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第九話 ② 時空のズレ

「明日はいよいよ、第二迷宮の攻略ですね」

 ペンの先をくちびるに当てるようにしながら、手元の手帳に目を落としている。


 上半身を寝袋から出してうつ伏せ状態のソフィは、枕もとのランプの光を頼りに明日のやるべきことをチェックしてくれていた。


「第二迷宮では土竜の洞穴に行くのと、その後に迷宮の覇者を手に入れる必要があるので……

 少しペースは速めた方が良いかもです。

 今日と違って丸一日使えるから時間はありますけど」


「第一迷宮を抜けるだけでも結構疲れたんだけどな……。

 明日はその二倍歩かされるって結構キツいな」


「本当にこの施設があって良かったですね。

 体もまともに乾かせない中眠ってたら、明日が大変だったでしょうし……」

 うつ伏せのままソフィは手帳を閉じ、ぐっと伸びをする。


「そうだな。最初に温風施設の値段設定を見た時は、

 こいつらいい商売してんなぁなんて思ったけど……。

 ここまで色んな道具やら資材やらなんやらを持ってくるのも楽じゃなかっただろうし」


 これがあったおかげで命を救われる冒険者もいた事だろう。

 需要に応えることで利益を得る、まさに資本主義市場のあるべき姿。

 迷宮の中に休める場所があるというのもちょっと世界観が崩れるとは思うが、まぁこの際目を瞑ろう。

 

 ソフィは体を伸ばし、ランプに手をかけた。

 ふっ、と辺りは暗くなった。


 ずっと歩きどおしで疲れているからか、暗闇と眠気が心地よい。明日も早い事だし、今日の所は……


「あと、そういえばですけど」

 目を瞑り、さっさと眠ってしまおうと考えていた矢先。


 隣でソフィが呟いたのが聞こえた。

 どうしたのだろうと、耳を傾けると。

 

「先輩、ちょっと緊張してます?」

 急に耳元で囁かれたのに不意を突かれ、のけぞってしまった。


 それより、今のは質問なのか? と焦る俺だったが、幸いスキルは反応していない。

 ここがチャンスとばかりに慌てて答える。


「そ、そうなんだよな。ちょっとこの寝袋、独特の香りがするから落ち着けなくて……」


 これは本当だ。その証拠にスキルに咎められていない。

 苦し紛れの言い訳にソフィは、寝袋?と呟いた。


「あぁ、これお父さんの私物ですもんね。確かにちょっと慣れないかもです」

 よし、ちょっとだけ話題を逸らすことに成功した。


「そういえば……寝袋は二つあったみたいだけど、ソフィが使ってる分もお父さんの私物なのか?」


 俺はなんで特に興味もない寝袋の話なんかしてるんだろう。

 心底どうでも良い。


「おそらく。焼け残った倉庫の中にあったので、

 父が昔冒険をしていた時に使ってたものなんだと思います。

 私の分は多分同じパーティにいた人の分……とかでしょうか?」


 自然な流れで話を逸らすことに成功した。


 一つのテントの中で、男女が二人並んで寝るっていうのだからそれは多少緊張して当然だろう。

 それなのにソフィはさも当然のようにしているから俺も平気なふりをしていたんだけど……一体どこでバレたんだ。


 今のうちに心臓を沈めておく。


「昔使ってたって、そんな古いものに見えないけどな。テントも、寝袋も」

 ソフィのお父さんの年齢は知らないが、一世代前のものかどうかの区別ぐらいはつく。


 特にデザインや素材には流行り廃れがあるから、見ただけで分かるものだ。

 見た感じ特に古いデザインには見えない。


「あぁ、先輩からしたらそうかもです」

 なんだその、俺からしたらって。


 ……そういえば。

「なんか前もそんなこと言ってなかったか?

 二年前の話をするときに、わざわざ“私からして二年前”って断ってたような記憶があるんだけど。

 なんなんだ?俺からしたらとか、私からしてってのは」

 確か二日前、千鶴さんの酒場で話した時にそんなことがあったはず。


「あれ、話してませんでしたっけ。先輩のいた地球とここだと時間の流れ方が違うっていう話……」


 なんだそれ。


 聞いていないと、俺は首を振る。

「そっか……そうですよね。

 こういう常識の話ってどうしても抜け落ちがちです、

 別に隠そうとしたわけではないんですけど」


 少し考え込む素振りを見せる。

 明かりのないテントの天井を見つめながら、ソフィの言葉を待った。


「結論から言うとここは先輩の居た地球と比べて約十倍の速度で時間が進んでるんです。

 こちらでの十年が向こうの一年と言えば分かりやすいでしょうか」


 ……なるほど?時間の流れが違うと来たか。

 なんでだろう。

 この星の近くに強い重力場が存在するとか、地球との相対速度がものすごく速くなってるとかなのかな。


 俺くらいのおつむだと他に理由が思いつかないけど。


「十倍ってことは……例えば、

 ソフィの家が燃えて俺が元の世界に帰ったのがここでは二年前の話だったけど、

 俺にとっては大体二か月ちょっと前の話。みたいなことになるのか?」

 正確には36.5×2で73日前。つまり二か月半前。


「そうです。

 だから……父が転移して来た三十年くらい前? も先輩からしたら三年前話になるんです。

 テントのデザインが新しく感じるのはそのせいじゃないでしょうか」


 なるほど、確かにそうか。

 ……ってことはソフィって俺のたった三年上だった人の子供ってことになるのか?


