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第十話 ④ ただしい世界の真実

「間違ってないってあの……千鶴さんの主張する†世界の真実†がか?」


 魔王は架空の存在だとか、王国と魔王軍は裏で手を組んでるとか、魔王軍の幹部は皆心優しいだとか……


 途中までは一応筋は通っていて聞きごたえもあったのに、幹部たちの集まる会議室ではお菓子が食べられて……みたいに、急にゆるふわな童話のような話をし出した時に俺はまともに取り合うのをやめていた。


 挙句の果てに、魔王を倒そうとすることは良くないとまで言い出している。

 そんなの、どこからどう聞いても向こうのイメージ戦略に乗っているようにしか聞こえないんだけど。


「もちろん確証のない情報もあるにはありますけど、恐らく大部分は本当の事なんだと思います」


 ゴミを綺麗にまとめ、手を払う。言ってソフィは、ようやくこちらに体を向けた。


「聞くに値しないと思って聞くからウソに聞こえるし、

 本当だと思って聞くからホントに聞こえるんです。

 必ず真実を見抜くことが出来る人なんて存在しません。結局は見えない床と同じです」


 指を立ててソフィはそう言い切った。

 真実かどうかは置いといて、少なくともソフィは千鶴さんのいう事をまるっきりの冗談だとは思っていないらしい。


「……その根拠はどこにあるんだ」


 荒唐無稽な主張を信じるには相応の根拠がないといけないわけで。


「根拠を上げる前に一つ。

 今までに千鶴さんが言っていた事に対して、一回でも論理的な反証が出来た事はありますか?」


 ……どうだろう。

 いくつか論理の飛躍はあったが、それは矛盾ではないので反証にはならない。

 思い返してみると確かにそんな記憶は無いけど……


「でも俺はこの世界に来てまだ浅いだろ。

 ここの常識も知らないし、歴史だって知らないわけで……。

 その状態で反証できないからって、それが正しいとは認められないんじゃないか」


 そう食い下がる俺に、ソフィは満足そうに頷く。


「ん、それでいいです。

 少なくとも知識なしで分かるような、明らかな論理の破綻は見つからなかったって事です」


 ……そうなるのか。


「それで、根拠ってのは?」

 俺が尋ねるとソフィは頷いた。


「裏付けになる“証拠”は沢山ありますが、

 私が千鶴さんの言う説を肯定する大きな“根拠”は父の残した指示書だけです。

 指示書には私たちがこれからやるべき事と、

 今この世界で起きている現状について書いてあるのは知っていると思いますが、

 問題はそこから読み取れることと千鶴さんが言ってる話が大体同じ(・・)だというところにあります」


「……ん?

 今の言い方だと、千鶴さんはその指示書を読んでないのに、

 同じ結論に至ってるように聞こえるんだけど」


 というかまた指示書の話か。

 よく話に出るが、いまだにそれにお目にかかったことは無い。


「まさに、それが問題なんです。

 この事は先輩以外には明かすなって書かれてたので、

 勿論千鶴さんには言ってないんです。

 それなのに、なぜか色んなことを知ってるみたいで」


 不思議な話だな。

 でもそうか、だから千鶴さんの前では虚言ってことにして取り合わないようにしていたのか。


 本来なら知っているはずのないことを外で言いふらされたら困るもんな。

 ましてや内容が内容だし。

 

