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第五話 ⑤ 戦闘には不向きなスキル

「本当は、さっさと忍び装備を手に入れて見つからないように逃げるのが理想なんだけどな」

 地下二階の入り組んだ地形を走りながら、考えをまとめるように口に出す。


 モルスケスは足音を聞いて追跡をするモンスターなので、スニーク能力を向上させる装備さえ手に入れれば安全……

 と思っていたのだが。


「目の前にいる敵が急につま先立ちで歩き出しただけで見失うようなアホがどこにいるんですか」

 そうソフィに突っ込まれてしまった。


 言われてみれば確かに。

 接敵状態の敵にスニークは利かないという仕様があるらしい。


 しかしこのまま隠れている訳にも行かないとなると……俺に残された選択肢は一つ。

 モルスケスの跳ねまわる音がようやく途絶えた。ソフィが稼いだ時間はここまで。


「それがダメなら……やるしかないよな」


 少しの静寂の後、壁を伝って爆音が響いてくる。

 行動が分かりやすいという点ではありがたいが、そのたびに寿命が縮む気がする。


 地下二階は広く入り組んだ地形になっているので、直線しかない三階で戦うよりかは選択肢が多いが……それでも敵う気がしない。


 辺りに居るはずのモンスターたちは、モルスケスの出す音にびびって姿を消していた。


 モルスケスは足音を判別しているという話だったので、モンスターが沢山居ればかく乱できるかなと思っていたのだが……残念。

 

 またイズも例外ではないようで、ポケットの中でぷるぷると震えている。

 コンテナも潰せるくらいなんだから、大きくしてやれば勝てるかもと思っていたのだけど。


 頼れるのは自分だけか。



 爆音と共に姿を現した、巨大な毛むくじゃらの球。


「……相変わらず元気そうだな」

 少しでも疲れてくれてたら楽だったんだけど。


「あんだけもじゃもじゃなら、一発火つけてやればいいダメージが入りそうだけどな」

 火薬もあることだし、電気属性のモンスターを水のある所に誘導して水素と酸素を発生させて、あとは小さな火花で大爆発……!みたいな。


「……そんなことをしたら巻き添え食らってこっちが死ぬだけです。それに、あれは火薬の爆発程度では死にません」

 冷静につっこみを入れられる。そうですよね……。


 モルスケスはこちらを認め、ぐっと縮こまる。


 その予備動作を確認してすぐに、廊下の壁に飛び込んだ。

 スキルであらかじめ位置を把握していた、隠し扉。


 くるりと壁は回転し、瞬時に裏の通路へと転がり出る。

 なかなかスタイリッシュな回避。

 

 だが、少しタイミングが早すぎたのか、回転扉から離れる間もなくモルスケスも突っ込んできた。

 幸い直撃はしなかったものの衝撃で吹っ飛ばされる。

 

「予備動作の後でも方向転換は出来る……のか」

 一つ学び。


 壁にめり込んだモルスケスは一瞬身動きが取れないようにも見えたが……焦っている様子はなく、一度体を縮こませてからボンっと体を膨張させる。


 そうして回転扉の周りの壁ごと破壊し、再び廊下へと出てきた。

 脳筋にもほどがある。


 姿勢を整えたモルスケスはすぐに標的を捉え、また筋肉を収縮させる。

 ため込んだ力を解放する……今度はその直前に横っ飛びに避ける。


 今度は少しタイミングを遅らせてみた。

 幸い距離があったため、何とかギリギリで巨体を躱した。


 いや、幸いというのは正確ではない。

 長めの廊下を選んで誘い込んでいるので作戦通り。

 

