘は長生きしてるくせに下手だよなぁ。バレバレだよまったく。で、どういうのなんだ?魔力授与と固有能力授与ってのは。
<<あはははは、べっ別に我がそんな人間の儀式など知っていない訳が…、訳がぁ……>>
知らないならそう言えばいいだろ。まったくこのポンコツときたら。
「その魔力授与と固有能力授与ってのはどんなことするの?」
毛布とシーツを丁寧に畳みながらミリスが答えた。
「五歳になると王都の大教会に行って神様から魔力と固有能力を授かるのです。魔力や魔法は私よりもシルビオット様が詳しいと思うのでシルビオット様に聞いてください。固有能力というのは一人の人間が持つ超人的な力、魔法とは別でその人の体に宿る特別なモノと考えるのが一般的です。固有能力は故意に習得することが不可能なのと発動そのもには魔力を使わない点が魔法と異なります。なので魔法よりも詳しいことが解明されていないのですよ。その授与の儀式が長くて長くて、もう眠たくなるほどです」
固有能力、ね。魔法ばかりを調べて学んだから他の事はまったく知らないんだよなぁ…。もしそれが存在するとしたら俺にもそれが宿っているのか。魔力とは別の力、ワクワクが止まらない!!
「そんなにその儀式?が長いならシャローネお姉ちゃん途中で寝ていそうだけどね」
「いえ、儀式自体はそんなに長くないのですが、王国中の子供がそこに集められるので儀式は短くても人が多いので結果的に長く待つことになりました。ですが、シャローネ様は貴族なので優先的に儀式が行われるはずです」
そうなのか、王都はこっから結構遠いのにさらに待たされたりするのは結構大変だな。
「それに黒竜討伐を成した貴族の娘となればもっと優先されると思いますが…」
そう、あの襲撃はジンガが一人で黒竜を討伐して家族と屋敷の人間を命懸けで守り、無傷で帰還したというこれまたどっかの伝説みたいな話が国中に広まり、一件の直後はやたらと家庭教師をやらせて欲しいだとか、メイドにして欲しいだとか、この剣を買えば更に強くなれるとか、言ってわざわざこんな何もない田舎に来る人間が多かった。それも全部ジンガが追い払ったが今でもたまにそういう輩が来るぐらいにはジンガは有名人になった。
ミリスの言う通りその貴族の娘を優先するのは当然か。何せこの世界は貴族や階級に捕らわれた社会が作り上げられている。俺が五歳の時はあまりそういう目立ち方はしたくないのだが……、来年どうなるか。
「そろそろ、シャローネ様の出発のお時間です。私達も早く向かいましょう」
軽く部屋を片付けて俺達はシャローネの出発を見送ることにした。