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魔王城にて ① 第二階層 東区 第弐拾八会議室

 灰色の壁に囲まれた一室。


 その隅の長机に、小柄な赤髪の女性――シアが座っていた。

 彼女の胸元には、赤を基調とした花柄のエプロンが付けられている。


 反対側には、特徴的なハンチング帽をかぶった少女、ハイドが座っていた。

 手には何やら白い紙を広げており、隅から隅までなめるように観察しているようだった。


「お絵描きか……なにか?」

 沈黙に耐えかねたシアが口を開く。

 

 長机の隣のソファには、小さな女の子――フィネがすうすうと寝息を立てて眠っている。

 この部屋で聞こえてくる音と言えば、その寝息くらいのものだった。


「違うよ」

 と、ハイドはばっさりと切り捨てる。

 相変わらず視線は目の前に広げた白紙に落としたままだ。


「じゃあ、おりがみ……とか?」


 シアはそれでも歩み寄ろうと、少女に話しかける。

 ハイドは顔を上げて机の反対側にいるシアに目をやった。


「おり……何? あぁ、これがなにか分かんないんだね?」

 純粋に訊いている……他意がないだけに、シアはなんだか侮辱されたような気分になってしまう。


「そうね、見たところただの白紙にしかみえないのだけど」

 机の上に肘をつき、髪の毛を弄くりながらシアは言う。


「これは今日の戦利品。ただの白紙に見えて、これ一つで三等地に家が建つくらいの価値があるのだよ」

 自慢げにその紙を掲げる。


「ちょっと王都に行ったついでに、前から気になってた家から頂いてきたんだ」


 嬉々として語る少女に、シアはため息交じりに言う。


「盗んできた、でしょ?」


 聞こえないふりをするハイドに、これだから信用がならない、とシアは、一層心の壁を厚くしてゆく。


 シアの目の前に座る少女は、盗賊である。


 魔物を倒して魔王討伐を目指す冒険者陣営でもなければ、魔物を利用して世界を支配し冒険者を根絶やしにしようと企む魔王陣営でもない。

 その戦いには興味を示さず、ただ自分の好きなように生きる、いわば流浪の民。

 本名は明かそうとしないが、通称でハイドという名が知れ渡っている。


 なぜかいつも会議が始まるころにはふらっと現れてこの部屋にいる。

 普段は鍵がかかっているはずのこの部屋に当然のように居座っているのが、シアには不思議でならなかった。

 その上いつの間にかティネとも仲良くなってるし、柊も咎めるようなことは言わないし……

 

「これはね、とある人にとって大事なものになるはずのもので……。

 そういう意味では、キミ達にとってもとても大事なアイテムになるのかな」


 足をぷらぷらとさせながら、意味ありげにハイドはそう言うが、その言葉からは何の意味も汲み取れない。

 また適当な事言って……とシアがため息をつくと。


 がちゃりと大きな音を立ててドアが開いた。


 スーツを着た男――(しゅう)だった。


 柊の仕事場は、ここ二階二十八会議室から少し遠い。

 柊は会議に遅れてしまったことと、

 ソファで気持ちよく寝ていたティネを起こしてしまったことを詫びる。


 ティネは眼をこすりながらゆっくりと体を起こす。

 しかしティネは柊の姿を見ると、眼を見開いてソファから跳ね起きた。


(しゅう)おにいちゃん、これ……!」


 スーツの上に羽織ったコートを脱いでいる柊に、ティネは元気よく叫びながら走り寄ってきた。

 手には緑の盤に黒の石が敷き詰められたものを持っている。


 柊はそれをじっくりと眺めるように見て。


「おや、これは凄いですね。よく出来ております」

 言いながらティネに微笑みかけた。


「でしょー!」

 えへへ、とティネは嬉しそうにはにかんだ。


 手に持っているのは、リバーシやオセロの名前で慕われる古典的なボードゲームだった。


 フィネは誰かと対戦をするわけではなく、どうやったら盤上のコマを一色にできるのかを研究していた。

 ルールにのっとって、完全試合を成立させる。


 何度か盤面を一色にすることはできていたのだが、これはフィネに言わせると自然な指し手ではないらしく、あくまで自然な指し手で完全に一色に染め上げるという謎のゲームをやっていたらしい。

 子供というのは頭が良いのか頭が悪いのか。とシアは半分呆れながらその作業を見守っていた。



「……お忙しい中お呼びだてさせてしまって申し訳ありません。

 色々と立て込んでいるようですが……お伝えしなければならないことが多かったもので」


 柊は非礼を詫びるも、シアは手をひらひらと振る。


 もう一度だけ儀礼的に頭を下げると、柊は席に着いた。


 ハイドは既にソファの方へと歩き去って行っていた。

 今は二人仲良く緑のボードを囲んでいるようだった。

 二人の遊んでいる様子を横目に、シアは消音魔法をかけた。


「まずは手短に済むもの……軍の進行状況からですね。

 どちらも緊急性はありません。現在我々が戦争状態にある二国のうち……

 ランス侵攻の成功が一点と、一方ででタリア侵攻の苦戦も報告されています」

 居住まいを正し、柊は口を開いた。


「そう。まぁ、予想通りって感じよね。……で、ランスの方はやりすぎなかったんでしょうね?」

 訝しむようにシアは尋ねる。


「ええ、早期段階でランス側から降伏が通達されたようです。

 エーヴィス様は大変怒ってらっしゃいましたよ。男なら最後まで堂々と戦え……だのと」


「ランスの統治者は女王だったと思うけど」

 フラルの言葉に、男は肩をすくめる。


「頭を冷やしたいと仰っておりまして……エーヴィス様は少し遅れて帰って来るとの事でした。

 ですが、恐らく四、五日後には帰って来るでしょう」


「そう。それで、タリア侵攻の方は苦戦してるんだっけ?」


「はい、そのように報告は受けました。

 とは言っても、状況を聞いている限り問題は無さそう……というより、

 どちらかと言うと順調のように聞こえたので、彼女のいつもの過小評価癖と思われます」


「テトちゃんだっけ、タリア侵攻の取締役」


 男は頷いた。

 なら問題は無いわね、とシアは言って安心したように鼻を鳴らした。


「続いて勇者に関する報告です。昨日、勇者一行がサラス地方から王都へ帰還してきたとの事です。これと言って大きな変化は無かったようですが」

 シアは頷いた。


 勇者というものは常にいろんなところを飛び回るものなので、ここ魔王城に来るという情報以外は大した問題にはならない。

 ましてや、サラスは王都から見て魔王城と反対側にある地方。

 あまり強い魔物は生息しておらず、冒険者業が発展していないので大した収穫は無かっただろう。


「まぁ、予定通り帰って来てくれて良かったわ。むしろそうじゃなきゃ困るって言うか……」


「このままであれば、恐らく王都を旅立つタイミングも変化はないかと。

 少なくとも、我々の計画にとってイレギュラーにはならなそうです」


 そうね、とシアは呟く。


「ただでさえ考えることが多いのに、これ以上変な事されたらパンクするところだったわ」

 天井を見つめて言うシアの目元は、ここ数日の疲れが如実に表れているようだった。


「では次です。モルテ様から、尾行対象である佐伯槻の行動が報告されています」

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