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魔王城にて ② 第二階層 東区 第弐拾八会議室

「気になる点と致しましては……

 霜月家のソフィアと行動を共にしている事や、

 各地のダンジョンを飛び回っている事などでしょうか」


「ソフィアね……やっぱり、向こうにも何か計画があるのかしら。

 記憶とスキルを取り戻す算段があるとか……。

 でも、ダンジョンに向かってるって言ったわよね?」


「そのようです。(わたくし)も何か計画があるのかと考えておりましたが、

 ある意味普通の冒険者らしい行動をしているようですね」


 変なの、とシアは呟く。

 二年前の事件から、ようやく帰ってきたかと思いきや……

 今度は普通に冒険者らしい事をしているという。

 どうにも真意を測りかねる。


「しかしモルテ様曰く、どうも不審な点が多いようです。

 尾行を始めたのは昨日の昼頃からなのですが、

 彼らは昼過ぎから二人だけでカウェグラ遺跡へと向かい……

 その数時間後には目的を果たして帰ってきたとの事で」


「……早すぎるわね。ソフィアって確か、攻撃魔法が封じられてるんじゃないの?」


 訝しむようなシアの言葉に、(しゅう)は頷く。


「その通りです。またご存じの通り、佐伯槻の能力値はFランクですから、

 彼らがその短時間でダンジョンを突破しているというのは異常です。

 そしてモルテ様の報告によると、

 どうやら彼らは道中、一度も戦闘を行っていないようです。

 まるで全てのモンスターや罠の位置が分かっているかのように行動をしていた、

 という報告がありました」


 シアは一度天井を仰いでから、柊に視線を戻した。


「まぁ……確かに意味がわからないけども、そういうのを考えるのは先生に任せるわ。

 というか随分と詳しいのね、モルテ君。

 尾行って言っても、ダンジョンの中を追うのは大変だったでしょ」


「モルテ様はほぼ密着状態で二人に尾行をしていたそうなので、

 行動は殆ど肉眼で収めているとのことです。これは先生の命令だそうで……」


「密着状態って……何かやらかさなかったんでしょうね」

 遮るようにシアは口を挟んだ。


「もちろん……と言いたいところですが、そうもいかなかったようです。

 ですが、先生曰く……リスクを取ってでも間近で観察して、

 情報を集めるのを優先しなさいと命令しているとの事でした」


 ふーん、とシアは相槌を打つ。


「やっぱり結構危険視してるのね。最初は、我々の脅威にはなりえないーなんて吹いてたのに」

「ええ、何しろ彼らの行動は予想が付きませんから……警戒せざるを得ないのでしょう」


「それで?モルテ君は何をしでかしたの?」


 心なしかシアの口の端が上がっているようだった。

 柊はそれを咎めるように。


「……人の失敗を話のタネにするというのは、あまり好きではないのですが」


「でも、モルテ君本人が報告してるんでしょ?

 ちょっと楽しみにしてるのは認めるけど……別に笑ったりしないからさ」

 ほら、いいでしょ?とシアは柊にねだる。


 少し柊は迷っている様子だったが、一つ頷くと。


「……分かりました。失態を隠すというのも組織として健全ではありませんからね。

 簡単にですが報告致します」


 ため息をついて、柊は手帳を一枚捲った。


「まず昨日カウェグラ遺跡では、

 第十一階層で尾行をしていた際にモンスターに囲まれてしまうハプニングがあったようです。

 その時に近寄ってきたゴブリンを一体、思わず反射で殺してまったとの事で……

 もしかしたら不審に思われたかもしれないと反省しておりました」


 反射って……とシアは笑いそうになるも、違うところに興味がひかれたようで。


「って言うか、第十一階層まで行ってるの? 数時間で?」


「そのようです。

 ショートカットを駆使してあっという間に登って行ってしまったとの事で。

 そのせいで追うのが大変だったとありました」


「何か嫌な感じするわね。敵と戦わない所だったり、攻略の速度が異常だったり」

 シアは胸の前で腕を組む。


 柊はシアの方を見て、何も言い出ださないのを確認してから続ける。

「ナーガ迷宮では尾行の途中、

 彼らが避けて通った落とし穴に不覚にも落ちてしまったとあります。

 落ちただけなら良いのですが、

 どうやらそこにいると雷が降って来る仕掛けになっているようでして……。

 一度食らって死んでしまった、と書かれておりました」


 シアも今度は流石に笑わない。痛ましそうな表情をしていた。

「今夜はその穴の中で過ごすそうです。明るくなってから外に出る方法を探す、

 と締めくくられておりました」


「今も落とし穴の中って。

 モルテ君なら大丈夫っていうのは分かってるんだけど、大変そうね……。

 ていうか、ナーガ迷宮って言った?

