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第二十二話 ② 再時計

「なるほどですね……」

 ソフィは手元のメモ帳に書かれた文字を見ながらつぶやく。

 質問のしづらい事項が多かったが、時間をかけた結果、そこそこ情報が得られた。


 非循環型時計『再時計(リ・クロック)』(の複製品)

 スキル『複製』によって作成

 制作日は7日前

 本物の方は二十年前

 かけられている術式については情報ナシ


「まぁ、つっ込みどころはいっぱいありますけど……どう思います?」

 俺としては、一つ腑に落ちたことがある。


「20年だと、ちょうどこの時計が一周するくらいの時間なんだよな」

 ソフィによるとこの時計は一日6秒くらいで動いていたようだが、

 この時計がつくられたのが20年前だという情報を考慮すると納得がいく。


「20年で短針が一周するってことですか」

「そう、だけど多分ただ進むのが遅い時計って訳でもなさそうなんだよな」

 ソフィは首をかしげる。


「“非循環型時計”ってあるってことは、おそらくこの時計は一周したらその役目を終える……って考えられるのかなって」

 ソフィはさらに首をかしげた。

 俺の説明が悪いなこれは。


「普通の時計ってのは、繰り返される一日を表し続ける……

 つまり循環する時間を表すんだよな。

 それに対してこの時計の“非循環型時計”って名前は、

 おそらく繰り返さない時間を計るっていう意味……だと思う」

 

 ソフィがあまりにも良く分かっていない顔をするものだから、自分でも自信がなくなってきた。


「あまり良く分からないんですけど……

 この時計はこの20年を計るためだけにあるってことでいいですか?」

「そう、そういうこと。すまん、わかりづらくて」


 ソフィはメモに書き足す。

 そして今、手元の時計はまさに12時になろうとしているところだ。


「12時になったら何かが起きる……とかでしょうか。」

「まぁ、それは考えられるな。あと四五日(しごにち)だし、気長に待てば分かるんじゃないか」

 あと四五日、という言葉にソフィは反応する。

「いや……まさか……偶然でしょうか……」

「何が?」


 訊き返すも、ソフィはしばらく考える素振りを見せた末に

 なんでもないですとはぐらかされた。

 意味深なことを言うだけ言っといてそりゃないだろ。



「ってか、一つ気になったんだけど……この時計って本物と同じ動きしてるんだよな?」

「そう……ですね。変わらずじりじり動いてますから」

「じゃあ、あの複雑な術式はこの時計を動かすためのものじゃないってことになるな」


 確かに……とつぶやいてソフィはまた、手元のメモに書き足した。

 あの時計には、20年の時間を計る以外にも何か役割があった……

 というより、そっちが本命だったようだ。


「私が気になったのは……ここ、スキル『複製』によって7日前に作成ってあるじゃないですか」

 ソフィはごちゃごちゃになってきたメモを見ながら言う。

「これって変じゃないです?」


 ……そうか?

