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魔王城にて ② 第一階層 西区 第弐拾一会議室

「これですか? これは……そうですね、連絡用のメモ帳です」

 言いながら(しゅう)は懐から、先ほどの物よりも少し大きめのメモ帳を取り出す。


「あんたの“同期”が戦闘以外に使われてるの、初めて見るわ」


 シアは物珍しそうにメモ帳を手に取って眺める。

 ぱらぱらとめくると、黒と白の紙が交互に使われているのが分かる。


「“同期”って確か、二つの物に対して感覚を共有させるって言うか……

 片っぽが殴られたら、もう片っぽも痛みを感じるとかそんな感じよね?

 自分の受けたダメージを相手と共有させたり、

 体力の少ない相手の後衛職を前衛職と共有させて苦しませたり……」


 大雑把な説明に柊は苦笑するも、大体あっていると認める。


「正確には、衝撃や影響を双方で同期させる、という認識ですが」


「で?それをどうしたら連絡手段に使えるわけ?」

「あぁ、それはですね……」


 と、柊は説明を始める。

 一つは普通のメモ帳、もう一つはカーボン紙を交互に挟んだメモ帳を用意し、その二つを“同期”させる。


 普通のメモ帳の方を先生に持たせ、魔王城で留守番をする柊はカーボン紙の方を持つ。

 普通のメモ帳の方で文字を書くと、“同期”の効果によってペンによって与えられたダメージがそのまま柊の持つメモ帳に同期され、カーボン紙によって反映される、という仕組みらしい。


