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第十五話 ② 内通者の影に怯えてな

「しかし……どういう事なんだ。

 魔王軍の内通者だの、勇者からの伝言だの……。

 ちゃんと説明をしてくれ」


 誰も居ない街道を、俺たち二人は中央区を目指して進んでいた。


 めんどくさいから質問をするなっての。


『本当ならお前を騙して、嘘を信じ込ませたまま王城に送りこみたかったんだけどな。

 ……どうも不便なスキルを持ったもんだ。』


「……本当に何をするつもりなんだ。

 君にそのスキルが発現していなかったらと思うと、時々ぞっとするよ」


そもそもこのスキルが無かったらこんなことは頼めないんだけど。


「まず、これな。

 これが、“魔王軍内部の内通者から手に入れた地図”だ」


 俺は地図を手渡す。

 こうも簡単に切り札を渡してしまうのは、俺がコイツを信頼しているからなのだろうか。


「魔王軍の内通者……。

 君はどうしてそんなものを持ってるんだ?

 まさか君は、そんな重要な人物と繋がって……?」


『ないぞ』


 きっぱりとした否定の言葉に、予想通り奏瀬の顔にはクエスチョンマークが浮かんでいた。


「しかし君は嘘が吐けないはず……だよな?」


「まぁタネを言うと俺はこの地図に、

 “魔王軍内部の内通者から手に入れた地図”っていう名前を付けたんだ。

 本当は俺が書いた地図だし、魔王軍に一人も顔見知りは……」


 そこまで言って、急に口が動いた。


『顔見知りはいるけど。』


 ……良く分からない訂正が働いた。

 俺の記憶にないだけで、顔見知りは居るらしい。

 でも今は関係ないからやめて欲しい。


「まぁ、とにかくだな。

 お前にはこの地図を“魔王軍内部の内通者から手に入れた地図”だって、

 嘘をついて上層部に持って行って欲しいんだよ」


「そんなことを頼もうとしていたのか?

 言っておくが、上に虚偽の報告をするというのは立派な罪だぞ。

 悪くすれば国家反逆と捉えられて死刑ということもある。

 本当にこの地図に書かれていることが正しいのであれば、

 わざわざ嘘を吐くリスクを背負う必要はないのではないか?」


 奏瀬の反応はもっともなものだった。


 この地図を単に戦いに役立てるために使うのであれば、こんな嘘を吐く必要はない。

 そう言おうとして口を開くも、それより先に奏瀬が言葉を続けた。


「だが、もちろん嘘の吐けない君が言う事だから、

 これも策のうちだというのは理解している。だからそれを聞かせてもらいたい」


 理解が早い。そんでめちゃくちゃ歩み寄ってくれる。

 こいつはこいつで、どうして俺の言う事をこうも信頼してくれているのだろうか。


「その理由を教えるためにも、

 一旦“勇者からの伝言”についても触れとくぞ。

 正直これが一番大事なんだけど……先に言うと、これも嘘な」


 名前を勝手につけているだけで、そんなものは存在しない。


「……なんだか嫌な予感しかしないな。

 今は誰も周りにいないからいいものの、そろそろ中央区に入るんだから気を付けてくれよ」


 そうだった。こんなこと人に聞かれたら一巻の終わりだ。


「まぁ、危ない話はさっさと終わらせるようにする。

 とにかく、“勇者の伝言”は、

 〈現在勇者がこの王都を離れているという話は、

  魔王軍をおびき寄せるための策である。

  そこを好機と狙った魔王軍を後ろから挟み撃ちにして、

  確実に打ち取ることこそが真の目的だ。〉

 ってことにする」


 奏瀬は腕を組んだまま黙り込む。今の話を整理しているらしい。


「つまり……こういう事であっているか?

 その話の中では、勇者はあえて自分がこの王都を離れることで魔王軍を誘い、

 まんまとやってきた魔王軍を背後から叩くつもりである……と。

 しかしこれはあくまで嘘で、実際には勇者はそんなことをしてくれはしないのだな?」


 そのとおり、俺は頷いた。


 奏瀬はますます困惑している様子だった。


「しかし……その嘘の報告をして困るのはどう考えても王都側じゃないか?

