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第十六話 ② なんで全部知ってんだよ

「そうだ坊主、あんたの名前を聞いてなかったな」

 鼠は頬をぽりぽりと掻きながら言う。


 そうか、そういえばそうだったな。

 それを言ったらこいつの名前も聞いてないんだけど。


「俺は佐伯(さえき) (つき)。お前は?」

 そう俺は訊き返したが、ねずみは俺の名前を聞いて態度を一変する。


「サエキ……ツキだと……?」


 もしかして、過去の俺を知っている人か?


「ちょっと、ちゃんと顔を見せてくれ」


 そういって目の前の小動物は二本足で立ち上がり、万歳をしながらぴょんぴょんとはねだした。


「……なにやってんだ?」

「バカ、手に乗せてお前の顔を良く見せろって言ってんだよ」

「あ、そういうことね。急に発作でも起こしたのかと思った」


 言いながら手を差し伸べてやると、愚鈍にもよいしょよいしょと手の上に登ってきた。

 暗闇なのでどうせよくは見えないだろうが、俺の目の高さまでもちあげてやる。


「……本当だ」


 放心したように俺の顔を見ている。

 それとも、左目を覗いているのだろうか。


「また過去の俺を知ってる人の登場か。

 それなら申し訳ないんだけど、今俺はちょっと記憶が失ってるらしくて。

 こっちはお前のこと全然知らないんだよな」


「あぁ大丈夫だ、全部分かってる」


 分かってる……?

 ソフィしか知らないはずのこの事実を、なんでこんな鼠なんかが知ってるんだ?


「するとあれか、ソフィアに会って話は聞けてるわけだな?」


 いやに詳しいなこの鼠は。


「まぁ、そうだけど……」

 俺の返事を聞いて鼠は満足げに頷く。


「そうかそうかぁ……。ソフィア、泣いてただろ」


 いつしかの千鶴さんと同じことを言う。

 そんなに泣き虫のイメージがあるのか?


「いや、全然だったけど」

 鼠はきょとんとした顔になる。


「……そうか、そいつは意外だな。

 時に坊主、お前はどうしてこんなところに入ってるんだ?

 俺の計算が正しければ、もうあまり時間が無いはずだろう。

 計画は順調なのか?」


 こいつ、計画のことまで知ってるのかよ。

 何者なんだリストにまた名前が増えた。


「なんていうか、昨日までは順調だったんだけどな。

 多分昨日起きた襲撃のせいでここに入れられたんだと思う」


「昨日の襲撃? なんだ、何かあったってのか?」

 鼠は身を乗り出して尋ねて来る。


「お前、襲撃の事も知らないのか。あれだけ騒ぎになったのに」

 世間に疎いとかそういう次元じゃない。


「……昨日は仕事が忙しかったんだよ。確かにちょっと上が騒がしい気はしてたけど」

 言い訳がましく鼠は反論する。


「それは……お前の本体の仕事の話か?」

 鼠は頷いた。


「俺の本体は、この牢から五つ……いや、六つほど離れた場所にある。

 お前と同じ囚われの身だ。

 本来なら仕事とは無縁なんだが……

 たまにここに降りてきて俺の知恵を借りようとするやつがいてな」


「囚人なんかに知恵を求めるやつがいるのかよ。終わってんなそいつ」

 思わず漏れ出た言葉に鼠はむっとしたように眉を寄せる。


「違う、それくらい俺が優秀ってだけだ。

 よくある、現代の知識で無双する……みたいな奴と同じようなものだろ」


 うわ、それ俺もやりたかった奴じゃん。

 思えばここ五日間は忙しすぎてそんな事考える暇もなかった。


「でも、牢獄の中じゃ無双とはいかないだろ。

 この中で出来る事ってそんなにあるものか?」


 ふん、と鼠は鼻を鳴らす。

「主にやっているのは暗号解読だな。

 周辺国の間で使われてる暗号文がどうしても解けないときに、

 俺のもとに持ってこられることが多い。

 文明レベルがまだ低いからな、酷いところだと……

 国家機密レベルの文書を未だにシーザー暗号で書いていたりする。

 読んでくれと言わんばかりじゃないか、そんなもの。なぁ?」


 同意を求めるように鼠は笑いかけてくるが、正直良く分からなかった。

 まぁとにかく、鼠はその仕事のせいで昨日の襲撃については良く知らないらしい。


 しつこくせがまれたので渋々、昨日の夜の出来事を説明する羽目になった。

 所々無駄な所は省こうとしたものの、そのたびにすぐそれを察知して説明を求められたので、結局話し終えるのにかなりの時間がかかってしまった。


 こんなおしゃべりに興じてる場合じゃないんだけど。



「へぇー。坊主もなかなかやるようになったなぁ。

 実質あんたひとりで魔王軍を退けたも同じじゃないか」


 感心したような声を上げる。


「まぁそうだな。でも、その結果がこのざまなんだけど」

 上手くいったとは言い難い。

 一時は鼻を明かしてやったとはしゃいでいたが、そう簡単にはいかなかったようだ。


「しかし面白いな。

 よりにもよって国を救った英雄を閉じ込めておくとは……業が深い。

 連中も面白い事をする」


 考え込む様子の鼠。しかし気になる事を言う。


「連中ってのは……お前には何か分かってるのか?」

 俺が言うと、鼠はさも意外そうに眼をぱちぱちとさせた。

 あまり可愛くない。


「当然だろう。ここは王城地下の牢獄なのだから、そこの人間に決まっている」


「……は?」

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