 俺には何が変なのか分からないが。


「私が懐中時計を盗まれたのって4日前ですよね。

 でもこの複製品は7日前に作られてるんです」

「……計画的に盗みを働くんだから事前に複製品を用意しとくのは普通じゃないのか」

「それはそうなんですけど……問題はそこじゃないです」


 ソフィは一度、スキル『複製』の効果について訊いてきた。

 結果は、対象物に触れることでその物体をコピーするというものだった。

 まぁ、そんなものだろうな。コピーするのなら視認か接触のどちらが条件にはなるだろう。

 なんだか金儲けに活かせそうでうらやましいスキルだ。

 魔術はコピーされなかったところを見るに、おそらく物質的なコピーに限るのだろう。


「……で、なんなんだ?」

 スキルのことは分かったが、ソフィの言いたいことはいまだに良く分からない。


「このスキルで時計をコピーするときには対象物に触れる必要があるんです。

 となると、ちょっとおかしくないですか」

「……あぁ、そういうことね。

 盗みをした日に本物をさわりながらコピーを作ったならまだしも……

 7日前となると矛盾が生じる……な。確かに」


 ソフィは頷いた。

「先輩も知っての通り、

 基本的にはわたしはシャワーを浴びるときでさえ 

 この時計はつけっぱなしにするんです。

 つまり、その日以外に時計に触れた人なんていないはずです」


 確かこの時計は何をしても壊れないという話だった。

 きみも知っての通り、なんて言われたがシャワーの時くらいはずせよ。

 ともあれ。


「それはおかしいな。どうすればそんなことが起こりえるんだ?」

「私の見立てでは……」


 言ってソフィは俺に、この時計がこの世に一つだけのものかどうかを聞いてきた。

 結果は『現在、複製を除いて3つ存在します』とのことだった。


「そういうことですね。

 相手はこれのうちの一つをすでに持っていて、

 事前にその複製をつくっているんだと思います」

「となると、そいつらはすでに一つ持っているのに、

 もう一つソフィのものを盗んだことになるな」


 南総里見八犬伝みたく、三つそれを集めると何かが起こる……とか。


 何故?と言うところまでは俺のスキル一つでは調べきれない。

 時計を盗んだ目的は?なんて質問は答えてくれないらしい。

 つくづく融通の利かないスキルだ。


「結局、核心を突いた情報は得られなかったな」

 ソフィは分かったことを書き込むのに忙しいようだった。


「そんなことはないです」

 メモをする手を止めずにソフィは続ける。

「特に、非循環型時計の話は興味深いです。

 残りの時間に関しては、一考の余地があるでしょうし」


 それと……とソフィは言葉を続ける。

「もし先輩の見立てが正しくて、

 この時計が本当に20年という時を計っているのだと仮定すると……

 おそらくそれは人為的に決められた何か約束事がその時に起きるんだと思います」


 人為的な約束事……。

「というと?」

「20年って言う長い時間を計るとなると、

 それはおそらく予言の類でないことは確かです。

 それでかつ、この世に同じものが3つあって、

 それらがおそらく同じ時間を示してるとなると……

 複数人の間で、何かの取り決めが行われていると考えるのが自然です」


 ……そうなのか?

 話を聞くと、占星術などの占いは正確性や絶対性は保証されているものの、遠い未来のことについて予言されることというのはシステム上ないらしい。

 長くて一年前後が限界であると、研究で示されているという。

 そんな根拠を持ってこられたら反論は出来ないが……


「つまり……20年後の約束の時を忘れないようにするためのもの……ってことか」

 ソフィは頷く。

「その推察が一番理に適っていると思います。

 ただ、そうなるとそんなものをわざわざ盗む意味が分からなくなってくるんですよね」


 なにか大事な予言を示す時計、とかなら分かるがただの約束事の時間を示すだけであれば、いくらでも代わりが効く。

 それこそ今俺の手の中にあるこの複製品のように。


「なら、この時計には何か時間を計ることの他にも役割があった……

 って説が濃厚になりそうだな」


 本物にはかけられていた複雑な術式……それがカギを握ることになる。


「これらの情報を総合するに、時計が何を示しているのか一つ心当たりはあります。ただ、問題はその先になりそうですね……」


 手に持ったペンをくちびるに押し当てながらソフィは思案する。

 そこから先はいくら考えても進展が無かった。

 何しろこの状況ではヒントが全くない。

 時計の示す時間、そしてそれが担うもう一つの役割。

 なんなんだろう。

 


 悶々としながらも、今日の所は明日に備えて寝ることになった。

 ソフィはうつ伏せのまま伸びをして、卓上ランプに手を伸ばす。

 ……が、全く届いていなかったのでかわりに手を伸ばして消してやる。


 明日のことを考えながら、俺はとりあえず目を瞑る。

 明日の夜にはついに目的地であるガルドに到着する予定だ。

 魔王の拠点、魔王城に最も近い街ガルド。

 そこで俺たちはリェルド高等魔術院に行って……


 ……あれ?

 そういえば、未だにガルドに入る方法について何も聞いていない。

 等級は未だに銀に達していないし、お金もほとんどなくなってしまった。

 ソフィはどうするつもりなのだろう。


 そんなことを考えていると、いつのまにかソフィの静かな寝息が聞こえてきていた。

 今から起こして話を聞くわけにもいかないだろう。


 ソフィはうつぶせのままベッドの上で寝てしまったようだ。掛け布団を下に敷いたまま。

 この世界には当然エアコンなんて便利なものは無い。

 この部屋は外よりは多少暖かいが、それでも布団もなしで寝たら風邪をひくだろう。


 俺は仕方なしに自分の掛布団をかけてやる。

 荷物の中から布類を探し、自分の上にかけて寝ることにした。


 律さんがソフィの姉なら、こういうことも律さんの仕事だったのだろうか。

 そんなことを考えながら、目を瞑った。

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