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第二十一話 ② 姉妹と二律背反

 ギルドというものはどこも騒々しく、血気盛んなものらしい。

 この街はどこへ行ってもおしゃれで物静かな雰囲気だったのに、

 この中だけは治外法権と言わんばかりのにぎやかさだった。


「やかましいはずなのに、こっちの方が落ち着くのはなんででしょうね」

 ソフィが呟く。

 正直なところ俺も同感だった。

 上品で静謐な空気、というのは性に合わない。


「クエストを受けにいらっしゃったのですか?」


 振り向くと、デュオファンドさんが立っていた。

 今度は先ほどの不格好な風呂桶は持っていない。


「あぁ、デュオさんもギルドにいたんですね。

 今ちょっと手持ちが足りなくて……

 日銭だけでも稼ごうかと思ってたんです。

 そうだ、さっき借りたお金。ありがとうございました」


 言ってソフィは財布から硬貨を取り出し、手渡す。

 お気になさらずと言いながらもデュオファンドさんは受け取った。


(わたくし)の方は、やっと姫……律様と合流することが叶いまして」


 言ってデュオさんは後ろをみやる。

 俺は言われるまで気が付かなかったが、デュオさんの後ろに人がいる。


 見覚えがある。

 長い黒髪に、ソフィより少し上の背丈、気の強そうなきりっとした顔立ち……


 間違いない、アルネの街で出会った律さんだ。

 なにかとソフィの身の上話をせがんできたかと思えば、

 魔王軍が近くに来ていると聞けば意気揚々と突撃していく……

 誤解を恐れずに言えば、おかしい人である。


 律さんは、ソフィの姿を認めると、すぐに目を背けた。

 しかし思い直すように首を振り、遠慮がちに口を開いた。


「久しぶり」

 あれだけソフィのことを気にしていたくせに、ずいぶんあっさりとした挨拶。


「お久しぶりです。二年ぶりくらいになりますか……お元気でしたか? 姉様」

 なんともぎこちなく他愛のない会話が続く。

 ……っていうか、今姉様って言ったか?


 それにしても互いにやりにくそうに話している。

 ぎこちないというか、気まずそうというか……

 二人の間の関係はどうなっているのだろう。


「そうだ、紹介しますね。こちら佐伯先輩です」


 ども、と俺はなるべく自然に頭を下げる。

 “初めまして”という言葉を使うとスキルに咎められそうだったので、意識して避けた。


 ここでは初対面のフリをするべき……だよな?

 一度話をしたことがあるとはいえ、ソフィには黙っているようにと釘を刺されている。

 色々おかしくなるので、ここは何とか気を付けて話を合わせていくしかない。


「はじめまして。ソフィアの姉の律。以後よろしく」

 律さんは俺から目を逸らして言う。

 ……この人、嘘が苦手なタイプだな。


 ソフィと律さんはなんだか気まずそうにしているし、

 俺は俺で律さんとは初対面ではないのでそれが気まずい。

 ちょっと早々に話を切り上げる必要がありそうだ。


 と、俺の紹介をしたところで話が途切れた。

 切り出すのはここしかない。


「俺たちはこれからクエストを受けるつもりなので……」

 またお会いで来たらいいですね……と俺たちがその場を去ろうとする。


 ソフィと律さんが同時にほっと息をついた。

 事情は分からないが、やはりこのまま一緒にいるのは双方にとって気まずいのだろう。

 俺から切り出してあげてよかったな。と、安堵していると。


「ソフィア様とツキ様はお二人でクエストを受けるおつもりだったのですよね?」

 何を思ったのか、デュオさんは二人の顔を見まわして言った。

 戸惑いつつも、俺たちは顔を引きつらせて頷く。


「それでは、私たちもご一緒させて下さい。

 これならつもる話もゆっくりとできるでしょう」


 おいおい。何をしてくれてるんだ。

 こんな微妙な雰囲気なのにも関わらず、デュオさんはにこにことしている。

 肝が据わっているのか、空気が読めていないだけなのか。


 安心しきっていた二人姉妹は、余計なことをしてくれやがってと言わんばかりの顔をしていた。

 何とかしてくれと、俺に向かって無言の圧力をかけてくる。

 二人してなんで俺任せなんだよ。


 俺自身、この二人にどんな関係があるのかはよく分かっていないので、

 やんわりと当たり障りのないところから攻めていくしかない。

「あの……デュオさん、俺とソフィってまだそんなに強くないんですよ。

 だから難しいクエストは受けられなくて……

 ちょっと下世話な話になるんですが、4人で分けるには報酬金がたりないんですよ」


 ソフィはぶんぶんと音が鳴りそうなくらいに首を縦に振っている。

 そういうわけで……と切り上げようとした。


「いえ、私どもは報酬金をいただくつもりはございませんよ」


 安心してくださいとデュオさんは微笑みかける。

 こんな時まで聖人ムーブをしなくてよろしい。


「い、いえ、そんな……手伝ってもらうのに報酬を渡さないなんて、悪くてできませんよ」


 そう食い下がってみる。

 手伝うのであれば報酬を渡さないと気が済まないけれど、

 報酬は少ないから分けるとしいということを主張する。

 どうだこの二律背反、貴様には破れまい。


「そうですね……」


 少し考えこんでいる様子だ。

 いいぞ。このまま押し切れるか……


「それでは、もっと高レベルのクエストを受けましょう。

 それなら私どもに報酬金を分けてくださっても問題はないでしょう?」


「そんな、お忙しいでしょうしご迷惑は……」

「大丈夫です。喜んでお手伝いさせていただきますよ」


 ……だめだこりゃ。


 申し訳ないけど諦めて二人に頑張ってもらおう。

 姉妹二人の目を極力見ないようにしながら、俺は渋々承諾した。

 見てはいないが、それでも凄い圧を感じる。

 なにをやっているんだと言わんばかりだ。

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