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第十三話 ⑥ 2^19

「そうでした、さっきの魔法についての説明がまだでしたね」

 ソフィはぱちんと手を合わせて言う。

 

 俺としてはまだ気になる事が沢山あるのだが、話が変わってしまった。

 さっきの魔法……というと、やはりあの変な膜の事だろうか。


「そういえば、そうだったな。元々そのためにわざわざこんな所まで来たんだった」

 いわば本題だというのに、色んなことが同時起き過ぎていて忘れかけていた。

 

「あれは、基礎的な補助設置魔法の一つ……俗に言う、“倍化”です」

 ソフィは魔法を行使し、その目の前に薄く紫色に光る膜をつくりだす。

 さっき見たものと同じだが、今度は重なっていない、一重の膜だ。


「この膜に向かって炎を撃ってみてください」

 言われたとおりに撃ってみる。


 すると、膜を通った炎がそこで二つに分裂したのが分かった。

 正確には分裂したというより、同じベクトルで運動する炎が複製されたような感じだ。


 なるほど。これを通すと魔法が倍化するのか。

 だが、それだけ。俺のしょぼい炎魔法が二つになっただけだ。


「これって……すごい魔法なのか?」

 俺は訊くとソフィは首を振って答えた。


「いいえ、これ単体は先輩でも頑張れば覚えられるくらいの中級魔法です。

 でも、この魔法と私のユニークスキルの相性がかみ合ってるんです」


 そういってソフィは自分のスキルを見せてくる。

 俺自身見るのは初めてだった。


「えっと……『重複ペナルティ無効』……?」


 なんとなく重複ペナルティを無効にするんだろうな、とぼんやり読み取れるが、まずそれが何なのかよく分からない。


「これが真価を発揮するのは主に設置魔法に置いてですね。

 設置魔法っていうのは基本的に、

 術者が同時に出せるのはどんなに頑張っても4つまでって言われてるんです」

 

 なるほど。

「……それって原理的な話?」

「そうですね。同時に設置するために必要な魔力量が、指数関数的に増大していくのが理由です」


 一個設置するだけならだれでもできるが、同時に何個も設置しようとするととたんに大変になる……そういう事だろうか。


「同時に設置するときに必要になる魔力量の指数関数的な増加が、

 さっき言ってた“重複ペナルティ”だから……

 それを無効、つまり無しにできるのがソフィのスキルってことであってる?」


 ソフィは微笑みながら頷いた。


 設置魔法を同時に出されるとまずいからペナルティなんてものが存在するのだろうが、それを無視できるとなるスキルなんて在っていいのだろうか。なんかバランスブレイカーの匂いがプンプンする。


「さっき私が出した魔法を倍化する膜、ありますよね。

 それを普通の術者はせいぜい2,3枚重ねて4倍にするのが精いっぱいなんです。

 でも私はそのスキルのお陰で、10枚くらいなら簡単に出せるんです」


 一枚一枚、きちんとずれないように張る必要があるので時間はちょっとかかりますけど、と付け足す。


 ようやくヤバさが分かった。

 さっきソフィが呟いていた、“13枚はやりすぎだったかな”というセリフ。

 魔法の倍化を13枚に重ねられるってことは、純粋に火力が2の13乗だから……

 2の10乗が1,024でそれに8倍して……8,192か。


 いや、8,192倍て。

 いつでも手軽に魔法を8,192倍の威力にできるってどんなチートだよ。

 計算しながら俺は若干引いていた。


「すごくないですか?」

 ソフィはそんなのんきな事を自慢げに言っているが、数字が数字だけにシャレにならん。


「俺のしょぼい炎の球でも流石に、

 8000倍の倍率をかけたらあのでっかい魔獣もワンパン出来るわけだ。

 ……これはワーウルフの全滅も、あながち法螺じゃないな」


 ソフィは満足げに頷いた。


「ちなみに限界までやったら、あと何枚くらい足せるんだ?」

 ソフィは少し考えてから言う。


「本気を出せばあと5,6枚はいけると思います」


 ……はぁ、そりゃチートだな。

 2の19乗となると……計算するのも面倒なくらいデカい数字になる。


「それだけの倍率をかければどんなに弱い魔法でも、

 今みたいな強敵を一発で葬れるようになるっていうのはわかりますよね。

 だから先輩には少しでも強い魔法が出せるようにしてほしいし、

 欲を言えばやっぱり自動追尾(ホーミング)も習得してほしいんです」


 確かに、何十万もの火球を自動追尾で飛ばせたら流石に強いだろうな。

 今日のところはソフィのおかげで、相手をまっすぐつっこんでくるように誘導することができたが、いつもそれができるとは限らない。


 そのために自動追尾を会得する必要があるだろう。

 今の所はまだ魔力感知も怪しいくらいだが……頑張る甲斐は有りそうだ。


 ……やってみるか。

 

 

「ところでこの死体、どうしましょう」

 俺たちの足元には、黒焦げになった巨大な獣の死体が転がっている。

 幸いなことに死体からは、タンパク質を燃やした時特有の臭さは特段感じないが。


「流石に放っておくわけには……」

 いかないよな。そう続けようとした時、なぜかソフィの表情がこわばっているのが分かった。

 どうした? と尋ねようとした次の瞬間、


 耳をつんざくような大音量で、サイレンの音が辺りに響き渡った。

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