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第十六話 ① 不自然

 目が覚めた。辺りはまだ暗い。


 寝つきがいい方を自覚している俺としては、夜中に目が覚めるのはなかなかに珍しい事だった。


 ふと、違和感に気づく。


 ベッドが何だかいつもより固い気がする。

 俺が泊まっている宿は、家賃が安い代わりにあまり良い寝具が用意されているわけではない。


 それにしても固く感じる。だから起きてしまったのだろうか。

 そういえば布団もない。

 ……なんで?


 とりあえず体を起こそうとすると、頭に鋭い痛みが走ったのを感じた。

 昨夜は夜更かしでもしたのだろうか、頭痛がしている。


 昨日は確か……千鶴さんの酒場までソフィを送り届けた後、そのまま宿に戻ったはずだ。


 城壁近くだというのに無傷だった宿を見て安心したのを覚えている。


 疲れていたのですぐベッドに潜って……そのまま寝たはず。

 何も変な事はしていない。


 しばらくベッドに腰かけたままぼーっとしていると、ゆっくりと目が暗闇に慣れてきた。


 ……どこだここは。


 俺は当然自室にいると思っていたのだが、明らかにここはいつもの宿ではない。


 空気がよどんでいる感じがする。


 辺りを見渡しても何もない。

 まるで……


 そう、まるで牢獄のような。


 ほとんど真っ暗で、目の前のもの以外はぼんやりとしか見えない。

 明かりをつけてみるか。


 室内なので少し気は退けたが、炎の魔法を使ってみることにする。

 昨日覚えたことを思い出し、魔力を放出しようとした……が、できなかった。


 何度か試してみたが、そもそも魔力を感じることができない。


 俺は立ち上がってベッドに近い壁に手を付け、慎重に歩いてみる。

 と、すぐに分かった。自分の置かれている状況が。



 まるで牢獄、なんて言ってみたがこれはあれだ。


 マジで牢獄なんだ、ここ。


 

 ごつごつとした壁が牢獄の三面を覆い、そして一面は鉄格子になっているようだった。

 なんてステレオタイプな。


 先ほどまで寝ていたベッド、壁、鉄格子と扉以外に何もない。

 排泄は何処でしろというのだろうか。


 扉には当然カギがかかっている。

 

 そうなれば魔法が使えなかった理由にも納得が行く。

 考えてみれば、監獄なのに魔法が使えたら脱獄し放題になってしまうだろう。


 おそらく何かしらの結界が張られていて、魔法が使えないようになっているパターンのやつなんだろうな。



 で、なんでこんなところにいるんだ俺は。

 ベッドに腰を下ろして思いを巡らす。


 思い出せる記憶が昨日の夜までしかないという事から察するに、誰かが俺の寝ている間にここまで運んできたことになるのだろうか。


 睡眠薬じゃないが、眠りの魔法か何かをかけて運んだというのが妥当な所か。

 そんなものがあるのかどうかは知らないけど。


 でも誰が?何のために?


 なんて深く考えるまでもなく、すぐに思い当たった。


 まぁ十中八九、昨夜の魔王軍襲撃に関することだろうな。

 どうした事か俺の策がどこかで誰かにバレて、それを知った誰かさんがこうして俺を捕まえたと考えるのが妥当か。


 しかしそうなるなら、それに共謀した奏瀬も一緒にぶち込まれていないとおかしいわけだけど……

 

 と、視界の隅で何かが動いた気がした。

 何だろう。


 目を向けると、牢屋の外の廊下にぽつんと小さなネズミが立っているのが見えた。

 そいつは器用に二本足で立ち、こちらを認めてにやりと笑った(・・・・・・・)


