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第二十話 ③ 風の魔術

「少し肌寒くなってきましたね」

 ソフィが手をこすり合わせ、その中に息を吹き込んでいた。

 王都を出た時には特に気にならなかったが、今朝起きたときから少し肌寒さを感じている。


 そもそも、この世界に季節はあるのだろうか。

 あるのだとすれば、この星も地球と同じように地軸が傾いていることになる。

 まぁ、恒星に対して全く傾いていない惑星なんて探す方が大変なのだろうが。


「そうだな。何か重ね着できるものがあればいいんだけど」

 ソフィはいつものローブを羽織っているのでそこまで薄着という訳ではないのだが、寒がりなのだろうか。


 俺と言えば、王都にいたころに適当に買った安い服を二枚重ねて着ているだけだ。

 実際のところ、持っていないものはどうしようもないのだが。


「昼頃にはルティスに着く予定なので、そこで買いたいですね」


 俺も防寒着の一着ぐらいは持っておきたいな。

 と、俺はソフィの提案に賛成しかけたがちょっと待てよと遮る。


「今、俺達ってその服を買う金もないんだよな」

「そう、でしたね。……まあでも、資産が何もないわけじゃないですし。

 とりあえずは適当なものを売ったり、

 場合によってはクエストなんかをしたりすれば大丈夫ですよ」


 それでなんとかなればいいんだけど。

 そうだ、と俺は一つアイデアを思い付いた。

 魔法で炎が出せるなら、これで暖をとれないだろうか。


 ぼうっと音を立てて俺の右手の平の上に小さな炎ができる。

 左手をできた炎の近くにかざしてみた。

 確かに暖かい。

 しかし、これではライターで暖を取っているようなものだ。


「何してるんですか?」

「いや……ほら、魔法の炎でなんとか温まれないかなって思ってさ」


 ふぅんとソフィは相槌をうつ。

「先輩は今、使えるのは炎だけでしたっけ?」

「今はそうだな。……なにかあるのか?」

「応用にはなるんですけど、暖を取るための魔法みたいな……

 生活に役立つようなものは結構研究されてるんですよね」


 へぇ。そういうのもあるのか。

 できれば結構便利そうだけど。


「どうやって?」

「理論としては、風魔法との組み合わせです。

 簡単に言うと……風魔法で自分のまわりに空気の膜を作って、

 その中で空気を温めてやるっていう。

 でもあれですね、初学者には普通に厳しい話でした」


 ひよっこの俺には出来ない、と言いたいのだろうか。

 それはそれで癪だな。


「分かんないけど、風魔法さえ覚えればできそうじゃないか?」

 俺の適当な言葉にソフィはため息交じりに言う。

「その風魔法は炎の魔法の応用によるものですから、

 まずは炎魔法を完璧にしないといけないんです。これがかなり大変で……

 今先輩は、手のひらの上に炎を出せますよね?」


 俺は頷く。

 たった今やったばかりなんだから当たり前だ。


「なら、手の甲には出せると思います?」


 ――どうだろう。

 確か、前にもらった本にも似たようなことが書かれていたような……。

 俺はいつもと同じ感覚で魔力を集め、手の向きだけを逆さまにして炎を出してみた。

 ぼっと音を立てて、いつも通り炎が出た。

 手の甲の上に出しているのでなんだか不格好だが。


「そう。別に炎は手のひらの上じゃなくても出せるんです。

 それでも多くの入門書には、

 手のひらの上に出させるように書いてあることが多いんですよ。

 その理由は……わかります?」


 何だ急に。抜き打ちで質問してくる先生は嫌われるぞ。

 まぁでも、多分覚えている。


「人間が最も意識して器用に使いこなせる器官である自身の手は、

 魔力を集中させるイメージがしやすいとされているから……だったような」

「その通りです。なかなか勉強熱心ですね」

「どうも」


 勉強しておいて良かった。

 一応あの日から、魔導書は最後まで読み直しているからな。


「それでですね。基本的に炎の生成そのものはどこでも出来るんです。

 ただ初心者にはイメージがしにくいだけなんで。