「原始的ではありますが、なかなか便利なものですよ」

「なーるほどね。これは自分で考えたの?」

 シアはメモ帳を手渡しで返しながら言う。


「いえ、滅相もございません。こういったスキルの応用は先生が得意とするところですので」

「そうよね、だと思った。あぁいや、柊君に思いつくわけないとかそういう事じゃなくてね? 先生、こういうのばっかり考えて生きてるから」


「そうですね、スキル研究に関する一人者というだけあります」

 柊は笑って言った。


 ところで、と柊は話題を変える。

「彼のスキルについての話はまだしておりませんでしたね」

「何?わかったの?」

 柊の予想通り、シアは食いついてきた。


「先生曰く、これから話すことは推察の範疇を出ないという事でした。

 それでも良ければ聞いていただけると幸いです」

 シアは頷く。


「まず、彼のスキル名は“正直者”で、

 その効果は質問に対して真実のみを答えるというものでした。

 これは、先生の立場を利用して公的な記録を確認した結果ですので間違いありません」


 柊は手元のメモ帳を見ながら言う。


「それは私もぼんやりと覚えてるけど……

 そんなカスみたいな効果のスキルが19歳の人間に与えられるわけ無いでしょ?」


「おっしゃる通り、スキルの説明というのは時に、

 必要以上にそのスキルを過剰に弱く見せることが知られています。

 このスキルもそうなのでしょう」


 事実、この世にあふれるスキルの説明の多くはその効果と使い道を明瞭に示している。

 しかしたまに、こういった例が存在することは確かなのだ。


 明らかにその本来の使い方を隠すようにして生まれてくるスキルが、特に転移者に与えられるスキルの持つ特性としてまれに見られる。


「第一に先生は、質問に対して“真実”のみを答えるという文章に目を付けられました。

 そこがどうやらクサいと」

「まぁそうよね。真実なんて、わざわざ定義がめんどくさそうな単語を使ってるなーって感じしたもん」


 それで?とシアは続きを促す。


「真実を答えるという文言が気になった先生は、

 彼らの行動分析から入ることにしたそうです。

 我々には、モルテによる丁度一週間分の記録があるわけですから」


「行動分析ったって、報告を受けた限りだと普通の事しかしてなくない?」

 冒険者らしくダンジョンに行ったり、買い物をしたりと目立ったところはないとシアは主張する。


「大きく冒険というカテゴリーにくくればおかしくは無いのですが……

 見ていれば明らかに異常な行動をしていることが分かります。

 冒険を初めて四日目にしてナーガ迷宮を制覇する、なんてのはその最たるものです」


 失念していたのかシアはあ、と小さな声を漏らした。


「それに、この間の襲撃についてもそうです。

 彼らは、なぜかこの王国にこちらと通じている人がいるということに気がついていて、

 あんな噂を流すことにしたのですから」

「そう……ね。確かに一週間のうちにできることとは思えない事ばかりだわ」


「以上のことより、情報収集系のスキルであると先生はアタリを付けたそうです。

 それから、そこと彼のスキルの条文にどんな関係があるのかを考えていくと……」

「真実を答える……か。そうね、そうかも」

 柊がその先を言う前に、シアは見当がついたようだ。


「そして襲撃の夜、先生が彼と言葉を交わす機会に恵まれたようで……

 その時にほぼほぼ確信を得たようです」


 どんな会話が行われたのかまでは聞かされていないが、先生の中では大きな収穫となるものだったと聞いている。


「なんかさっき、先生が牢屋の番号は知られるかもしれないーなんて言ってたのに、

 ちょっと引っかかってたのよね。

 確かにそれなら納得だけど、結局は鉄格子を破壊したらいいじゃない?」


「その部分については何とも……。

 他にも地下の扉がことごとく開けられなくなっていたりと、色々問題は残るようですね」


 不思議ね……とシアは呟いた。


「それにしても、ちょっと面倒ね。どこまでの範囲かは分からないけれど、

 おそらく真実を知るって相当に応用の効くスキルに聞こえるのだけど」


「おっしゃる通り、ことによっては相当な脅威になりえます。

 先生曰く、ナーガ迷宮をクリアしたのもそのスキルで最適なルートを調べたのではないかということでした」

「そりゃー早いわけだ。もしかしたら、一度も魔物と戦闘せずにクリアしてるかもね」


 呆れたようにシアは首を振る。


「そして、ここが問題なのですが……このスキルに関しては、

 その内容を知ったところでそれ以上の対策が取れないところにあるのです」


「……まぁ、そうかもしれないわね。

 もしかしたら弱点みたいなものがあるのかもしれないけど……

 今の所は分からないから最悪の想定をするしかないし」


「現在彼らには、特筆するほどの戦闘能力が無いというのが救いといったところでしょうか」

「でもモルテは倒されたんでしょ?」

 柊は肩を竦めた。


 シアは眉間を抑えてふうとため息をつく。

 心配事が多すぎる、とでも言いたげだった。


 一つ伸びをして、シアは辺りを見回した。

「そういえばさ、ハイドが居ないみたいだけど。ふらふらされると困るんじゃなかった?」


「そうですね。

 本来なら大切な時期ですから、出来るだけ城内に居て頂けるとありがたいのですが。

 しかしあの方に限っては、強制的に身柄を拘束するという事は出来ませんので」


 そうよね。とシアは鼻を鳴らした。


「居なければ居ないで寂しいものですか」


 柊の指摘に、シアは憤慨する。

「ち、違うわよ! 私じゃなくて、ティネちゃんが寂しいかなって……」

 

 柊は部屋の中央にあるソファに目をやった。

 ソファでは、ティネが仰向けに眠っていた。


「そうかもしれません。早く帰って来ると良いですね」


 言うとシアは、目線を外してテーブルの上に片肘をついた。

「あんな奴帰ってこなくたって良いのよ、居るだけうるさくなるだけなんだから」


 そう吐き捨てるシアに、柊は頬を緩めた。


「……なによ、何か言いたいことがあるならいいなさいよ」

「いえ、滅相もございません。今日は仕事が溜まっておりますので、これで失礼いたします」


 何かを言いたそうに口元をむにむにとさせるシアを残して、柊は部屋を後にする。

 これで今夜も頑張れそうだ、と柊は自身に気合を入れた。

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