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第十二話 ③ 魔法習得

 放出する魔力に、術を乗せるイメージで――!


 ぼっ、と手のひらの上に炎が灯る。

 もう何度目かも分からないエラーの末に、ようやく炎の生成に成功する。


 王都北部のはずれ、目的の巨大樹の森へと足を向けながらの練習がようやく実を結んだ。


――――――――――

Magic:

- “Flame Generation”

- Level: Basic

- Dependency: Mana level

- Note: Can be combined with other magic

――――――――――


「わ、出来ましたね。すごいすごい」


 ぱちぱちと手を叩いてソフィは喜ぶ。

 素直に褒めてくれるのは嬉しいのだけど……

 

「いや、でもこれさ……別にライターとかで良くない?」


 俺の手のひらには、ピンポン玉ほどの小さな灯。

 “炎の魔法”と言うには少し……しょぼすぎる。


「大丈夫です、最初はそんなものですから。

 これから、ゆっくり強くなっていけばいいんです」


 上機嫌でソフィは言う。

 そうは言うけども。


「でも……どう考えてもこれじゃ魔物は倒せないだろ」


 手を少し上下に動かしてみるとすぐに炎は消えてしまった。繊細過ぎる。

 このくらいの炎で倒せる魔物なら始めから苦労はしない。指一本でも勝てそうだ。

 

 こんな小さな炎のために小一時間も頑張っていたのかと思うと、情けなくなってくる。


「それでいいんです、計画は順調ですから。ほら、森も見えて来ましたし……」


 ほう。あれがそうなのか。


 最近になってワーウルフによる被害が報告されているという、王都北部の巨大樹の森。

 その名の通り、一本一本の木の高さがとんでもない。

 まだまだ遠いはずなのに、デカすぎて距離感がバグる。



 俺たちのこれまでの冒険は、ダンジョン攻略を中心に行ってきた。

 つまり今までは、いわゆる討伐クエストと呼ばれる、対象のモンスターを倒すクエストを行ってこなかったのだ。


 強敵を倒すことで得られる素材を集めることで強力な武器を作る事も可能なのだが……今までは意図的に避けていた。


 理由はあまりにも単純。


 能力値Fランクの雑魚には、倒せる敵がほとんど存在しないから。

 今は多少経験値を手に入れ、ステータスが高くなったのでこうして討伐クエストを受けているが……


 どうすれば今日中に50匹の魔物を倒せるのかは結局良く分かっていない。

 ましてやこんなちっこい火で。



「じゃあ次は……投擲か。これを習得しないと、そもそも攻撃できないんだっけ」


 対象物を相手に向かって投擲する魔術。


 ボールを投げるように魔術を放つことも出来るのだが、それには相応の技術が必要で……魔術師が炎の魔法を使うときは、投擲を組み合わせることが一般的らしい。


 端的に言うなら、その方が楽なのだ。


「投擲は生成ほど難しくないから大丈夫です。

 炎の魔術で魔力操作の感覚は掴んだみたいですから……

 多分森に着くころには一通り習得できる、と思います」

 励ますようにソフィは言う。


 なら良いんだけど。

 炎を出すのに結構時間を食ってしまったので、間に合うか心配だったのだ。

 

 因みにこの手のひらの炎は、厳密に言うと化学反応としての火とは別物である。

 これに燃料は必要なく、かなり効率の良い魔法で重宝されている。

 

 イメージとしてはエネルギー弾に近いのだが……如何せん炎のように見えるせいで、大昔に偉い人がこの魔法に誤った名前を付けたまま、それが浸透してしまっているらしい。

 どの世界でも、先人の適当な命名のせいで後世の人々が苦労させられるものだ。


 ◇ ◇ ◇


「なんか……おかしくないか?」


 遠くに見えてきた巨大樹の森の姿に、違和感を覚える。

 何だろうと思って森の奥の方に目を凝らすと……新緑の木々がなぎ倒され、豊かな森だったはずの土地は半壊しているのが見える。


 よく見ると、今まで気づかなかった方が不思議なくらいに異様な光景だ。


 同じタイミングでソフィも気づいたようだった。ほんとだ、と呟いている。


「あれって、ワーウルフがやったのか?」


 ワーウルフによる被害を受けて討伐クエストは依頼されたのだろうが……狼があれだけ大規模なことを?


 ソフィはゆっくりと首を振って答える。


「ワーウルフぐらいじゃこんなことはできない、と思います。これはおそらく……」

 ソフィが続けようとすると、辺りに轟音が鳴り響いた。


 鼓膜がおかしくなりそうだ。

 姿を現したのは、異様なほど巨大な怪物。


 森からはまだ数キロも離れているはずだが、ここからでもその迫力が伝わってくる。


 不格好な胴体に、何本にも分かれた首。

 一つ一つの首の先には、竜を思わせる顔が付いている。

 ヤマタノオロチとか、ヒュドラとかの名で知られているやつに似ている。


 動きからして、誰かと戦っているようだ。

 なんで王都周辺の森に、そんな化け物みたいな奴がいるんだよ。


 遠くにいるので誰と戦っているのかは見えないが、ものすごく激しい。

 大丈夫なのだろうか。


 というか、なんで急に戦闘音が聞こえるようになったんだ。


「これ……一旦避難して、ギルドに報告か何かした方が良いんじゃないか?」

 相変わらずそのまま歩き続けるソフィに言う。


 ヒュドラは数多の首を巧みに操りながら、敵と戦っている。


 すげ。

 でっかい炎吐いてる。俺のとは大違い。


「いえ。おそらくすぐに終わるので」

 ソフィは歩みを止めない。


 ……まじかよ。

 どう見ても絶対危ないけどな。


「……それにしても凄いなあの怪物。広い森がこんなになっちゃうんだもんな」


 森の半分くらいの面積だろうか。そこは既にほぼ更地になってしまっていた。

 俺のつぶやきに、ソフィは口をはさむ。


「この惨状はあそこのヒュドラのせいだけじゃないと思います。むしろ戦ってる人のせい」


「……は? これ、人間がやったってことか?」


 ソフィは困ったように眉を寄せながらも、頷いて肯定する。

 人間如きにそんなことが出来るものなのか。


 というか。


「こんなに派手に壊してたら、絶対お叱りが来るだろ。

 遺跡とは違うだろうけど……王都からそう離れてない森なんだから、貴重な資源だろうに」


 討伐の報酬金がどんなのかは知らんが、罰金に追われても知らんぞ。俺みたいに。

 なんて思っていたのだけど。


「まぁ、普通はそうなるんですけどね。あの人は特別っていうか……」


 ソフィは困ったように眉を寄せて言う。

 あの人?


「もう少し待てば分かると思います。とりあえずは投擲魔法の練習を続けましょう」


 轟音が響き暴風の吹き荒れる中、俺たちは粛々と行進を続けた。


 狂ってる。

 たびたび思うが、なんでソフィはそんなに肝が据わってるんだ。

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