第五話 ② ようやく攻略コゥイガ遺跡
「ステータスがあまりに貧弱すぎるせいで、今日はちょっと……やることが多いです」
ソフィはメモから目を上げ、俺を責めるような視線を送ってくる。
「悪かったな貧弱で。これでも頑張ってるんだけどな」
俺の言い訳を無視して、ソフィは続ける。
「魔物の討伐数に関しては何とかなると思います。
でも、基準値のステータスを満たすっていうのがどうも大変です。
先輩のスキルでなんとかできると良いのですが」
「はぁ。
でも昨日、装備さえ良ければ俺のステータスはいくら低くても良いーみたいな事言ってなかったか?」
銀等級になるために必要な能力値は全て武器や防具などの数値で補う、つまりハリボテで誤魔化す……という認識だったのだけど。
「そうですが、問題はそこじゃないです。
今までに、鉄の塊を持ち運んで戦場を歩いた経験は?」
……あるわけないだろ。
「例えばですね。
これからわたしたちが苦労して、伝説の剣を手に入れたとします。
戦う能力は皆無だけど、スキルをなんとか駆使して敵の目を掻い潜って、ようやく手に入れたと」
伝説の剣て。
まぁでも、そこまではイメージがつく。
昨日みたいにあらかじめ敵の位置とかトラップの位置を先に把握していれば、出来ないことは無いだろう。
「でもそこからどうなると思います?
伝説の剣がインベントリにポンって入って、ワープでスタート地点に帰る……
なんてことはできません。小さなアーティファクトならともかくですが。
強い武器ってのは基本的に重量もそれに応じて増えるから……ただでさえ危険な地帯なのに、そんな重りを持った状態で帰らなくちゃいけなくなるんです」
それは確かにそうだが……
「でもダンジョンの情報は全部把握してるわけだろ。
安全なルートを通れば、ゆっくり進んでも問題は無くないか?」
いえ、とソフィは反論を潰してくる。
「高難易度のダンジョンになればなるほど、モンスターは厄介になるんです。
敵対する生物を見つけない限り殆ど動かないフィクスドの数は減りますし、
その反面決まったルートを巡回するルーチンの数が増えます」
「あー……なるほどな。
安全なルートをゆっくり通っていればいいって訳じゃなくて、
頻繁にタイミングを見計らって動く場面に出くわすようになるのか」
確かにそうなると、重りを背負った状態で動くのは相当命取りだな。
モンスターの隙を狙って動くのなら俊敏性は最も大事なパラメータと言える。
「ですから、今日はその下準備から始めることにします」
ソフィは手帳から手のひらサイズの紙を一枚取り出し、こちらに渡してきた。
「なにこれ。……買い物リスト?」
いくつかのアイテムの名前と、その用途が書かれている。
「有用そうなアーティファクトについての情報はまとめてきました。
どこにあるかも、どうやって入手するのかも分かってないですけど……そこは先輩の仕事ってことで」
……なるほど。
「ある意味戦略ゲーみたいなもんか。攻略する順番を考えて、最速クリアを目指す……みたいな」
ソフィはピンと来ていないようだったが、まぁこういうのは確かに得意だ。
効率厨として腕の見せ所のようだな。
「一週間ですからね。
そこの締め切りさえ守ってくれれば、あとは先輩の自由です。
ただし、一日も譲れませんから、そこだけは気を付けてください」
締め切りとは言うけれど、一体ソフィは何に追われているのか。
そのことについては未だ聞かされていない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……ここであってんのか?」
思わずソフィに尋ねる。それほどまでに、目の前に広がる光景は異様だった。
「いや……わたしが聞きたいです。先輩がここって言ったんですよ」
スキルが示した場所であることは間違いないはずなのだが。
「それはそうだけどさ……でも遺跡って言うから、昨日のシァトナ遺跡みたいなのを想像してたんだよ」
そこはいわゆるダンジョンのテンプレートのような岩肌に隠れた洞穴……などではなかった。
石垣で囲われた城壁の周りに、渇いてひび割れた堀。
所々剥がれ落ちた白塗りの壁、そして空を突き抜けるように天守がそびえたっている。
あんなにテンプレートなダンジョンに行った後にこんな……
「世界観に合ってなさすぎだろ」
と、思わず呟いてしまった。
西洋風の城ならまだしも、どう見てもこの造りは和のお城だ。
「マップ書いてた時点で何かの建物なんだろうなっていうのは想像ついてたけど……流石にこれは」
マップを書く作業はほぼ無心で行っていたせいでここがこんな和風な城だったとは気づかなかったが……思い返せばところどころ確かに納得が行く。
今日の獲物が 忍び頭巾 と 忍び足袋 といういかにもな名前のアイテムだった事と、コゥイガ遺跡という名前。
考えてみれば、ヨーロッパの中世というと日本では丁度戦国の辺りなのか。
なら世界観とも合う……?いや、合わないわ。
古代遺跡は何千年も前の遺物なわけだから、時代で言うと全然違う。
「なんかこう見ると、最上階まで登りたくなってくるな」
日本人の魂がうずいているのか、ただ高いところが好きなだけなのか。
「今日の所は我慢してください。目的は地下にあるんですから」
へいへい。分かってましたよ。
歩き出すソフィの後をとぼとぼと続く。
干からびた堀を横目に、ボロボロになった城門をくぐる。
辺りは草が生い茂っており、手入れがされている様子はない。
遠くから見た限りでは分からなかったが、城壁には均等に覗き穴のようなものがあいている。
恐らく内側から弓矢や鉄砲を発射するためのものなのだろう。
少し怖いが、確か壁の近くに配置されているモンスターはいなかったはずだ。
そもそも火器を扱えるほどの知能を持つモンスターは、一階層に居ないのを確認している。
物見櫓が、門を見下ろせる位置に何本か立っている。
弱弱しく今にも倒れそうな造りで、誰かがその上に立っているなんてことは無かった。
「遺跡の内部の地図を書いたのはいいんですが……そもそも、内部に入るにはどうすればいいんでしたっけ」
ソフィはこちらを見上げて言う。
「正門は……開いてないのか」
少し離れたところに正門が見えたが、しっかりと閉じられている。
頑丈な造りの門で、誰でも好きに開けられるような部類の物ではない。
スタート地点に立つまでの道のりなんて、考えもしなかった。
「発破かけるとか?」
俺の提案にソフィは即座に返す。
「火薬は次のダンジョンで使う分しか持って来て無いので却下です。他に入口は?」
にべもなく。
最後の言葉は、俺のスキルに向かって聞いたものらしい。
『東西南北に四つ入り口があるが、全て閉ざされています。
また裏口として、直接地下に繋がる階段が西の池の一本松の下に隠されています。』
まーたネタバレ食らったよ。
こういうのは敵の会話を盗み聞きするとか、文献を読み漁るとかしてヒントを得るのが醍醐味なのに。
「西の池の一本松……が、地下に繋がってるって言いました?」
「言ってたな。確かに」
目的の物が地下にある俺たちにとっては、かなりのショートカットになりそうだな。
「これなら、すぐに次のダンジョンに行けるかもですね」
少し嬉しそうだ。
これだけ立派な城が目の前にあるのに、その地下にしか行けないということに関しては全く残念でないらしい。
俺は血涙を流してるけど。




