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第十四話 ② 博打

 奏瀬の後姿は毅然としたものだった。

 こんな状況で、一人で戦いの最前線に行こうってのに。


『いい奴すぎるんだよな、あいつ』


 言葉が漏れ出たのを聞いて、ソフィは顔を見上げて来た。


「……放っておいていいんですか?」

 心配そうな顔だった。


「別に、俺はただのかよわい冒険者だしな。

 あいつの言ってた情報に従うなら、

 まずはギルドに行って指示を仰ぐのがいいんじゃないか。

 俺たちは素人なわけだし……勝手な行動をするのが一番良くないだろ」


 ソフィは俺の顔をまじまじと見つめてから、

「模範解答ですね」

 と、小さく呟いてうつむいた。


「にしても酷い状況だな。

 騎士の大半が留守で、勇者も丁度この王都を離れたタイミングでの襲撃って。

 もうこれ、なんか示し合わせてんじゃねーのか?」

 そんなことを疑いたくもなる、そのくらいの完璧なタイミングだ。


 俺の不遜な発言にソフィはこちらを見上げて、一度声を落とす。


「その考えは正しいと思います。

 国の内部には向こうと通じてる人がいるはずです」


 ソフィの答えは意外にも肯定だった。マジかよ。適当に言っただけなんだけど。

 とはいえ。


「……それはちょっと結論を急いでないか。

 騎士の人員に関しては確かに国のものだから把握できるだろうけど、

 勇者の行動まで事前に分かってるってのはちょっと考えられないな。

 こういう戦いって長期の綿密な計画があってから成り立つもんだろ?」


 俺の反論にソフィはたじろぐ様子は無かった。


「いえ、そもそも先輩の認識には誤りがあります。

 勇者の行動って国のバックアップによって援助されているので、

 いわば公共事業なんです。

 だから元から勇者には、予定とか旅費を逐一報告する義務があるんですよ」


「……なるほど。じゃあ国は前もって勇者の行動を把握してるのか。

 となると国の内部の者が悪さしてる可能性は否定できなくなってくるな……」


 いち冒険者の行動を大掛かりな事業にしてしまったせいで、今度は機密の問題が出て来る訳か。 

 面倒くさい。

 

 ソフィは頷くも、その表情は暗い。

 辺りに人がごった返しているせいだろう、少し憔悴してきているようだった。


「どこかで休むか? どんどん顔色が悪くなってきてるみたいだけど」


 俺がそう言うと、ソフィは顔を隠すようにうつむいた。


 いつもなら俺に心配をかけないように、無理にでも元気だと言いそうなものだ。

 しかしソフィはそのまま何も言わずに健気に歩き続ける。

 

 ……まずいな。


 このまま人混みに居てもソフィは良くならない。

 問題は、俺たちの目指すギルドのある中央区はもっと人が密集しているという所にある。


 奏瀬は、「騎士団に四つの門を守るほどの人員は無い」と言っていた。そこから読み取るに、魔王軍は今この王国を取り囲んでいるんじゃないか?

 東区の人が中央区に流れたとしてもそこまで問題は無いだろうが……周りの四区の住民が全て中央区に入っていったとしたら大変なことになる。


 このまま歩いて行っても、恐らくソフィには無理をさせ続けることになる。

 ふらふらとした足取りで歩く様子は、見ていて痛々しい。


 現状、この王国に頼れる騎士も勇者も居ない。

 居るのは落ちこぼれの冒険者と、少数の騎士だけ。

 もう全てを守るのは無理だと悟ったのだろう、城にいるお偉いさんはもう、中央区を守ること以外考えていない。

 

 今俺が採るべき行動。今俺に出来る事は?


 足を止めて、暗い夜空を仰ぐ。

 ソフィが不思議そうにこちらを見上げて来た。


 俺一人ギルドへ行ったところで、そこでは単なる雑兵として扱われるだけだ。

 単なる雑兵一人なんて、いても居なくてもギルドにとっては変わらないだろう。

 この絶望的な戦いをひっくり返すためには、もっと大きな博打を打たなくてはいけない。

 


 国の上層部が諦めるくらいだ、この状況はもう駄目なのだろう。

 なら、駄目で元々。うまくいけば国家が救われる。


 腹をくくるしかない。

 俺にしか出来ないことがあるはずだ。


「俺のスキルを使って、魔王軍の情報を集められないかな」


 俺にはこれしか無い。


 質問に、ソフィはしばし考えこむ。

 しかし考えるよりもやってみた方が早いと思ったのだろう。こちらを見上げて口を開く。


「襲撃してきてる魔王軍の、総大将の名前を教えて」

 どうだ……? と固唾をのむのも束の間。


『作戦の総指揮を採り行っているのは魔王軍幹部、シアナ・カレイド。』

 ソフィが目を見開いた。

 どうしてそんなことが出来るのかはこの際関係ない。そんなことは後でゆっくり考えればいい。


「戻ろう。人の居ない落ち着ける場所で、俺のスキルを使ってみる」


 言ってソフィの手を掴み、今来た道を戻るように東へと進む。

 ソフィは一瞬面食らったような顔をしたが、すぐに頷いて笑った。

 

 慌てて中央区へと逃げ行く人々と肩をぶつけ合いながら、人の波に逆らって俺たちは進んだ。


 ここまで五日間、寝る間も惜しんで二人で頑張ってきたんだ。

 魔王軍如きに台無しにされてたまるか。

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