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本当はあっち側

作者: 一飼 安美

 この世界には、嘘が多い。信じちゃいけないことがたくさんあって、気をつけないといけない。みんな言っているし、みんな知っていることだから、そんなの言われなくてもわかってると思ってたんだけど。


「ぜーんぶ噓なんだよ」


 ……クラスのみんなにも、少し距離を置かれているその子は当たり前に言っていた。あれも嘘、これも嘘、ぜーんぶ嘘。びっくりしちゃうよね、気をつけないと!小学生の頃から変わってるなあと思ってたけど、もうすぐ高校に行くのにまだ言ってる。あの子って変わってるよね、ちょっと怖いよね、ってみんな言っていた。校庭の隅でアリの行列を眺めたり、ずーっと上を見て「雲が動いてる!」なんて言い出したり。何言ってんだろ、当たり前じゃん。だからみんな、あんまり関わらないようにしていた。真に受けちゃいけない、ああいう人は。そんな相手のお手本みたいな女の子だった。


 嘘、嘘、嘘ばーっかり!って不思議なほど言っていたから、そんなにたくさん噓つきがいるわけないよ、って言ったら、きょとんとしていた。ホントだ!ってあんまり感心するから、私はその後あんまりしゃべらないようにした。嘘ばっかりなのに、嘘つきがいない!変なの!……変なのは自分なのにね、って後でみんなで少しだけ言ってたけど、ホントにちょっとだけだった。話題に上げるような子でも、ないと思っていた。




 次にその子とあったのは、同窓会。十年も経ってからだった。私はあんまりしゃべりたくなかった。誰とも。大学を出て就職したけど、こんな仕事がしたかったんじゃない。がんばって勉強して、なんていうか、華やかに。すごい人になりたかった。今の毎日は、全然いいと思わない。時間に追われて寝る暇もなく、彼氏に当たったら喧嘩になって別れ話。出ていけ!って言ったら出て行ってしまった。私は毎日一人でうずくまって寝て、朝になったら嫌々仕事に出かける。こんなはずじゃない。私はがんばってきた。だからもっと、いいことがあるはずだ。気がつけばそれしか考えていなかった。みんなが楽しそうで、憎らしくて仕方がない。あんな変わり者が楽しそうにしているのも、気にくわなかった。この後みんなはカラオケに行くけど、私はもう嫌だったから帰ることにした。早く帰って休んで、また仕事。上手くいったら、今度こそいいことがある。そう自分に言い聞かせていた。そしたら、一瞬だけ聞こえてきた。


「ぜーんぶ嘘なんだよ」


 ……誰が言ったんだろう。聞いたことがあるような、そんな言葉だった。何も言い出せないままみんなは行ってしまい、家に帰ってからあの子だと気がついた。携帯を取り出して、番号を探したけど登録していない。誰かに聞くとか、幹事に頼むとか……いくらでもできたはずだけど、私は全然思いつかなかった。


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