 居もしない救世主の存在を信じ込ませてしまったら、

 正常な判断が出来なくなる。

 さらに言えば、そんな都合のいい話をすんなりと信じてくれるとは到底思えない。

 上層部も安易に怪しい情報を信じてくれるほど阿呆ではないだろう」


「まぁ、そう考えるのもわかる。

 ただ……俺たちの目的は、王都の上層部を騙すことじゃない。

 騙すのは、その裏にいる連中だ」


 奏瀬は首を傾げる。


「裏にいる……というと、最近話題の内通者の事か?」


 ……なんでそんなに物分かりが良いんだこいつ。全部知ってるじゃん。


「まぁ、そうだな。

 その通り、俺たちが相手にするのはその内通者だ。

 で、そいつらはどういうわけか、

 “今夜この王都には、騎士の大半と勇者が居ない状態になる”

 という事を事前に漏らしている。

 向こうはそれを承知したうえで、これがチャンスだと攻め込んできている訳だろ?」


 ただの推測を確定した情報のように話すのに少し抵抗があったが、奏瀬は反論するつもりは無いようだった。

 もしかしたら、元からそんな噂があったのかもしれない。


「そんな内通者たちは、今も王城内でのさばっているわけだ。

 そこでさっきの報告流れてきたとしたらどうなる?」


 ようやく俺の言いたいことが分かったようだ。奏瀬はふむ、と頷いた。


「それは焦るだろうな。

 こうやって勇者が王都を出ること自体が、

 魔王軍をおびき寄せる罠だと言われたら……

 彼らとしては、いち早くそれを仲間に伝えるだろう」


「そう、これが上手くいけばあいつらは居もしない勇者の影に怯えて、

 勝手に退いてくれるわけだ」


 なるほど、とそう口では呟くものの、奏瀬はまだ疑問があるようだった。


「しかし……それは今君が言ったように、上手くいったときの話だろう。

 こんなうわさ話一つで国を救えるなんて甘い話は無い。

 普通に考えてこんな都合のいい嘘、信じられずにあしらわれて終わってしまう」


 まぁそうだな。むしろ理想に食いつかないだけ奏瀬は偉い。

 けど、当然そんなことは俺だって考えている。


「そこでさっき渡した、

 “魔王軍内部の内通者から手に入れた地図” が効いてくるわけだな。

 この地図には現時点で防衛に必要な情報が、文字通り全て書かれている。

 一部の隙も無く、完全に正しい情報がな。

 そんでちょっと調べれば、ここに書いてあることが真実かどうか位は分かる。

 そうすれば魔王軍内には本当に内通者がいて、

 その筋から渡された可能性っていうのは否定しづらくなるわけだ。

 こんなもの、どうやったって部外者には書けないんだからな」


 奏瀬は目を見開いていた。どうやら完全に理解したらしい。


「この地図は、僕の報告の信憑性を上げる証拠になりうるという事だな。

 地図がどうやら本当に魔王軍側の内通者から手に入れたものらしい。

 となれば……勇者が魔王側をおびき寄せるために虚偽の報告をしていた、

 という話は軽々しく扱えなくなる」


 そういうこと。説明が楽で助かるよ。


「そうなったら王城内にいる内通者は焦るだろうな。

 なにせ今、魔王軍は罠にかけられていて背後には勇者がいるらしいし、

 そのうえ向こうは地図のせいで軍の内情は全て筒抜けだってんだから」


 そうなれば、向こうのやることはおのずと定まる。

 これ以上の損害を出す前に、撤退を選ぶしかないのだ。


 

 俺達は中央区へと足を踏み入れた。


 人々がごった返す中央区では、路の端に沢山の人が座り込んでいて道幅を狭くしていた。

 この人混みの中にソフィを入れるわけにはいかなかった。体調を崩して報告どころではなくなってしまう。


 だからこの役目はデュオにしか頼めなかったのだ。


 というかこうまで人が多いと、逆に俺たちの話し声は周りに聞こえないだろうな。

 だからと言ってうかつな発言は禁物だけど。


「これで概要は伝わっただろ。

 これで作戦は以上なんだが……

 一応、お前が報告するときに上から質問を色々と受けるだろうから、

 その時に論理破綻しないように設定を教えておこうかなって思ってる」


 今から奏瀬に報告してもらう事は紛れもない嘘だ。

 だから色々とつつかれるとボロが出かねない。


 誰からこの話を聞いたのか、いつその話を聞いたのか、なぜ奏瀬が報告することになったのか、なぜ今のタイミングなのか、今まで何をしていたのか……等々。問題は山積みだ。


 少しでも向こうに気取られる隙を与えないよう、俺は奏瀬に架空の設定を叩き込みながら王城へと向かう。


 道端に座り込む人々の目は恐怖に支配されていた。

 子供の泣いている声が方々から聞こえてくる。


 時折聞こえてくる轟音に身を縮こませて悲鳴を上げ、新たに上がる火の手に体を震わせる人々。


 平和ボケした日本人には少々刺激が強い。

 さっさと終わんねぇかな、この地獄。

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