 爆速で飛んでいく巨体は廊下の奥の壁に激突して止まる……ことは無く。

 奥の壁にあった扉を、音もなく突っ切って行った。


「お、凄い。上手くいったじゃないですか」

 ソフィは廊下の奥を見つめながら呟く。


 さっきからソフィの口調がやけに軽い。信頼の証なのか、それとも死ぬ覚悟が出来ているのか。

 どちらにせよ勘弁してほしい。


 その先にはトラップがある。

 ドアがあるように見える魔法がかけられているが、そこは少しの力で崩れる落とし穴に続いている。


 騙されてノブを握ろうとすると落ちてしまうモノらしいが、モスルケスはそれに全力で突撃していったようだ。

 ガラガラ……と音がして、落とし格子が下りてくる。


 映画なんかで、引っかかった仲間が閉じ込められる悲劇的なシーンでよく見られる落とし格子がこんなにも頼もしいとは。


「トラップの逆利用ですか。ちょっとおもしろいですね」

「だろ。まぁでもこれだけだと、一分も持たないだろうけど」


 トラップの中にはそこそこ強いモンスターが数匹いるはずだが、あいつ相手にどれだけ持つことやら。

 

 時間稼ぎにしかならないが、その間にやることを済ませておく。

 

 突進を避けてはトラップへと誘導するのを幾度となく繰り返した。

 からくり門、落とし穴と竹槍、煙幕装置、偽の壁、まきびし床、閃光トラップ、催涙装置、矢の雨、毒ガス、モンスターハウス……


 その全てを使いながら時間を稼ぐ。

 戦闘能力が皆無の俺は、こういったものに頼るしか選択肢が無い。

 

 しかしそのどれも致命打になる事はなく。


 特に矢の雨やまきびしの類は、モルスケスのフィジカルにかかれば屁でもないようで、殆ど時間を稼ぐことはできなかった。


 逆に単純な落とし穴や隠し扉は、それだけで数十秒余裕がもらえる。


 地図を書いていた頃は罠多すぎだろと文句を言いながら書いていたが、いざ使う方になるともうちょっと欲しいというのが本音だった。


「よいしょー」

 と、また一つ壁をぶち抜いてもらう。


 いい加減回避のタイミングは慣れてきた。

 が、向こうのスタミナは一向に減る様子が無く、このままではこちらが疲労でやられる。


 一回でもミスをしたらそれで終わり。

 筋肉の塊にミンチにされてしまう。


 

「で……これいつまでやるんです?」


 そろそろ飽きてきたのか、ソフィはげんなりしていた。


 何度も何度も突進を躱し続ける。

 繰り返して居れば流石に飽きるよな。


 相手も仕留めきれない苛立ちからか、速度がどんどんとあがっているのが分かる。


「さっきからずっと同じどころをぐるぐる回ってる気がするんですけど……もっと楽に逃げられる場所とか他にありますよね?」

 まぁ、指摘はごもっともだな。


「丁度頃合いかな。火薬の準備」

 俺の言葉にソフィは眉を潜めるも、何も言わずに取り出す。

 

「別に意味もなくこの地下を走り回って訳じゃないからな。ここの構造を支える柱をぶっ壊して回ってもらってたんだ。主に……ここら一帯の」

 地下二階の全体ではなく、この地下の北西の端を中心に突進を誘導していたのには意味がある。


 ソフィから受け取った火薬を設置してその場を離れる。

 スキルで確認していたトラップの仕掛けも……準備はしてある。


 聞きなれた爆音がする。火薬ではなく、モルスケスの突撃だ。

 ようやく落とし穴から抜け出してきたらしい。


「これだけ壊して回れば、地下の構造はボロボロになってるはずだろ。あとは発破でもかければそこそこの範囲を崩せるはず。上に大きな圧力(・・・・・)のかかった場所があれば猶更な」


 ここまで言って、ソフィは気づいたようだ。

「そういう事、ですか。この上の……」

 俺は頷く。


 正確には真上ではないが、地形的に北西部の壁と天井を一緒に破壊すれば……

 