 それで生成は手の甲や足の裏とかだけじゃなく、

 実は自分から少し離れた場所にも生成できることが知られてるんです」


 離れた場所。

 自分の体内にある魔力を、離れた場所に集中させるのは少しイメージが難しい。

 実際俺が練習していた時も少しやってはみたが、

 全然うまくいかなかった記憶がある。


「自在に炎の発生場所を変えられるようになったら、

 そこに空気間の温度差が生まれます。

 温度差が生まれれば、風が生まれます。

 これを瞬時に操るのが風魔法になるわけです」


 正確に言うと風は温度差によるのではなく、

 温度差によって生まれる気圧の差によるものなのだが……

 温度差によると考えてもあまり問題はないから黙っておく。


 この文化レベルだと気圧という概念があるかどうかも怪しい。

 大気圧の概念は確かパスカル先生が証明したものだから、

 中世レベルの文明だと判明していないのもしょうがない。


「にしても結構工程が面倒だな……」

「ですよね。

 結構めんどくさいし、何より必要な技術があまりに高度なのであまり実用的じゃないです」


「そっか……。もっとこう、炎の時みたいに魔力をそのままエネルギーに変換できないもんなのか?」

「そういうものもあります。

 でも、これは原理が違うせいで小回りが利かないんですよね。

 温度差を操るのではなく魔力をそのままエネルギーに変換する方法ですから、任意の一点から風を“放出”することしかできないといいますか」


 ソフィは手を広げるポーズをして何とかイメージを伝えようとしている。

 一生懸命だ。


「それをなんとかして自由に操れないもんなのかね」

「んーとですね……。炎の魔法による方法だと、

 風の発生点と終点の二点を定めることで、方向の機敏まで操れるんです。

 それと比べると、一点から放出するだけの風魔法はどうしても精密な運用は難しい……というイメージは伝わりますか」


 なるほど。上手い例えが思いつかないが、何となくイメージはついた。


「そうなると確かに小回りが利かなそうだな」

「そうなんです。

 ただ、それでも魔力変換の方法は割と簡単に習得できますし、

 戦闘に使う分にはこっちで充分なので割と風属性を好んで使う魔導士も多いみたいですよ」


 確かに、戦闘面だと小回りが利くかどうかより純粋な威力と瞬発力の方が重宝されそうだ。

 ただ……とソフィは続ける。


「風魔法は私の魔法倍化の設置魔法と相性が悪いので、

 私としてはやっぱり炎をもっと練習してほしいですね」

「……風魔法だとなんで相性が悪いんだ?」

「考えてみてくださいよ。

 風なんてただでさえ目に見えないものなのに、

 それが増えても何の圧力にもならないですよね?」


 確かに。

 俺が以前に見た炎魔法の倍化は迫力があったが、

 風を何十倍にされたとしても良く分からないだろう。


 相手に警戒されないという意味では良いかもしれないが、

 相手の戦意を喪失させるために立ち回るのも大切な考え方だ。

 強そう、ヤバそう、と相手に思ってもらうのは戦いにおいては大事な要素になりうる。


 

 魔法の話題になったついでに、アルネに着くまでの間魔法の練習をすることになった。

 ずっと前から話をしていた、追尾(ホーミング)の魔法である。

 そのためには魔力感知やらなんやらと、色々と手順を踏まないといけないとの事だったが……



 歩いている間、俺はずっと魔法の練習を続けていたおかげで、

 追尾(ホーミング)を完全に習得することに成功した。

 それに付随して、魔力感知ももちろん習得している。


「魔力感知は本来、索敵にも使える魔導士の必須技能のひとつとされてるんですけどね。

 先輩はもっと優秀な索敵スキルを持っているのでその恩恵は感じないでしょうね」


 ソフィはそんなことを言うが、本当は全知全能のスキルなのにただの優秀な索敵スキルとしてみなされていることが少し不憫だ。


 そしてアルネの街にたどり着いたころには、

 炎の魔法の出力効率も少しだけ改善できるようになっていた。

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