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第二十話 ② 極度の秘密主義

 ハイドが、スクロールを置いてった?

 あいつ、金は盗む癖に貴重なアイテムくれるのか?


「……あの子は盗賊という役職ながら、義賊を自称して活動しているんです」


 それは昨日聞いたな。

 でも、俺の知っている義賊とは違うみたいなことを言っていたような気がする。


「ただ義賊と言っても、悪徳なお金持ちから盗んで貧乏人に配るみたいな事はしないんです」


 そうそう、そんな事を言っていた。

 じゃあなんなんだよ、とは思っていたが。


「あの子には変な信条があるみたいで……

 貧しい人であろうが豊かな人であろうが万人から平等に盗んで、

 その盗んだ物以上の市場価値のある物を置いていくという特徴があるんです」

「なんだそれ、何の意味があるんだ?」

「……分かりません。

 あの子は徹底した秘密主義なので、その意味については教えてもらったことは無いです」


 本当に意味の分からない行動だが、確かに誰も損はしていない。

 なんなら盗む本人が一番損してるような。


「それと、置いていくものはインゴットや宝石のような、

 即物的な価値のあるものじゃないのも特徴ですね。

 大抵はそれを使えば自分の可能性を開くことが出来るものなんです。

 たまにそれを理解せずに、市場に売っちゃう人もいますけど」


 どうやら彼女には彼女なりの美学があるようだ。

 どうにも盗賊の考えることは良く分からない。


 となると、俺の枕元に置いてあったICレコーダーも、

 実は俺の可能性を開くことが出来る大切なものなのだろうか。

 ……いや、流石にそんなことはないよな。


「じゃあ……盗まれることが分かってたのに何もしなかったのは、

 今回で言うスクロールみたいな、見返りが欲しかったから……なのか?」

「いえ。昨夜はただ、このことを先輩に伝える意味はないなと思ったんです。結局、あの子の盗みは防ぎようがないので」


 あ、そういうこと。

 彼女の盗みは、本人を殺しでもしない限りは止められない……

 そんな感じのことを昨日言っていた。

 それにしても一言くらい言って欲しかったような気もする。


「確かどんな物もすり抜けるとか、そんな感じのスキルを持ってるんだっけか」

「んーとですね。

 一応、推察されている能力がそれってだけで、これは正確な情報じゃないんです」

「でも、おおかたはあってるんだろ?」

「まぁ、どんなものもすり抜けることが可能になる能力を持っているのは確かですが……」


 やけに遠回しな言い方をする。

 それができることは事実なのに、慎重になる理由が俺には分からない。

 ソフィは少し考えてから言う。


「スキルについてはあの子自身が明言していないのもそうなんですが、一つ疑問があるんです」


 疑問?


「先輩はあの子が道中、荷物を持っていなかったことを確認してますよね?」


 俺は頷く。

 確かに彼女はバッグやポーチのようなものを身に着けていなかった。

 ハンチング帽に動きやすい服装をしていただけだ。


「なら、あの子は一体どこからこのスクロール入りの筒を取り出したんでしょうね」


 ……なるほど。

 言われてみれば確かにそうだ。


「でも、それくらいの物なら何とか無理すれば隠し持つことも不可能じゃないんじゃないか」


 俺は少しだけあがいてみる。

 しかし、ソフィはさらなる疑問をぶつけてきた。


「これだけじゃないんですよ。

 あの子が何も持っていなかったというのは確認してますよね?