「そういえばさ、いつだか千鶴さんから聞いたんだけど……

 昔炊き出しを毎日手伝ってたお陰で世界の真実に気づいたとかなんとか」


 あの時は勝手に何か変な宗教に引っかかったのだろうと、勝手に合点していたが……


「それは私も聞きました。

 どこでその話を聞いたんですかって尋ねても、

 孤児院の子供たちに教えてもらったのよ、みたいな変な事しか言わないんです」


 孤児院ね、なるほど。だから炊き出し。

 ……とはいえそこの子供がそんな真実を知っているはずもなく。


「……想像力豊かな子供もいたもんだな」


「この精度で現実に沿った物語を作れるなら大したものだとは思います。

 そうだとしても、子供の言う事を真に受けてそれを信じちゃう千鶴さんもどうかしてます」


 確かに。

 ソフィ曰くこれは真実らしいが、千鶴さんはそれを知らないはず。


 となると子供の戯言をそこまで信じられるというのもおかしな話だ。

 その裏には何か確証があるのか、それともピュアすぎて人を疑えないのか。


「日頃の言動を見てる限りだと……何とも言えないな」


 騙されて高い水を買わされるくらいだ。

 子供の話を真に受けて驚いている千鶴さんの姿がありありと浮かぶ。

 ソフィはため息をついた。


「それはそうとさ。

 千鶴さんのいう事が正しいとなると、

 魔王が王国の政策によって蘇った幻だーとかいう話も本当ってことか?」


「そうなんです。

 そこら辺に関しては、お父さんの指示書しか読んでない私よりも詳しいくらいで。

 千鶴さんの言う証拠をこっそり調べたこともあるんですが、

 驚くほど正確で納得させられたことも何度かあるんです」


 マジか。結局何者なんだ千鶴さん。


「この世界では、二十五年前に一度魔王が倒されてるんです。

 その時に平和が戻ったのは良いけど、そこでフェニキアは大打撃を受けたんですね。

 一番力を入れていた産業と巨大な市場が一夜にして潰れたわけですから」


 ここら辺の話は千鶴さんから聞いた気がする。

 そんな話真に受けるなとソフィに言われたせいで大部分忘れてしまったが。


「その時に上層部の中で、

 魔王を疑似的に復活させることで冒険者産業を取り戻す政策が上がったんです。

 相当過激な案ですから当然反対の声もあったんですが、

 期限を設けるっていう事で妥協することになってしまったんです。

 その期限までに冒険者産業に代わる産業を育てて、

 こんなやり方に頼らなくても良いようにしようっていう事で」


 その案自体ちょっとおかしいんですけどね、とソフィは付け足す。

 しかし期限か、そこは千鶴さんからは聞いていないな。

 もしかしたら言っていたのかもしれないが……少なくとも覚えていない。


「ってことは……その期限が過ぎれば勝手に魔王は退くってことか?

 でも……確か前、魔王が勝手に死んでくれさえすれば、

 もう私たちは何もしなくていいみたいなこと言ってなかったっけ」


 それなら何もせずその日まで待っていれば、それでおっけーなんじゃないのか。

 

 しかしソフィは目を逸らし自嘲気味に笑う。


「その期限を王国が守ってくれるなら良いんですけどね」


 え。

 そんなことある……?


 守らないという事は、その期限を踏み倒そうとしているってことになるんだけど。


「でも国で決めた事なんじゃないのか? そんなの簡単には破れないだろ」


「それはそうです。

 抜け道が見つからないくらいには相当頑丈に規則で縛られてるんですが、

 それでも今この王都の内情を見るに、

 他産業を発展させようとする気概が全く見えないんです。

 王都の議事録等を調べてみても……

 この二十年で出された他産業の発展のための補助金の法案が通った事は殆ど無くて」


 それが本当なら……やってんな。

 意図的に他産業を発展させないようにする力が働いている。


 モノカルチャーから脱却するための準備期間のはずが、何者かの手によってそれを阻止されているらしい。

 現状維持する事しか考えてない。反対派は黙殺されているわけだ。


「問題は、この体制が続けば続くほどこの王都は豊かになる陰で、

 周囲の国が瘦せ細っていくことにあるんです。

 戦争は終わらないし、ずっと苦しい生活は続く。

 今も死者は沢山出てるっていうのに」


 ……なるほど。

 確か千鶴さんは、魔王討伐に近づけば近づくほど敵が増える……みたいな事を言っていた。

 健全に冒険活動をしているうちは良いけど、本気で魔王を倒せるような人が出てくると王国はきっと妨害工作を始めるとまで。


 そうして現在の状態を維持することで理不尽に不幸になる人たちが存在するとなると……大きな問題だな。

 自国が甘い蜜を吸い続けるためには、人道に反したことをしても良いと暗に主張しているようなものだ。


「調べてみると近くのランスとかタリヤに比べて、

 ここフェニキアに魔王軍が攻めて来る回数は不審なほど少ないことが分かるんです。

 現に今もその二国は攻め入られているのに対して、フェニキアは平和ですよね」

 

 これが“証拠”の一つという訳か。

 魔王軍がどうもフェニキアに都合の良いように動いている……


 フェニキアの周辺国に攻め入ってもらうことで力をそぎ、とうの本国とは戦わないとなると……魔王軍ってのはかなり都合の良い存在だな。


「なんかそれって……ズルくないか。

 汚れ仕事は全部魔王のせいにして、自分はあくまで正義を騙ってる訳だろ?

 自国の発展のため、

 とかいうきれいごとじゃ誤魔化せないような事してるような気がしてくるんだけど」


 もしこれが本当なら、の話だが。

 

 そういうことです、とソフィは続ける。少し声が大きくなったようだ。


「先輩の記憶を取り戻した後の話はまだしてなかったと思うんですが、

 大雑把に言うとこれを“是正”することが私達の目的です。

 腐敗したこの世界と、その仕組みごとぶっ壊す。指示書にあったのはそのための……」


 と、そこまで言ってソフィは口をつぐんだ。

 

 突如、足元が揺れる。地響きが聞こえて来た。

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