第一話 Restart
鮮やかな色の桜の花びらが公園の地面を覆う上で俺はこの世界から旅立った。
ドタバタとリビングで母が仕事に遅刻しまいと、急いで準備する音で目を覚ました。ここ最近よく見る光景だ。数年前までは弁当を作り家族の朝食まで作っていた母も年齢と共に睡眠の質が落ち、眠剤飲むことで朝起きれなくなったのだ。
ガタン
玄関の扉が閉まる音が聞こえた。「行ってきます」「行ってらっしゃい」という会話があればいいが、母との関係はそう言い合える関係ではない。リビングに行き昨日の晩御飯の残りの野菜炒めを食べながら興味の無いニュースを見る。これも普段と変わらない。
食べ終わるとシャワーを浴び、シャンプーで髪を洗い、洗顔をしてスキンケアをする。スキンケア、2週間ほどまでは学校の女子の視線を気にしていたが、今は関係ない。何故なら今日から高校1年生なのである。と言っても習慣的にしているのだから今日だけしないというのは何か許せない。だから今日もいつも通り肌を綺麗に保つ。
癖毛の髪にヘアオイルを塗り、ドライヤーで乾かし、ヘアアイロンで癖毛を綺麗に伸ばす。こうしてようやく俺の朝は終わる。
今日は入学式。家の外では同級生たちの声が微かに聞こえた気がした。服を着替え、オシャレでもない使い切った鞄を肩にかけ家を出た。
まだ春というのに、陽の光というのは容赦がない。ジリジリと肌を照らし、汗をかかせてくる。しかし、今の俺にはそんなものは気にするものでもない。家を出て山に向かって足を進める。すると閑静な住宅街の中にある開けた道に出る。そこかまた山へ向かって歩く。ただひたすらに歩く。体感30分くらい経って息が切れ始めた頃、ようやく目的地への一本道に着いた。草木が生い茂った20メートル程の急な坂道を登ると、ひょっこりと恵比寿様のような見た目の置き物が道の分かれ目に現れる。
そして、更に険しい道を進むとようやく目的地だ。家の近くとは違い、体を桜の花びらと共にそよ風が横切る。誰もいない山の中にひっそりとあるこの公園こそが目的地だ。公園の奥の方にある2つだけの小さめのベンチに座り、自分だけが知っている綺麗な街並みをしばらく堪能した後。
鮮やかな色の桜の花びらが公園の地面を覆う上で俺はこの世界から旅立った。
少しの痛みと共に手首から温かいものがポタポタと垂れ、意識が朦朧とする中で、静かな公園に誰かの声が響いた。ゆっくりと目を閉じる。すると、その声は一段と大きくそして強くなった。
何を言ってるのか分からない。しかし、もうどうでもいいのだ。
それでも何故か、その声は自分を呼んでいる。そう感じた。