韓国人の名前とキム・カッファン
キム・カッファンとその息子の奇妙な名前。そして実在したキム・カッファン氏についての話
キム・カッファンという男をご存じだろうか?
その名を知るという人のおよそ10割はゲームキャラクターを思い浮かべるだろう、そのウチの3割ぐらいは同名の人物がいて、そこから名を取ったというエピソードを披露も出来るだろう。その実在したキム・カッファンの方だけを知るという人は今の日本にはおそらくいないと思われる。
実在したキム・カッファン氏の話は後にするとして、ゲームキャラのキム・カッファンの家族の名をあげることにする。
本人:キム・カッファン(金甲喚)
妻 :キム・ミョンサク(金明淑)
長男:キム・ドンファン(金東煥)
次男:キム・ジェイフン(金在勳)
この名がおかしいと思われた方はいるだろうか?キム・カッファンが実在した人物の名を貰ったものだと知る人のほとんどはおそらくキム・カッファンは元々はキム・ハイフォンという名だったが、韓国からのお客様にそんな名前は有り得ないと言われ名前をつけてもらったというエピソードも知っている事だろう。だからこそ、この名前におかしな点があるのか?と言われても無いと思うかもしれない。けれど、やはりこの名前はおかしいのだ。
何がおかしいか指摘する前にだが、実在したキム・カッファン氏について。氏は朝鮮出身の力道山…ド外道であり日本プロレスの事を詳しく知る者のほとんどが嫌うあの英雄「力道山」の付き人として日本に渡ってきた人物。ゲームとは一切関係なく力道山の関係者としての側面でニュース記事にその名が乗っている例があるので、興味があるなら、以下の記事を参照だ。
https://www.yna.co.kr/view/AKR20131215063300073
カッファン氏自体、当時反社的な人物であり達人とまではいかないもののテコンドーの有段者である。SNKの元会長である川崎氏もこの当時反社的な存在でありプロボクサーであり、非常に「近い」人物であることを先に書いておく。
カッファン氏は警護その他身の回りの世話やら稽古相手として力道山に付き添っていたので、力道山亡きあとも新日本プロレスとの交流があってアントニオ猪木氏とは時々やりとりしていたと本人談。多分ホントの事だと思われる。
格闘技、プロレス関係者であったカッファン氏がコンピュータゲーム業界に足を踏み入れたきっかけは、プロレス人気が落ち込んできて仕事も収入も減ってきて「どうしたものか」と思ってたとこで、日本で「コンピュータゲーム」を発見したことによる。
「これだ」と。1980年代の韓国は日本のゲームを違法コピーしまくっていて、カッファン氏はSNKのゲームをコピーしていた。無法な世界ではあるけれど、そんな闇の世界だからこそルールはあってカッファン氏の縄張りたる「SNKのゲーム」を勝手にコピーする業者が現れたので、それを摘発した。そしてカッファン氏はビッコムだかビッコだか企業を設立しSNKと提携、正式に契約という流れ。SNKとしては違法コピーを「一応」摘発してくれた相手でもあり、放置も出来ないからなのか正式に契約したという事なのだろうと思うけれどこの辺りの詳細は定かではない。
ちなみに違法コピーはこの当時は正式なゲームメーカーでさえ当たり前なので、カッファン氏だけがおかしいという話ではないし、韓国がおかしいという話でもない。日本の企業も当たり前のようにそういう事をしていた真っ黒な世界です。
そして時は流れ、カッファン氏はテコンドーをメジャー化したいと考え、SNKが対戦格闘の新作(=餓狼伝説2)を開発するという話を聞きつけ、かき集めたテコンドーの資料をSNKに送付して「是非、新作にテコンドーのキャラを」とゴリゴリゴリゴリ。その提案自体は決してSNKにとっても悪いものじゃない。ソウルオリンピックでテコンドーの知名度はあがってきていた。餓狼伝説シリーズは最低でも2までは「基本的には実在する格闘技の使い手」を出していた作品、そこに詳細なテコンドーの資料まで送ってくれた。そうして出来上がったのが悪のテコンダー「キム・ハイフォン」だった。
そのビジュアルにカッファン氏はダメだし。出来上がったのが正義のテコンダー「キム・カッファン」という流れとなる。
ただし、「キム・ハイフォンなんて名前は無い」と指摘したのはカッファン氏本人ではなく、カッファン氏は実際にゲームが稼働するまで自分の名前がつけられたなんて知りもしなかったと語っていて、これもおそらく真実だろうと思われる。
では、「名前を貰った」というそのエピソードは何なのか?