 あんな所、ここに来て数日の冒険者が行く所じゃ無くない?」


「そう、ですね。明らかに彼のレベルに見合わないダンジョンかと思います。

 ですが、ナーガ迷宮を攻略するレベルの上級者というのは数多くいます。

 流石に今すぐ脅威になるというほどではありません」


「今の所は……ね。でも何となくいやーな感じ」

 ふん、とシアは鼻を鳴らす。


 話が途切れたところで柊は手帳を捲り、次の話題へと移った。


「最後に、二日後に迫る“襲撃”の件です。シア様はその総指揮で忙しい事と思いますが……」

 そこで柊は一度言葉を切り、二人の座っているソファの方を見た。


 ここからの話は、部外者においそれと聞かせることはできない。

 二人は顔を寄せ合って小声で話し出す。



 ソファの方からは、消音魔法のおかげで話し声は聞こえない。

 二人は相変わらず緑のボードを囲んで座っている。


 ティネは一面を一色で染めることには飽き、外側の周り一列だけを黒にする方法を考えていた。

 ティネが集中して考えているときは何をしても反応がないので、ハイドはフィネのほっぺをつついて遊んでいるようだ。


 ティネはこういった知的ゲームを好む。


 将棋やチェス、囲碁などの戦略性の高いものをやるのだが、なぜか本来の遊び方である人との対戦という形で遊ぶことは殆どない。

 今回のリバーシのように、どうすれば美しい盤面が作れるかを自分で考えて遊ぶことが多いという。


 ハイドは自分が頭を使わずに済むため喜んで相手をするが、

 端から考えることを放棄している。

 時々暇を持て余して、話し合いをしている大人の方をちらりと見たりはするものの、

 深刻そうな顔で話しているときは入っていくと怒られるので空気を読むことにしている。


 それくらいの分別はある、と本人は言っているがその信頼は全くと言っていいほどない。




「……ここが勝負だものね。大丈夫、何とかやれないことは無いと思うわ。

 準備は順調だし、今回は切り札があるから」


 シアは両手を胸の前で握り締め、頷く。

 かなり長いあいだ、二人は話し合っていたようだ。


「大型獣を四体ほど導入すると聞いています。

 中でもヒュドラ……でしたよね、確か。

 博士がずっと試したがっていたのを覚えておりますが。

 周辺国に導入するにはあまりに過剰だという事で認可が下りてませんでしたから……ようやくと言ったところでしょうか」


 シアは頷く。心なしか頭がぽやぽやと揺れているようだ。


「もういい時間ですね。ご多忙だと存じますので、今日の所はこれで」

 柊は手元のメモ帳を懐にしまいながら言った。


「……そんなに眠そうだった?」

 シアが恨めし気に見上げる。

 柊はそれには答えずに、お疲れ様ですと言って立ちあがった。


 シアは膨れ顔で、消音壁を解除した。

 丁度ソファの方では、作品が完成したところだったようだ。

 フィネはハイタッチをして喜び、こちらに見せようと駆け寄ってきた。


 満足のいく結果になるたびにティネはこうやって甲斐甲斐しく盤を持ってきて見せてくれるのだが……

 盤上に綺麗に並んだコマを見せられても、そこにどんな過程や苦心があったのかはさっぱり分からない。


 適当に全てのコマの黒の面を上にして並べただけの盤も、細心の注意を払ってルールにのっとって作られた白一色の盤面も、結果だけ見れば同じなのである。


 我々が今やっていることも同じなのだろう。そう柊は考えた。

 はたから見れば、我々もただ単に被虐の限りを尽くして人々の生活を脅かし、甘い蜜を吸っているようにしか見えないのだろう。


 完全な正義だとまでは言わないが、少なくとも自分の今していることは巡り巡ってみんなのためになることだと信じてやまない。

 そこにある黒一色の盤だけを見て、そこの裏にある本当の真実(・・・・・)に気が付ける人なんて……


「……柊おにいちゃん、どうしたの?」


 ティネが柊を心配そうに見上げている。


「いえ……ご心配、感謝いたします。シア様にもお見せになってください。

 きっと褒めて頂けると思いますよ」

 安心させるように柊がそう言うと。


「なにー? ティネちゃん、私にも見せてくれるのー?」


 シアは手を広げてティネに笑いかけた。


 褒めてもらおうと急いでシアのもとに駆け寄るティネの姿を、柊は微笑ましげに見つめていた。

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