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第十七話 ① 決行と難航

「本当にお前は出なくていいのか?」

 首輪を扉の鉄格子に巻きつけながら鼠に尋ねる。


「あぁ、ここにいる方が安全だからな」

 言いながら鼠は、監獄の壁をぺちぺちと叩いていた。


 ここの方が安全、か。そちらの事情は良く分からない。


「本当にありがとう。いつか必ずお礼はさせてくれ」

 俺は傍に座りこむ小動物に語りかける。


「いや、こちらこそソフィアを頼んだ」

 ソフィの親父みたいな事をみたいなことを言う。


 しかし、時間さえあればこの鼠からもっと話を聞きたかった。

 心残りも多いが……


「丁度時間だ。やるぞ」


 鉄格子に巻き付けた首輪をさすると、見る見るうちに縮んでいく。

 ミシミシと扉が音を立てるたび背筋が凍るが、それでも手を止めるわけにはいかない。


 小さくするのは扉の鍵部分。ガキッと音が響いて鍵が壊れた。


 俺は暗い通路を足音を殺して歩く。

 閉じ込められていた牢屋は、出入り口から最も遠い場所にあったらしい。

 並ぶ牢屋を見ながら廊下を進むと、奥の方からチッチッと舌打ちのような音が聞こえて来た。


 鉄格子の中を覗くと、そこには男の姿があった。

 舌打ちの合図をしているという事はこの人が鼠の本体らしい。


 殆ど光の入らない牢屋でははっきりと見えなかったが、男はかなりの細身で頬はこけていて憔悴している様子だった。

 この牢に入って長いのだろう。


 それでも男は頬をかすかに上げて指をクロスさせたのが分かった。

 グッドラック。


 俺は心の中で礼を言って頷き返し、出口へと急ぐ。


 目を離すと急に、何かが心に引っかかったような感覚を覚えた。


 もう一度振り返った時には、既に男は牢の奥へと引っ込んでしまっていた。

 何が引っかかったんだろう。見覚えがあるはずもないのに。


 それともどこかで……?



 足音を殺して廊下を進み、守衛の居る出入口の窓を覗く。

 計算通り守衛が持ち場を離れて行く所だった。


 牢の時と同様に扉の鍵を壊して開ける。

 交代して来た看守にはおそらくすぐに気づかれるだろう。

 これは仕方ない。先を急ぐ。


 ◇ ◇ ◇


 あらかじめ鼠に教えられていた通りに移動していく。

 ここは王城地下五階で、すぐ近くに螺旋階段がある。


 これは地上まで直通の階段で、ここまでくればもうただ上がるだけでいい。

 5階は囚人を閉じ込めておく牢で占められているので、人は殆どいない。

 足音に注意しながら螺旋階段を上る。



 王城にはいろんな人がいるので、すれ違う人は俺に興味を持たない。

 このまま何事もなく脱出できればいいが、そろそろ……

 

 地下一階から地上へと上がる階段の出口に、人だかりが出来ていた。

 6人くらいの人が階段に陣取っている。


 最悪。


 おそらく脱走に気付かれて、俺をとらえるために検問を設けているのだろう。

 丸腰だと絶対突破できないだろうな。


 地上に出るにはそこを通らざるを得ないので、何とかしないといけない。

 そうなると、これくらいは想定すべきだったな。

 しかしこのまま立ち止まっていても不自然なので、一旦その場を離れて地下三階の適当な空き部屋に入る。

 

 ◇ ◇ ◇


 適当に入ったつもりだったのだが、部屋の内装はかなり豪華だった。

 応接間だろうか。

 部屋の中央には机と椅子があり、壁にはかなり豪華な装飾がされている。


 なんだかここまで綺麗な椅子だと、座るのも気が引ける。

 俺は壁にもたれかかって座り込んだ。

 ひんやりとした壁が頭を冷やしてくれるかもしれない。


 ここからどうしよう。

 6人もいるのでは、隙を見て逃げることは厳しそうだ。


 それに遅かれ早かれ、別の部隊が部屋を検めに来るだろうな。

 このままでは袋の鼠だ。


 今頃ソフィはどこで何を……



「(ですから、ソフィア様には実害が無いのです。ソフィア様はあくまで彼にそそのかされたのだと、そう言うことになっておりますので……)」


 ……となりの部屋か?

