第十七話 ② 脱獄犯、発見サル
ソフィと別れる丁度その頃、兵士達は二階の部屋を検め終わり、三階まで降りてくるところだった。
俺は急いで四階に駆け下りる。
この王城の地下は五階まであるのだが、五階は元居た牢獄なので俺が隠れられるスペースは四階の409号室までになる。
このままだとまずい。
……と、太ももに鋭い痛みを覚えた。
ポケットを探ると、中から小さくなったイズが出て来た。
こんな時に何を……と思ったが、これはもしかして。
「お前……ついてきてたのか」
イズは首を縦に振る。
鼠とは先ほど別れたつもりだったが、いつのまにかイズに乗り移っていたようだ。
「なんだ、今忙しいんだよ。邪魔しないでくれって」
邪険にあしらおうとするも、イズはまた手のひらを噛んできた。
「良いから話を聞け。こちらも今日はこれ以上魔術が使えないんだ。
早く、奴らが四階に降りてくる前に全ての部屋のドアを首輪で膨張させろ」
ドアを膨張させる?
「なんでそんなこと……」
「いいからやれ。
ドアを膨張させれば建付けが悪くなって開けられなくなるだろ。
そうすると兵士は中に人がいて立てこもっていると勘違いしてくれるはずだ。
ドアを壊すのにも時間がかかるし、その後の捜索が入念になって時間が稼げる」
思ったよりめちゃくちゃ有用な情報だった。
これ以上文句を言うよりもここは従ったほうがよさそうだ。
「それとこれ以上は俺の魔力が持たない。この犬はポケットに戻してやれよ」
最後の言葉と共に、イズはまたおとなしくなった。
地下には一階につき九部屋しかない。
追手は徐々に、そして確実に近づいてくる。余命宣告を受けている気分だ。
作業が終わって一番奥の部屋に逃げ込んだのと、兵士たちが四階に下りてきたのはほぼ一緒だった。
今ここでドアを開ければ、廊下に兵士が立っているのが見えるのだろう。
少しでも時間を稼ぐために俺は409号室の中で隠れられそうなところを探す。
なるべく入り口から遠くて身を隠せるところ……
たのむ、間に合ってくれ……
天への祈りも虚しく、無慈悲にもどんどん近づいてくる。
先ほど開けられなくしたドアを破壊する音で、兵士たちがどこにいるかが把握できるのが唯一の救いだ。
ソフィの作戦はうまくいっているのだろうか。
そもそもこの状況をどうにかできるものなのか?
不安な思考を振り切って、今できることをひたすらに探す。
物音が一度止まる。
隣の部屋の408が終わったらしい。
もうちょっと入念に調べてくれよ、と毒づきながら息をひそめる。
もう最後の部屋だ。
ドアが壊された音がする。入って来たのだ。
一人は廊下を見張り、二人が捜索を始める。
俺はクローゼットの中に息をひそめて入っていた。
すぐそこで兵士が部屋をあさっているのが分かる。
心臓の音がうるさい。
だんだん足音が近づいてくる。近くの物をあさっているのだろう。
この部屋に人が隠れられるようなものは殆ど無い。
しばらくすると、二つ並んだクローゼットの片方の中身を調べ始めた。
この時点であっちを選んでいたら終わっていた。
クローゼットが閉まる音がした。
そして足音は俺の隠れているクローゼットの前で止まる。
目の前の兵士は取っ手に手をかけ、そして……
「脱獄犯を発見した!手の空いている者は至急参加するように!」
◇ ◇ ◇
大声が地下全体に響く。
目の前の兵士は大きく目を見開き……そして、クローゼットの扉を閉めて走り去っていった。
その声は奥の廊下の方から聞こえてくるものだった。
足音が遠ざかっていくのを確認し、俺は扉を開ける。
「はぁ~~よかったぁ……」
俺は思わず声に出して安堵のため息をつき、転げ落ちるように外に出た。
緊張のせいで、立ち上がることもできない。
少しでも足掻こうと、服のサイズを調節して一見外からは見えないようにと工夫した甲斐があった。
半ばあきらめかけていたが、ギリギリで間に合ったみたいだ。
どうやったのかは分からないが、先ほどの報告はソフィの策によるものなのだろう。
本物の脱獄犯はここにいるからな。
階段で検問していた兵士もいなくなっている。
これなら余裕で脱出できる。
俺はがら空きになった螺旋階段を上る。
兵士は見当たらない。どこかへ駆り出されたのだろう。
王城の門から出ると、辺りはもう暗くなり始めていた。
一日中地下にいて、せっかく出られたと思ったら外はもう夜なのか。
今日一日何も食べていないので空腹を感じる。
今すぐ何か口に入れたいところだが、今は追われている身なので我慢しよう。
とりあえず、ソフィと合流することが最優先だな。




