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魔王城にて 第四階層 南区 第八会議室

「……なかなかうまくいかないものですね」

 (しゅう)は言いながら、目の前でうなだれるシアを見やる。


 シアの隣の椅子にはティネが座っており、健気にシアの背中をなでていた。


 いつもいるハイドは、今日は来ていないようだった。

 わざわざ書置きまでして不在を伝えているところに無駄な律義さを感じる。



「切り札のヒュドラは襲撃の直前に倒されるし……

 グラスデアラは機能停止まで追い込まれるし……

 北区ではなぜか魔物達が動かなくなっちゃったし……。

 かと思えば私が前線に出る前に撤退しなきゃいけなくなるし……

 引き返したら勇者に追撃されるし……」


 机に突っ伏したまま、シアはぶつぶつと文句を言う。

 いつになくネガティブな姿勢になっているように見える。


「ええ、そのことは伺っております。本当にお疲れ様でした」


 実際、シアにはどうすることもできなかっただろう。

 対外委員に報告された勇者のガルド遠征の話が、魔王軍をおびき寄せるための嘘だった……というのは流石に見抜けない。


 誰が指揮を執ったとしても、今回に限っては同じ結果になっただろう、と柊は同情した。

 こちらの情報が向こうに筒抜けとあらば、そのまま戦い続けるというのは得策ではない。


「ヒュドラの件については、

 勇者のお付きとして有名なデュオファンド・ヴィクトル・シュトラウスの仕業だということが報告されました」


 柊の言葉を聞いてシアは大きなため息をついた。


「あぁ……博士がめちゃめちゃ時間かけて作った自信作だって言ってたのに……

 わざわざ鎮静化させて迷彩魔法をかけておいてバレないようにしてたのに……」


「どうやら近くに発生したワーウルフの群れが起こしてしまったみたいで、

 それが暴れ始めたのをきっかけに討伐されたみたいです」


「そうなるなら、当日に連れて行くのが良かったのかな……」


 落ち込むシアに、柊はフォローするように言った。


「いえ、事前に準備するのが最善だったと存じます。

 それこそ当日にあんな大きなモンスターを連れて行軍するのはリスクが大きいですから」


 そうよね……と、シアは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。


「悪いニュースが続いて申し訳ないのですが、

 どうやら彼らの動向をうかがうことも難しくなってしまったようです」


 シアが首をかしげるのを見て、柊は続けた。


「以前から二人の観察をしていたモルテ……彼がヘマをやらかしまして。

 一度(・・)死に追いやられたそうです」


 机に突っ伏したままのシアはそう……と無感動に呟く。


「ただ……時計は手に入れることができました。

 どうやらモルテの話では、

 尾行がバレたのは、彼女が時計を身につけていなかったせいだという事です」


「いつも思うのだけど」

 シアは顔を上げて言う。いつになく、目が死んでいる。


「モルテってまともじゃ無いじゃない?それなのに報告はしっかりしてるのよね」

「ええ……そう、ですね。確かに」

 脈絡のない話に戸惑いつつも、柊は頷いた。


「先生と二人でいるときは、どうやらはっきりと受け答えができるようですよ」

 直接見た事はありませんが、と付け足す。

 興味なさげにシアは相槌を打つ。


 自分で振った話題なのに、とは思うものの、今は彼女の心労を考えてあまり責めないことにする。



「そうですね……。

 後は、タリア侵攻が無事成功したという報告を受けましたね。

 元々全く心配をしていなかったのですが、

 良い報告を聞かなかったので一つ肩の荷が下りた気分です」


「おー、よかったじゃない。で、テトちゃんはいつ帰ってくるの?」

「そうですね……伺っておりませんが、そう急いでは帰らないのでしょうか」

「そっかぁ……まぁ気長に待とうかしら」


 言いながらシアはテーブルの上で腕を組み、そこに顔を乗せる形でだらりとテーブルに体重を預ける。


「それと話は飛びますが、先生が城内で彼の顔を見る機会があったそうです。

 大した話はしなかったそうですが、一応言葉も交わしたようで……」


「彼が城内に?」


 シアは眠そうな表情のままだったが、話に興味を持ったようだった。


「ええ、目的は分からなかったようですが、

 城内にいるところに出くわしたと報告がありました。

 先生も違和感を覚えられたようでしたが、

 接触が長いと向こうに疑問を与えることになるので、長く話すのは避けたようです」


 ふうんとシアは相槌を打つ。


「なんだろ……気になるな」

 考え込むようにして、シアはうつむいた。


 しばらく考え込んでいる様子だったが、報告が終わっていないことに気が付いた柊は再び口を開いた。


「……報告を続けます。

 彼のスキルについては長らく謎のままでしたが、

 先生曰く大体の効果は見当がついたということで……

 想定の通りだと相当厄介なスキルのようですが、確信が持て次第報告いただけるようです」


 柊は一度言葉を切り、目の前のシアの様子をうかがったが、目を瞑ったまま動かない。


「……シア様? お疲れのようでしたら今日の所は……」


 シアは目を瞑ったまま、口だけを動かして答える。

「聞いてるわよ。ちょっと目を休ませたくて……」


 柊は頷いて、律義にメモ帳を捲る。

「……では、続けます。

 勇者の進行については今の所少し予定より早いので、

 多少の対策は必要になってくるかと思われます。

 ですが、やはり目の前の課題は彼の方にありまして、

 そのためにスキルの把握が急がれる状況です」


 うつむいたまま動かなくなったシアの方をちらりと見るも、柊はかまわず口を開いた。


「勇者の進行に関してです。

 いまだ突破されていない四階層のソルネラに任せるとして、

 そこの突破方法は今の所、我々の管理下にある状況です。

 これに関しては状況が動き次第対応が必要になるとは思います。

 本日は出席していないハイドの手を借りることにもなるので、

 あまり彼女を好き勝手に行動させないよう通達されています」


 柊が一度言葉を切ると、静かな部屋に、静寂が訪れるのを感じる。

 シアは相変わらず動かない。


「そして、多少強引ではありますが、

 念には念を入れるという方針で現在、王都にいる彼の身柄を……」


 柊が続けようすると、シアの隣に座っていたティネが、身を乗り出して片手を前に突き出してきた。


「……どうされました?」


 ティネがまっすぐに柊の目を見つめてくる。


「あのね、シアおねえちゃんはつかれてるから、やすませてあげて」


 確かに先ほどから一切動きがない。

 何なら耳を澄ますと寝息が聞こえてくるくらいだ。


 ティネは椅子から降りると、テーブルをまわりこんで柊の隣の椅子に飛び乗る。


「かわりにね、ティネがおはなしをきいてあげる」

 言ってからシアとの間に消音魔法をかけた。


「そう……ですね。お疲れでしょうから、今日の所は一旦これくらいにしておきましょう」

 柊はそういって立ち上がろうとすると、ティネが袖をつかんでいるのに気が付いた。


「ちがうの。柊おにいちゃんもたいへん、でしょ?きいてあげるから、はなして?」

 柊は一瞬、戸惑う様子を見せたが、優しく笑みを浮かべて椅子に座りなおした。


「そうですね……お話、聞いていただけますか?」

 隣に座るティネに、柊は目線を合わせて言った。


「うん!いいよ」

 元気にティネは返事をして、柊に笑いかけた。

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