 壁越しにくぐもった声が聞こえて来た。明らかに無関係ではなさそうな会話。


「(違います!何度言えばわかるんですか。あれは国家を守るための作戦だったんです!断じて国家に対する反逆などでは……)」


 ソフィの声が聞こえて、思わず口を押さえる。

 なんつー偶然だ。俺が居なくなったのに気が付いてくれたのだろうか。

 なにやら声を荒げて反論しているようだ。


「(後からはなんとでも言えます。しかし、国を動かすほどの偽りのうわさを意図的に流したという事実は変わりません)」


 聞く限りだと、話題は俺たちが魔王軍襲来の時に流した噂に関するものようだ。

 地下の応接室にいた理由は、他の人に訊かれてはまずいからなのだろう。


「(それが私の意志で、国を救うためだったとしてもですか?)」


「(はい。その言い訳が正しいという根拠はどこにもありませんから)」


 ソフィは反論ができなかったのか、しばらく沈黙が流れる。


「(分かりました。私は納得していませんが、とりあえず先輩に会わせてください。話がしたいんです)」


「(先ほども申し上げました通り、彼に関してこちらは関知しておりません)」


 いけしゃあしゃあと。秘密裏に俺を監禁して殺すつもりだったくせに。


「(そんな嘘には騙されるつもりはないですけど、君たちが私の味方じゃないことは十分に分かりました。もう出て行ってもらえますか)」

 男たちは食い下がろうとしたが、ソフィの頑なな態度に負け、部屋を出ていく。


 ソフィが一人になった。今がチャンスだ。

 俺は一応、部屋にいるのがソフィだけなのかをもう一度確認してから移動する。


 ◇ ◇ ◇


 俺が部屋に忍び込むと、ソフィは目を見開いた。


「先輩?! 無事だったんですか!」


 声がでかい。


 俺は人差し指を立てて彼女を諭し、隣の部屋へと戻った。


 ソフィは今までどこにいたのかと聞いてきたので、俺が今日してきたことを手短に説明する。

 何となく話がこじれそうだったので一旦謎のねずみのことは黙っておいた。


「そうだったんですか……。

 やっぱり先輩は反逆者として処罰される手はずだったんでしょうね。

 先輩が監禁されていることも秘密になっているみたいでしたし、

 世間には公表するつもりが無かった……と考えるのが自然です」


 憤りを隠そうともせずにソフィは声を低くする。

 やっぱり、俺達と同じ結論に至っているようだ。


「で、実は今困っててさ。

 なんとか牢屋は抜けられたんだけど、

 一階に敷かれた検問をぬけなきゃいけないんだよな」


 俺の説明でソフィは状況を理解したようだ。

 申し訳ないけど、ここはソフィの手を借りたい所。


「時間がないんですよね?」


 しばらく考えてから、ソフィは訊いてくる。


「兵士が上の階から順に部屋を検めてくるだろうから、このままだといつかは見つかるな」


 隠れられる部屋は限られている。それが実質タイムリミットだ。

 うーんとソフィはうなる。


「強行突破は流石に無いとして、荒事はしない前提で行くと……」


 俺も一緒に考えてはいるが、それこそ情報を知るだけのスキルに出番は無さそうだ。

 検問を何とかして通るか、検問そのものを何とかするか……

 悩んでいると、おもむろにソフィは立ち上がって言った。


「私が何とかします。先輩はなるべく見つからないように頑張ってください」

 

 

 この子、本当にいざというときに頼りになるな……。

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