 手ぶらの状態で、何の食料も持たずに歩き続づけられると思います?」

「……確かにな」


 この危険な道中を、食料も金も持たずに何日も歩き続けるのは無理だ。

 それに、どんなに少量でも食料は普通かさむはずなので、

 自然に身に着けて隠すなんてことはまず無理だろう。


 俺はふと、ハイドがどこからともなく飲み水を取り出して、

 また同じくしまっていたことを思いだす。

 あれが盗賊の固有技能ではないとすると……かなり不思議だな。


「とまぁ、こんな感じの謎が前から言われているんです。

 ですからこれも。ハイドのユニークスキルによるものじゃないかって話なんですね」


 なるほどな。それでスキルの詳細が確定しないわけだ。

 それでですね、とソフィは少し髪を弄りながら話を切り出した。


「先輩のスキルを使えば、あの子のスキルの情報くらい簡単に分かるはずなんです」

「……なんで? スキルが知れるのって魔物とかダンジョンとかの情報だけなんじゃ……」


 言いながら俺はある仮説にたどり着く。

 もしかして、と思わず口に出してしまう。


「ハイドって実は人間じゃなくて、魔物の子で……?」

「違います。何言ってるんですか」


 全然違った。

 ごめんハイド。


「そうじゃなくてですね、先輩のスキルに関する認識が誤ってるんです。

 というか、意図的に誤解をさせてたんですけど……

 『正直者』で知れる情報の範囲は魔物やダンジョンの情報に限らないんです」


 ……おいおいマジかよ。ここに来て?


「割とひやひやする場面はあったんですけどね。

 例えば魔王軍の襲撃の時、

 うっかり向こうの総大将の名前を訊いてしまったことがあって……。

 先輩は知らないみたいだったので助かりましたが。

 魔王軍幹部のシアは魔物ではなく普通の人間ですから、

 答えが出ること自体おかしいんです」


 ……そんなことあったっけ。殆ど記憶にない。


「昨日なんか、魔物が馬車にいるか訊いたときにスキルが

 『荷台には魔物が五体、人間が一人います。』なんて答えてましたよ。

 訊いても居ないのに勝手に答えるものですから、平静を装うのに必死でした」


 言われてみれば……確かに。あの時は魔物の事だけでなく、関係のない人間の情報まで答えていたな。

 流石にこっちは覚えている。

 しかしそれなら、かなり色んなことに応用できそうな気もするが……


「ていうか、何でそんなこと黙ってたんだよ。

 早い段階で教えてくれてれば、他のもっと使い道があったんじゃないのか」

「そう……ですね。これも父から口止めをされていた部分だったので。

 それが三日前になって、

 父から『覗かれる心配は無くなった』とメッセージがあって……

 とにかく、これからは今まで隠さなくてはいけなかった情報も徐々に話していけるはずです」


 三日前というと、なんだか心当たりがある。


「なんか……鼠と同じことを言うんだな」

 思わず呟いた独り言にソフィは首を傾げるが、特に言及することもなくそのまま話を続けた。


「で、ここからが問題なんですけど……

 先輩なら知ろうとすれば、あの子が秘密にしていることを知ることが出来ちゃうんです」

「……なるほどな、確かに」

「しかもそれだけじゃなくて、あの子の出身や本当の名前、能力、パラメーター、特技、性別、年齢、住所、持ち物、装備、財産、親の名前……まぁ殆ど全て、知ろうと思えば分かってしまうんです」 


「でも……それってハイドは嫌がるんじゃないか?本人は言いたくないから隠してるんだからさ」

「そうです! 私はそれを言いたかったんです」

「そっか。でもあいつだって人に知られたくないから秘密主義なんだろうし、

 流石に無理やり踏み込んで調べるなんてことはしないって」


 現代に生きる身としてはプライバシーが重要なことくらい重々承知している。

 俺の言葉にソフィは胸をなでおろした。


「気になるのはやまやまなんですが、

 自分で言い出さない限りは変な詮索はやめてあげて欲しくて」


 言われなくても変なことはしないつもりだ。

 そんな事より……俺には先ほどのソフィの発言に気になることがあった。


「……ソフィってハイドの性別知らないのか?」

 出自や本当の名前を秘密にしているのは知っていたが、まさか性別まで……


 ソフィは無言でゆっくりと頷いた。


 まじかよ。

 俺は勝手に心の中ではハイドのことを彼女(・・)と呼んでいたのだが……

 ハイドの秘密主義は、俺の想像以上のものだったようだ。

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