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第十話 ⑤ 脱出

地響きは徐々に大きくなり、鼓膜だけでなく体が震えているのを感じる。


「もしかして、主が帰ってきたんでしょうか……?」

 地響きは止まない。


 そうだ、ここは土竜の住処だったんだ。

 調べた限り帰ってくるのはまだ早いはずだが……何があったのか。


「マズいな……急いで離れないと」

 腰を上げて、荷物を背負う。本当ならもう少し話を聞きたいところだったが、今は仕方ない。

 

 早く、とソフィを急かすも一度ソフィは屈みこみ、リュックを開け始めた。

 何をやってるんだと焦るも、ソフィはリュックサックから変な袋を取り出した。


 なんだそれ、と一瞬眉を潜めたが、よく見ると見覚えがある。


 今朝ソフィが腐った肉を入れていた袋だ。

 確かソフィは腐った肉を袋に入れておくだけに飽き足らず、土と水まで一緒に入れて腐らせようとしていた。


 という事は。


「……あぁ、確か土竜は音と匂いに敏感なんだったな。

 てっきりそれ、イズのお土産にするもんだと思ってたけど」


 土竜は自身の巣穴に入り込まれることに抵抗があり、匂いを頼りに侵入者を追ってくるという情報があったのだ。

 スキルで調べた時は、そうなる前に逃げるからとあまり気にしていなかったけど。


 ソフィは小首を傾げた。


「そっか、それは考えてなかったです。じゃイズにちょっと残します」

 考えてなかったんかい。


 言ってソフィは袋に半分残して腐った肉を取り出し、俺たちの座っていた場所に振りまく。

 こうして匂いを誤魔化さないと、どこまで逃げても捕まってしまう。


 身支度を整え、フードを深くかぶり直す。

 足早に離れようとすると、向こうから土煙を上げて巨体が迫ってきているのが見えた。

 

 地響きを立てながら進んでくるその姿は、たとえ体が見えずともその大きさを感じさせる。


 恐らく俺たちの匂いはあの腐った肉と雨のお陰で消えているはずだ。


 分かってはいても、あの巨体を見ると恐怖が湧いて来る。

 頼むからこっちに来ないでくれ……と願いながら脇道へと走った。



「あれ、ケガ……してます?」

 ソフィが呟いたのが聞こえた。


 ……ケガ?


 ソフィは後ろを振り返っていた。


 振り返ってみると、土竜は自分の巣穴の前でその姿を現していた。


 全身を鉱物の鱗で覆い、とがった鼻と特徴的な鍵爪。

 その手だけで成人男性ほどのサイズがある、その家屋ほどの大きさの巨体が……所々傷つけられているようだ。

 強固な鱗が数枚剥がれており、痛々しくも鮮血が垂れているのが見えた。

 

「誰かと戦ってたってことか……?

 あれと戦うとか考えらんないんだけど。あんなの、どう考えても勝てないだろ」


「……でもこうやってルーチンを破って巣穴に帰ってきたってことは、

 誰かと戦った末に負けて逃げて来たってことのはずです。

 多分昨日のキャンプ地にいた冒険者が碑文の謎を解いて……」


 確かに。

 この怪物にこんな傷を負わせたやつの近くで俺は昨日の夜寝ていたわけか。


 それが分かっていたらもっと安心して寝れたんだけどな。


 ……いや、昨晩はソフィのせいでそれどころじゃなかったが。


「あの様子だと追われることはまずないから安心できると思いますが……

 念のため早く次に行きましょう。まだ“覇者の試練”が残ってる事ですし」

 フードのつばに触れながら、ソフィは見上げてきた。


 そっか、まだこの第二迷宮でやることは残っていたんだ。

 “迷宮の覇者”と呼ばれる武器を手に入れるための試練……“覇者の試練”。


 この中二病的なカッコイー試練の名前も、例の“土竜の碑文”と同じ人によるものなのだろうか。

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