 なんだあいつ。明らかに純粋な野生の動物ではなさそうだ。

 そいつはそのまま二本足で鉄格子の間を走り抜け、部屋の隅にまで行って、人間臭い動きで壁を背もたれにするように足を広げて座った。


 俺がベッドに腰かけたまま呆然としていると、そいつはだらんと地べたに座ったまま片手でこちらに来るように手招きのポーズをした。


 なんで人間様がネズミなんかのために移動せにゃならんのだ。


 ……とは思ったが、ここで無視していても話は進まないだろう。おとなしく従っておく。


 腰をあげて、部屋の隅に座っているねずみに近づく。

 そいつは「まぁ座れよ」とばかりに自分の前の床をぽんぽんとたたく。


 いちいち動きがむかつくな。

 いちど辺りを見渡してから、俺はねずみの目の前であぐらをかいた。


 やっと言う事を聞いてくれた、とばかりにねずみは額をぬぐう。

 お前は汗腺を持たない動物だろ。


 さて、ここまで来たのは良いとして、どうやってコミュニケーションを……


「坊主、名前は?」


 おい。


「お前話せたのかよ」


 ねずみは俺のつっこみに目を丸くする。


「なんだその口の利き方は。年長者に対する態度とは思えんな」


 はぁ。そんななりで年長者とか言われてもな。


「お前それ、どうやって喋ってるんだよ。

 見た感じ、しゃべってる内容(ないよう)と口の動きがあってないよう(・・・・)に見えるんだけど……」


内容(ないよう)があってないよう(・・・・)ってか?これは面白いな!」


 ……は?


 なに自分で言って自分で爆笑してんだコイツ。

 しかしなるほど、この感じは年長者かもしれない。


「まぁ冗談はいいとして、坊主が転生者で助かったぜ。

 そうじゃなきゃこんなエキサイティングな会話はできないからな」


 今のクソ洒落が面白いかはさておき、言っていることは気になる。


「どういうことだ?

 俺が転移者であることと、お前の洒落がとんでもなくユニークな事に何か関係があんのかよ」

「あるに決まってるだろ。坊主はこの世界に来て、言語の面で何か困った経験はあるか?」


 びしっと手をこちらの方に向けてねずみは言う。俺の皮肉はスルーされた。

 綺麗に人差し指だけ立てることは構造上難しいらしい。


「まぁ、考えてみれば……無いかもな」


 会話はもちろん、何なら違和感なく本すら読むこともできた。

 そのおかげで魔法を習得するくらいには。


「そうだろう?

 転移者は、転移した時に基本的な12種の『語学習得』を授かるんだ。

 こんな便利なものは昔にはなかった……少なくとも俺の時代にはな。

 第二世代の頃にひょっこり『語学習得』のスキルを持つ転移者が現れて、

 そいつが正式に雇われるようになってから、

 それから後に転移してくる奴らは全員お手軽に語学に苦労しない状態で生活できるようになったんだ」


 なるほど。

 ジジイの自分語りは置いといて、今はそのスキルのお陰で不自由なく暮らせているらしい。


「それとお前の言っていることが分かることに何の関係があるんだよ。

 まさかその12種の基本的な言語のうちに鼠語なんてものが入ってるわけじゃないんだろ」


「そりゃそうだ。そんなのが分かっても恩恵はあまり受けられないからな。

 薄暗い倉庫に行ったときにうるさくてかなわんだろ」


 ならどうやって……


「坊主はおつむが足りんようだな。ねずみが人の言葉を話せないのはどうしてだ?」


 挑発するように自分の頭をとんとんとたたく。

 握りつぶしてやりたいという欲求をおさえながら俺は答える。


「そりゃ……人間のとは違う声帯を持ってるからだろ」


「そのとおり。だが……ここでとある頭のいい先人は考えた。

 この世界には獣人という人種がいる。

 彼らの言語は、獣の声帯を通して発声がしやすいように作られてるはずだ。

 なら、純粋な動物にも話せるかもしれない、とな」


 なるほど。やっと分かった。


「つまり、頑張ればそこらにいる鼠にも発声させる事が可能と」


 満足げに頷いている。

 獣人語さえ話せれば、転生者は『言語習得』のおかげで違和感なく会話ができるわけだ。

 癪だが考えたもんだな、その先人とやらは。


「でも……さっき言っていた話だと、

 お前の世代は言語習得の恩恵を受けられなかったんだよな。

 なら何でそうやって話せてるんだ?」


「覚えたよ。もとからお勉強は得意だったんでね」


 自慢げにいうのはムカつくが、一から言語を習得するというのは並大抵のことではない。

 それは普通に凄い。


「とりあえずお前は、その鼠の体をしているけど本体は人間なんだな?

 正直薄々分かってはいたけど」


「もう少し驚いて欲しいところだったが……

 坊主、あんたはカンが良いみたいだ。

 見たところ、俺がこの牢に入ってくる時にはもう既に、

 俺がただの鼠じゃないってことは見抜いてたようだな。

 あれは一体どういうことなんだ?」


 ねずみは顎に手をあてて言う。


 そのポーズだよ。


「二足歩行でおっさんみたいに歩くねずみがいてたまるか」

 

 あっと、驚いたような顔をする。


「……それは盲点だったぁ~」

 肩を落として頭を抱える格好は、人間よりも人間臭いところがある。


 頭が良いんだか悪いんだか分からんなこいつは。

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