当時のカッファン氏はSNKと提携していたビッコム社の会長。キム・ハイフォンの名の間違いを指摘したのはおそらくはビッコム社の幹部。
「キム・カッファン」だけでなく、「キム・ミョンサク」「キム・ジェイフン」「キム・ドンファン」の3人も全て当時のビッコム社の在籍していた人物なのである。
ちなみにだが、斬紅郎無双剣の韓国版にのみ登場する「キム・ウンジェ」、SNKではなくADK作品だが、ガンガン行進曲の「イー・ハエクン」、この2人もまたビッコム社に在籍していた人物。「イー・ハエクン」はビッコム社の初代か2代目の社長らしい。ADKからSNKに韓国人の実在する名前の話が出たんでしょうね、多分。
さて話が長くなったけれど、全員実在する韓国人の名前でありながらどこがおかしいのか?それは朝鮮における行列字の思想。基本的に親の名は受け継がない。
北朝鮮の話だけれど「キム・イルソン(金日成)」の息子である「キム・ジョンイル(金正日)」は親の「日」という字を受け継いでいるし、「キム・ジョンウン(金正恩)」はやはり、親の「正」という字を受け継いでいる。ただ、これは超例外…自分達が北のトップ一族であるという事を示すために敢えてやっていると思われる。
実際、そもそもが「キム・イルソン」も「キム・ジョンイル」も名前を途中で変えているからわかりにくい、そして、元々は「金正日」ではなく「金正一」と書いてキム・ジョンイル。Wikipediaなどでは、これを日本の間違いとしているけれど、そうではなく「金正一」だったのを「金正日」に変えたのである。
行列字は基本的には五行相生「木火土金水」の順に一代づつ名前に組み込んでいく。その位置は「固定」か「交互に変えていく」か。
実在したキム・カッファン氏は「金甲煥」で、2文字目の「煥」の火。その息子は位置固定であれば2文字目に「土」、交互に入れ替えるのであれば1文字目に「土」。実在したカッファン氏の場合は交互に変えるパターンだったようで、息子のジェイフン氏が「在勳」で、一文字目の「在」が土となる。
つまり「カッファンの息子ジェイフン」はおかしくない。けれど「カッファンの息子ドンファン」はおかしいのだ。同じ世代は同じ文字を使う。
先の「キム・ジョンイル」であれば、弟に「萬一」「成一」「平一」など、二文字目に「一」が入る。これは兄弟だけでなく従兄弟も同じ。同じ一族の同じ世代であれば同じ位置に同じ漢字が使われる。いや、使われていたというべきだろうか?
現在の朝鮮ではこの意識は薄れてきていて、そもそも漢字表記出来ない名前も増えてきている。ただし、ゲームに登場するキム・カッファンのような堅い人であればその伝統を守っていると考えていいだろうと思える。
ちなみに行列字の五行相生はあくまでも基本的にという事で、その一族一族で「一~十の数字」であったり十二支であったりと結構色々なパターンがあるようで、「一」が使われていても別に不思議はない。
さて、それを踏まえて「キム・カッファン(金甲煥)」と「キム・ドンファン(金東煥)」はどのような関係か?
はい、同じ世代の人間であり、親子では「有り得ない」んですよ。
実在したキム・ドンファン氏は何者なのかというと、キム・カッファン氏の弟とのこと。兄弟かどうかわからないもののビッコムとその関連会社には「キム・ヨンファン(金英煥)」「キム・デファン(金大煥)」なんて名前も見受けられます。
ちなみにキム・カッファン氏が設立したビッコム社は旧SNKより早く20世紀末には廃業に追い込まれていたものの、現在どうやら旧ビッコムの権利の最低でも一部は引き継いで同名で復活して「極超豪拳」の再販分の通販なんかやってますね、今のとこ。
日本のネット情報にある「ウノテクノロジー社(旧ビッコム社)」はガセネタ。元ビッコムのキム・ジェイフン氏が社長をしていたというだけ。元ビッコムの人間が社長なので無関係とまではでは言えないれど企業としての継続性は無いはず。
ちなみにファイトフィーバーのマスターテクーこと日本名マスタータエクックは実はハンとキムの実の父。つまり、ハンとキムは実の兄弟という設定のようですよ、本人達は知らないけど。正直心底どうでもいい。その設定がゲームに活かされてるとは思えない。
ただテクーが大会に出てきた理由は息子の成長を見たくてという事らしい。…心底どうでもいい。