第六話 ③ 貴族的なオーラは感じなかったけど
「なんだ? あの人だかり。なんか盛り上がってないか」
「……どこですか? 見えないです」
ソフィはそれを見つけるには背丈が足りないようで、目線の先を追って背伸びをしている。
ソフィのその姿を見て、このまま抱き上げてやろうかと思うくらいに俺は今、浮足立っていた。
なにせ大金が手に入る事が分かったのだ。一転して気分は晴れやか。
あれくらいあれば割と第二案は実現したも同然だと、そうソフィは保証していた。
お金が手元に入りさえすれば、もう出発してもいいくらいらしい。
待ち遠しくて仕方ない。
そんな、残機が一つ増えたような気分で俺たちは市場へと向かっていた。
その道中王都の正門付近を通り過ぎようとしていた所に、俺は門の前に人が群がっていたのを見かけた。
「ほら、入り口の方……なんか中心に人がいるみたいですけど」
ソフィはどうせ見えないとあきらめたのか、すとんと踵を下ろした。
「入口に人が群がってるってことは王国騎士軍の凱旋とかでしょうか。
確か今は、ランスが魔王軍と戦ってるはずですからその援軍が帰って来たんだと思います」
あまり興味は無さそうだ。
ランスというのはここフェニキアの隣国の事だという。
王都にいると魔王なんて本当に居るのか?なんて思うほどに平和を感じるが、そんなことを考えるのも失礼なくらい大変な国もあるらしい。
「王国騎士軍って言うとあれか。転移者の中で能力値が高かった奴がなる……」
俺がFランクに査定されて入れなかったやつ。
「そうですね。
でも恐らく、騎士団の大半は、貴族の通う高等学院を優秀な成績で出た人材だと思いますよ」
転移者は強いですが、全体の人口に比べて少ないので。と付け足す。
考えてみればそうか。
いくら強くても、数が無いと軍とは言えない。
というか。
「貴族が通うってことは……やっぱりここって全員が教育を受けられる訳じゃないんだな」
「それはそうです。
子供の学費を払えるような余裕のある平民なんて、
一部の豪農とか豪商に限られますからね。
で、そういう人たちは騎士なんか目指させるよりも自分の跡を継がせたいから……結局学校には通わせないんだと思います」
なるほどなぁ。今だと考えられないが、こういう時代もあったよな。
生まれた瞬間から自分の人生が決まっているような時代。
自分のやりたいことをやるって言うのは、やっぱり贅沢なものなんだな。
そう考えると貴族って良いな。
この時代でも、唯一現代的な営みが出来る階級なのではなかろうか。
「貴族でも子供に教育を受けさせられない所はありますけどね。わたしがその例です」
…………?
「え。ソフィって、その……」
思わず口ごもる俺に対し、ソフィは相好を崩す。
「分かりませんかー。私のこの貴族的なオーラが」
少なくとも威厳はゼロだ。
「まぁ正直見てくれだけでは分からなくて当然だと思いますが……
わたしみたいに苗字が付いてる人がいたら、だいたい貴族出身だと思って貰えばいいです」
こういう常識ってつい説明するの忘れますね、とソフィは頬をかく。
「それは……なんでなんだ?そうなると、千鶴さんとかも貴族ってことか?」
「いえ、千鶴さんは違います。
あの人は先輩と同じ転移者ですよ。
……ちなみに苗字持ちと貴族であることに相関がある理由は簡単です。
純粋な転移者は、貴族の転移者の血を引く二世以降の人と比べて圧倒的に少ないから……確率論で言うと貴族の可能性が高いってだけです」
……なるほど。分かるような、分からないような。
「でも……平民の転移者が子供を産んだ場合、その子は普通に苗字を受け継ぐわけで。その子は貴族ではないよな?」
当たり前のような質問をする。
「それも確率論です。
転移者は基本的に頭一つ抜けたスキルを持ってるので、
本人の能力いかんに限らずほとんどの場合成功を収める傾向にあるんです。
お金と権力さえ手に入れれば、社会的なステータスって言うのは後からついてくるものですからね」
なるほど。
必ず強い能力を持って転移してくる転移者は、その時点で成功を約束されているようなものらしい。
でも……
「苗字があるなら日本人の家系で、日本人の家系なら貴族の可能性が高いってのは分かったけど……そもそも転移者ってのは日本人しかいないのか?」
ソフィの口ぶりでは、転移者=日本人のように聞こえたが。
「そうです。さらに言うと、その中でも若い人間しか転移してきません」
「……なんで?選んでやってるのか?」
そんなことが出来るなら、俺みたいな雑魚を最初から省いた方が効率が良さそうなものだが。
「これに関しては……そうだからそう、としか説明できないです。転移の仕組みとか、そこら辺の事に関しては機密扱いなので、情報が出回ってないんです」
そういうものなのか。
とはは言っても納得が出来ない。
現象に自明な傾向が見られる場合は、そこに何かしらの因果があってしかるべきだ。
ソフィは知らないようだが、ここは自分で見つけるしかないみたいだな。
「で、どうします。騎士団の方が気になるなら見に行きますか?」
ソフィは門の方を差して言う。
どうしようかな。別に興味があるわけでは無いけど……
あれ?おかしいな。
人だかりの中央に目を凝らす。
「騎士団って言うからには……流石に沢山いるはずだよな」
あたりまえです、とソフィは頷く。
「でもなんか、二人しかいないみたいなんだけど……」
と口にした瞬間
ぐっ、体が引っ張られた。
「戻りますよ」
有無を言わさぬ口調だった。
従いつつも、俺は尋ねる。
「急に……どうしたんだよ。時間は大丈夫なはずだろ?」
「いいから。市場はこっちです」
人混みから遠ざかるように、俺はソフィにぐいぐいと引っ張られながら市場へと向かうことなった。