 怒り狂ったモルスケスが、力任せに突進をして来るのが見えた。

 このくらい離れて居れば避けるのはそう難しくない。


 避けてすぐに、ソフィの手を掴んで走り出す。

 破壊音が響いた。


 その先にはボウガンのトラップが設置されていた場所だ。

 ひゅん、という小気味良い音がして矢が発射される。


 明るく光を放つ矢の先には炎が付いている。

 なんとか燃え尽きる前に発射されたようだ。


 それらは突進してきたモルスケス――を無視して全く違う方向へと飛んでいく。

 着火。



 今度こそ、爆発による轟音。



 一拍置いて天井が崩れる音が鳴り響いた。

 積を切ったように、池の水が一気に地下へと流れ込んでくる。


「なるほど、水ですか……」

 感心したように、走りながらソフィはつぶやく。


「水浸しにしてしまえば足音なんて聞けるはずないし……あいつの体の構造からして、明らかに泳げなそうだったからな」

 マリモ以外の水生生物に、あんな形をした生き物は居ない。


 そんなこと言ったら地上にもいないが。

 突進をする上で水の抵抗があると、本来のスピードは出せないだろうと踏んだのだ。


「攻撃手段が突進しかないあいつにとって、動きを封じるということは攻撃を封じる事と同義。つまり、もうあの筋肉ダルマを恐れる理由は無くなったわけだな」

 攻撃をかわしているだけに見せかけて、池の水圧を支える部分の壁や支柱を中心にダメージを与えていく。

 

 そしたらあとは発破をかけてやればいいだけ。

 水が流れ込み、足音を聞いている場合ではなくなる。

 さらに相手の行動も封じ、こちらは溺れる前にずらかる。


 作戦通り。

 完璧だ。


「後はフロア全部が水浸しになる前に目当ての物を取って帰ればいい訳ですか。……そこまでは良いんですけど問題は……」


 ……問題は?


 ソフィが言いづらそうに口ごもっている。

 なんだ?


「……これはあとで話します。やらなきゃこっちがやられてたわけですし」


 あれ……?


 ここは俺の作戦勝ちを喜んで、なかなかやるじゃーんって見直す流れじゃないのか。

 肩透かしな反応に少なからずがっかりしてしまうと共に、その“後で話す”とやらへの不安がぬぐえない。



 お目当ての忍び装備が眠る隠し部屋は、既にその仕掛け扉ごと破壊していた。


 前もって調べて置いた謎解きのカギは使わずに、アイテムを強奪する。


 結局筋肉の前に知略は意味をなさないらしい。

 悲しい現実だ。

 

 帰りは素直に地下から一階へと出ることにして、正門から堂々と脱出を遂げた。

 地下三階には既に水が大量に流れ込んでいて、足を踏み入れることは難しそうだったので。



「いや……疲れた」

 一度振り返り、そびえたつ天守を見上げる。


 結局城に登るなんてことはなく、一階をちょろちょろうろついただけで終わってしまった。


 この寂れた感じ……登ってみたかったんだけどな。


 事前準備の大半は殆ど意味を為さなかったし、命の危機にさらされるし。

 しかしまぁ、無事生還出来て目当てのものも手に入れた。


 今日の所はこれで……



「じゃあ、次ですね」


 ……次?

「い、いや……流石に今日は疲れただろ?火薬も使っちゃったし、ここは一度体制を立て直してからさ……」

 俺の必死の抵抗にソフィは一度考える素振りを見せた。


 頼む。もう体がボロボロなんだ。これ以上酷使したら明日筋肉痛で動けなくなってしまう。


「そうですね……。でも一回王都に帰るのはありかもしれません」

 お。良かった。俺の声は聞き入れられた。ありがとう神様。


「ではちょっと買い物だけして……それから行くことにしましょうか」

 あれ。


「行くって言うのは……」


「もちろん、次の遺跡です」


 ……鬼だ。



 遠くの方に馬車の影を認めたソフィは、駆け寄って手を精一杯伸ばす。


 いつもならほほえましい光景なのだが今日に限っては……

 どうか気づかずに走り去ってくれ、と願わずにはいられなかった。

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