 ちょっと違和感があるな。何となく。特に理由はないけど。


 それだけじゃなくて……時間の流れが違うとなると、他にも色々と変わって来そうなものだ。


「そういえば……古代遺跡ってのは約六千年以上前のものだって言う話を千鶴さんから聞いたんだけど、これは信用していいのか?」


 今日の昼に千鶴さんと話した時にそんな事を言っていたような記憶がある。


「んー。別に詳しい訳じゃないので断言はできないですけど、

 多分大きくは間違ってないと思います。どうしてですか?」


「いや……そうなると、六千年前ってのが地球上だと六百年前になるわけだろ?

 となると日本の城が遺跡になってるのに説明がつくな……って思って」


 昨日行ったコゥイガ遺跡、古代遺跡だというにはあまりにも日本の城そのものすぎるな……と思っていたのだが。

 六百年前だと考えると時間軸だけは合いそうだ。

 

 西暦1400年というとヨーロッパは中世後期で、日本では戦の多い室町時代らへんだろう。

 となるとその時代に、向こうとこの世界が繋がっていた……?


 ……まぁそこら辺の事はどうせ賢い人たちが研究をしてくれてるだろう。

 今更俺なんかが考えたところで時間の無駄なのだ。


 今はそんな事よりも。


「話は戻るんだけど、ソフィにとっての二年前が俺にとって二か月前ってことは……

 もしかして、二年前の俺も今と同じ19歳ってことにならないか?」


 確か第一迷宮で俺がソフィをおんぶしたときに、君は本当に変わらないーみたいなことを言っていた気がする。


「そう、本当に全然変わってないですね、私だけが二年分年を重ねてて。

 今でこそ少しは成長しましたけど、あの頃はまだ16だったので……ずぅっと子ども扱いされてました」


 基本的にしっかりしているせいもあってか、今となってはソフィに対してあまり年下という印象は無いのだけど……

 二年前はそうじゃ無かったらしい。


 まぁでも、16歳はどう考えてもガキだろ。

 とはいえ二年もあればここまでしっかりした子に成長するんだな……とちょっと感心していると。

 

「あの頃は何やっても子供だからってあしらわれて……それがくやしくて」

 噛みしめるように言った後、ソフィは一度言葉を切り……急に声が近づいた。


「だから、先輩がちょっと緊張してるの見れて嬉しかったんです」

 耳元で囁く言葉には、こらえきれない笑いがにじみ出ている。


 いつの間にか話が戻ってきているし、俺が緊張していたのはお見通しらしい。

 少しは動揺したものの、それでも……


「やっぱりまだ子供だな」

 認められないのが悔しくて、ようやく見返して嬉しい。

 ……なんて発想が既に子供なんだよな。


 俺の言葉を聞いて、ソフィはくすくすと笑った。

 何がおもしろいのか、そのまま顔を埋めて笑い続ける。


 なんだかソフィが年相応に笑っているのを見ると安心してしまう。

 見た目こそ少女だが、この三日だけでも感じ取れるように、ソフィはかなりしっかりしている。

 俺もまだよく分っていないが、色んなものを失ってなお、使命を背負い続けて……


 俺はソフィにやれと言われたことをやっているだけだが、ソフィは事情を知っているからこそもっと大変なはずだ。


 年相応に遊ぶこともできないソフィが、こんなふうに楽しそうにしていると俺もちょっと嬉しくて……



 ……楽しそうなのは良いんだけど、そろそろ早く離れてくんないかな。

 いつまでくっついたままでいる気なんだ。

 耳元で笑われると、どうにもくすぐったくてむずむずする。


 なんて思っていながらしばらく動けずにいると、ようやく笑い疲れたのか、静かになった。

 しばしの静寂。


「イズ、ちゃんと良い子にしてるかな」

 思い出したようにソフィはぽつりとつぶやく。


「どうだろうな。でもまぁ……六千年も一人ぼっちだったんだから、

 今さら一日くらい大丈夫だろ。千鶴さんもいるんだし」

 安心させるように俺はそう言うと、

 そうですね、とソフィは呟いた。


 くぁ、という小さなあくびがひとつ。

 続いて、

「おやすみなさい」

 囁くような声が耳元で聞こえた。


 今度こそ、テントに静寂が訪れる。



 ……

 …………え?

 もしかして、この体制のまま寝るつもりなの? ちょっと? 嘘だよね?

 これじゃあ完全に添い寝なんだけど。

 息がかかってくすぐったいんだけど。

 このままだと俺、明日寝不足で雨の中歩き続けることになるんだけど……!


 そんな悲壮な心の声が届くはずもなく。

 当の本人は幸せそうな顔で、すやすやと寝息を立て続けていた――





――――――――――

佐伯 槻

Lv 8

HP 42/42

MP 18/18

ATK ((1))

DEF 11

MAN 7 ((→37))

STR ((52))

DEX ((48))


SKILL 『正直者』

――――――――――


――――――――――――――――――――――――

目標ステータス総計:1200(現179→209 残1021→991)

目標討伐数:1000 (現0 残1000) //三日も経って一体も……。


目標金額:約50万ティーネ (現 150,000 残500,000)

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