第七話 ① ショートカットで最速攻略
俺たちは、数多のモンスターを薙ぎ払いながら慎重に罠を避けながら、
数々の苦難を乗り越えてようやくダンジョン五階層へたどり着いた――
嘘。
そんな展開は一ミリも無かった。
ここカウェグラ遺跡に到着してものの10分も経っていないというのに、俺たちはもう五階層にたどり着いていた。
入口の近くで見かけた他の冒険者たちに申し訳が立たない。
「これ……もっかい同じことすればもう着くんだよな。
コゥイガじゃ何もかもうまくいかなかったから、こうも素直だと逆に不安になるんだけど」
声を潜めながら俺は、メモに目を落としているソフィに話しかける。
「大丈夫です。本来そのスキルはこれくらいの事が簡単にできるものなんですから。
さっきのはちょっと詰めが甘かっただけで……
じゃなきゃ一日に二つもダンジョンを攻略するなんてことしません」
ようやく確認が終わったのか、ソフィはメモから顔を上げて懐にしまった。
スキルのおかげで俺たちは、このダンジョンの敵や罠の位置や地形、最適なルートに至るまで事前に全てを把握している。
だからここまでは、一度も戦闘をすることなく進んできた。
しかしイベントが無いとはいえ、広いダンジョンをただ練り歩いているだけでは攻略する前に日が暮れてしまう。
そこで必要になってくるのが……
「10階層へのショートカットは……ここにあるはずです。
ここのは五階層のとはちょっと違う仕掛けみたいですが」
「ホントだな。五階層には露骨に数字版みたいなのが置いてあったのに……
見た感じそれっぽいものはないな」
見渡す限り、何の変哲もない部屋にしか見えない。
ショートカット。
俺達が爆速で5階層までこれたのは、これのおかげである。
ダンジョンというのは長いもので、普通一日で攻略しきるなんてことはめったにない。
ダンジョン内で休憩することもできるが、一度帰って体制を立て直したいとのぞむ冒険者も多い事だろう。
しかしそうなるとせっかく10階層まで来たというのに、一度戻ったら進行状況がリセットされてしまう……という悩みに悩まされることになる。
そこで便利なのがこのショートカットという仕様である。
この世界のダンジョンには、5の倍数などの切りの良い階層には何かしら直通のショートカットが用意されていることが多いらしい。
もし何かの都合で一度ダンジョンから離脱したとしても、進行度によってある程度までは直通で行けるという親切設計……というわけだ。
古代人がどのような意図でこんなものをつくったのかは良く分からないが、その恩恵を存分に享受させてもらう。
「数字版が無いということは、番号を入力するとかではないのでしょうか……」
ソフィは呟いて辺りを見回す。
石畳が敷き詰められた部屋に、隅の方には樽が数個置いてあるのみ。
気になる事と言えば、樽がやけに綺麗で頑丈そうな印象を受けるということくらいか。
しかしまぁ、こればっかりは考えても仕方がない。
なにせ、本来は十回へ到達した人にしかこのショートカットを使う権利は無いからだ。
「じゃ、とりあえず……この部屋の使い方教えてくれる?」
ソフィは俺に……というよりスキルに質問をする。
すると一瞬の間ののち、俺の口はものすごい速度で動き出した。
『五階層から十階層へのショートカットの概要は、以下の通りです。十階層には、五階層とまったく同じ構造の部屋が一つ存在しています。その部屋には、固定されて動かせないようになっている樽が設置されており、その配置を五階層の該当の部屋で再現すると隠し階段が出現する仕組みとなっています。また、樽の位置は観測されるたびにリセットされるため使い回しは不可能です。次に、ショートカットの方法は以下の通り。この部屋のタイル15×15を入り口から向かって右奥を1の一、一つ左にずれると1の二と、向かって右奥のタイルから一つ手前にずれると2の一となるようにこの部屋のタイルを向かって右奥1の一から向かって左手前の15の十五までと定義します。現在十階層の該当の部屋には四個の樽が置かれています。位置は3の七、6の二、8の四、11の十であり、樽はそれぞれ特徴があるため対応させて設置する必要があり……』
「なっがぁ……読ませる気のない利用規約じゃないんですから……」
終わってもいないのに既に説明を聞きとるのを諦めたのか、ソフィはぼやく。
確かにこのスキルの性質上、多少複雑になることは覚悟していたが……流石にこれでは一度聞いただけでは無理だろう。
まだ続いている説明を尻目にソフィは一度覚えるのをあきらめ、しまっていた手帳を取り出し始めた。
口が乾くのを我慢してしゃべらされてるんだから一回で聞き取ってほしい。
まあ俺自身まともに覚えようとしていないが。
スキルが説明をするときは基本早口なので、めちゃめちゃ疲れる。
『……出現した階段は制限時間十五分で再び消滅します。なお、時間が切れた時にまだ階段に残っているものは、自動的に五階層に戻されます。』
ようやく説明が終わり、俺は口を閉じた。
……キツかった。
時々聞いてもいない補足説明があったせいで余計に長かったように思う。
息をする暇もなかったため、ダンジョンの空気も相まって酸欠気味だ。
くらくらする。
一旦どこかに腰を下ろして休もう。
と、そう提案しようとしてソフィの方を見る。
が、そこにはペンと手帳を携えて準備万端のソフィがいた。
彼女はそのまま、酸欠でふらふらの俺に。
「今の説明、もう一回教えてくれます?」
……こいつは俺を殺そうとしてるんじゃないだろうか。
意識も朦朧になりながら、俺の意思とは別に口は動き続けた。




