第十九話 ② 無限回のリトライ
「そういうことです。
今やもう転移者に敵う現地出身の冒険者はほとんどいないので、
よほど特別なスキルに目覚めない限り、大抵は冒険者になろうとしないんです」
転生者の召喚がされるようになってからは、
スキル支持上主義とでもいうべき世論になっていったという歴史があるらしい。
まぁ当然の流れだ。
「つまり、その転移者たちの唯一の取り柄であるスキルを無効化してやると……
皆役立たずになるわけですね」
スキル無しじゃまともに戦えない冒険者ばかりになっているからこそ、
強力な一手になっているって事か。
実に合理的なやり方だ。
ローコストでかつ、最大限の効力を発揮している。
「じゃあ、俺みたいなやつだと相性最悪だな」
「いえ、先輩のスキルは違います。
無効化される結界の外から、事前に使っておくことができますから。
たとえは勇者の“不死鳥の加護”や、デュオさんの“治癒”のような、
戦闘中に使う戦闘向きのスキルとは違います」
一瞬「デュオさん」が誰か分からなかったが、
そういえば前に会ったとんでもなく強いイケメンくんの名前だったな。
「これがまた問題になっていて……
王国は戦闘スキルの持ち主を求めて召喚を続けてるんですが、
最後に必要になるのは先輩みたいな戦闘向きかどうか怪しいスキルになってくるんです」
確かに。
王国に認められた戦闘向きの強いスキルを持つ転生者は、
最終目的である魔王攻略には絶望的に向いていないというジレンマ。
まぁ流石に、当時の正直者のスキルに可能性を見出すのは無理があるが。
「使えないって城を追い出されたら、
それでも冒険者としてやっていこうとはならないもんな……」
王国は、魔王討伐に使えるかもしれない勇者の芽を無自覚につぶしているわけか。
なかなかに救えない。
「でも……確か聞いた話だと、
勇者が魔王を倒すのは時間の問題って言われてなかったか。
今の話と矛盾してない?」
「まぁそう聞こえますよね。
でも、勇者に限ってそんな事にはならないんです。
不死鳥の加護の能力の一つに、
自身にかけられる全てのデバフを減衰させるって……
効果があるのは覚えて……ないですよね」
そんな効果もあったっけか。
聞いていたとしてもかなり前のことなので覚えていない。
でもそれって結構ヤバそうだけど。
「デバフの効果減少っていう特殊能力は、
結界によるデバフにも当然効果があるんです。
つまり、勇者が今魔王城の中で死んでも生き返ることができます。
1.2倍のステータスバフだけは結界に阻まれて受けることはできないですけど」
なんだそのチートスキル。
形式的効力の原理はどうなってんだ。
無効にされる対象のスキルの方が、結界より上位にあるっている処理になるのかよ。
「それに、勇者の勇者たるゆえんはスキルだけじゃないですから。
彼女もまた“名誉ある無能”の一人なわけです」
名誉ある無能か。確かイケメンくん……デュオなんとかさんも同じ呼ばれ方をしていたな。
デュオさんの場合は、強力な治癒能力を持っているのに、
本人が強すぎて自分を治癒する機会がない、という話だったはず。
となると……
「勇者の場合は、強すぎて死なないからスキルを発動させる機会がないってことか」
「そうです。
世間には勘違いされているみたいですけど、
あの人の強さはスキル頼りじゃありません。
どうせ転移者なんてみんなスキルで楽して強くなったんだろ、
みたいな妬みの声をよく聞きますが」
純粋な努力だけで、チートスキルを持つ転移者たちがはびこる冒険者の頂点に立つ……なんだかかっこいい。
「てかそれって、向こうからしたら大問題じゃないか。
他の転生者に関しては効果があっても、
最有力候補の勇者には突破される可能性があるって」
「そうはいっても勇者は魔法を使いませんし、
基本的に剣しか使わないですから他を縛ることはできないんですよね」
「なるほどな。
それで言うと……仮想敵を実質的に一人に絞れば、
対策も練りやすいっていうのも、メリットの一つかもな」
そうかもですね、とソフィは頷いた。
とはいえ、ちょっと矛盾しているような気もする。
……というか、ソフィってやたら勇者とか魔王について詳しくないか?
そんな疑問が浮かんだが、俺は口には出さなかった。
「話は戻るけどさ。
魔王城の中で死んでも帰ってこれるのに未だ魔王が死んでないってことは、
やっぱり今はまだ、実力が追い付いてないってことなのか?」
「確か勇者は、最終階層の守護獣がずっと倒せないままでいるはずです
四階層の守護獣である……ソルネラ?みたいな名前の相性のボスがいて、
その攻略だけがボトルネックになってるらしいんです」
詳し。なんで名前まで知ってんだこの子。
しかし相性の悪いボスか。やっぱそうだよな。
聞いた感じどう考えてもステータスで困ることは一生無さそうなスキルを持ってるし。
でも最終回の守護獣という事は、そいつさえ倒せば……ってところまでは到達しているらしい。
なら俺たちが同行する以前に魔王が倒されるってことも全然あり得そうだけど。
「じゃあ今は、そのボス討伐のために、
新しい技能とか装備を手に入れるために頑張ってるのかね」
「そうだと思います。
今勇者が色んな土地へ遠征に行っている理由がそれです。
ソルネラを倒すためのキーアイテムを探してるところで」
頑張ってそのキーアイテムとやらを見つけてくれないかな。
俺らとしてはそれが一番助かる。
何せ、魔王さえ死んでくれれば俺たちはもう何もしなくていいんだから。
ふと、一つの疑問が浮かんだ。
魔王側にとっての最大の脅威は勇者のはずだ。
しかしその本人は死なず、
殺したとしても強くなって帰ってくるのだから手の打ちようがない。
それなのに魔王側は勇者対策するどころか、
勇者以外にしか効果が無い結界を張って待ち構えている。
RPGにおける最大の救済措置は、
何度死んでも復活できるところにあるはずだ。
無限回リトライできるのであれば、
どんなに勝てる確率が低かろうとも勝利が約束されたのと同じだからだ。
無限回のリトライなんて、クリアしてもらうことが前提のゲームだからこそ必要なシステムなのであって……
もし現実で何度死んでも蘇ることができるシステムがあるのであれば、
それこそゾンビのように突撃を繰り替えされれば、いつかは攻略されてしまうだろう。
裏返せばそれは、魔王軍側の約束された敗北を意味する。
魔王から見て自らの破滅が約束されたことなら、いっそ降参するという選択肢はないのだろうか。
負けることが分かっているのに戦い続けるなんてことは、あまりに非効率なはずだ。
それなのにあきらめる姿勢を見せないということは、何か向こうにも策があるのか……?
期限付きで作られた魔王という存在。
鼠によれば、魔王は何とかして契約を破ってその権限をずっと持ち続けようとしているという。
折角そこの問題を突破したとしても、勇者にいつか倒されてしまうのであれば意味は無い。
絶対に破れないはずの契約を破り、絶対に死なない勇者を倒す。
無理難題が二つ。こちらの考える事ではないが、相手に勝算がないはずが無い。
なんだか嫌な予感がする。




