第五話 ① †世界の真実† を傾聴させて頂く
一つ、発見をした。
開店前の酒場、俺は千鶴さんと向かい合って朝食をとっていた。
ソフィはいない。
早朝からダンジョン攻略に必要なものの買い出しに行っているらしい。
俺はというと、とっくに皿の上のものを全て片付けていたものの、千鶴さんのおしゃべりが止まらなくて困っていた。
「……でね、魔王軍の幹部たちも誤解を受けてるのよ。
世に出てる噂では、彼らは残虐で人の心のない魔物だーなんて言われてるでしょ?
でもね、実はみんなとても心優しくて、私達と同じ人間なのよ。
そもそも魔王軍のトップは今、殆どが人間だし」
相変わらず延々と続く千鶴さんお決まりの陰謀論を聞き流しながら、
俺はふと気になって千鶴さんの左目を見つめてみた。
「必死で倒そうとしている魔王軍のトップが実はまともな人間なんて、
やっぱり簡単には信じられないだろうけど……これが真実なの。
みんな後ろ指をさされることを覚悟して悪役を演じてるのよ。
そのおかげで皆が豊かな生活をしているのを忘れちゃいけないわ。
いわば彼らは、今の体制を維持するための身代になっているの」
左目に書いてあるステータス。
あれだけの量の瓶が入った箱を軽々持ち上げるなんて、どれだけ凄い筋力があるのだろうなと気になって、ステータスを見ようとしてみたのだが……
どうしてもうまくいかない。
別に目が悪い訳じゃないはずなんだけどな。
「その中に一人若い女の子がいるらしくてね?
その子は城ではいつもエプロンを付けてるんだって。
彼女が家事の当番をしてるから。かわいくない?
だから、皆が想像しているような恐ろしい存在じゃないのよ。
皆で協力して仕事をして、世間から虐げられるのを耐え忍びながら、
裏で頑張って世界を支えてるの」
そもそもそこに文字が書かれていないとかではなく、
線の組み合わせをなぜか脳が情報として認識できないというか……
何でだろう。意図的に読み取らせないようにするとか、そういう機能があるのかな。
「それに幹部たちが集まる会議室みたいな場所もあるんだけどね、
これまたみんなが想像するような堅苦しい場所じゃないの。
カーペットが敷いてあったり、ソファがあったり……
そこでお菓子も食べられるんだって。
そこの空気は本当に居心地が良くて、
ここが魔王城だってことを忘れちゃうくらい……
って、ねぇ。佐伯くん、聞いてる?」
あれだけの力を持っていたことだし、
もしかしたら千鶴さんって、引退した腕利きの冒険者だったりするのかな、
なんて思っていたのだけど。
でも、この若さで引退は流石にないか。
それに最前線で冒険する経験をしていたら、あんな変な陰謀論にはまるなんてことないよな。
「ねえ、聞いてるの?」
『聞いてませんでした。』
という返事が口から勝手に出る。
こういう時に誤魔化せないからこのスキルはポンコツなんだよな。
もう、と千鶴さんは頬を膨らます。
「あの。千鶴さんって、なんでここで酒場をやってるんですか?」
説教の気配を感じ取ったので、相手のターンになる前にこちらから仕掛ける事にした。
「なんでって……ソフィアのお父様にこの場所を譲っていただけたからよ」
譲ってもらった?
「継ぎ手が無くて仕方なく働いてる……みたいなことですか?」
俺の質問に、千鶴さんは首をかしげた。
「いや?
自分のやりたいように出来るこの酒場で働くことは、願ってもない事よ。
わたしなんか、どこで働いてもお前は使い物にならないって言われるから」
ため息交じりに千鶴さんは言う。
「使い物にならないって……千鶴さんがですか?」
確かにどこか抜けていたり、すぐに悪い人に騙されたり節があるみたいだけれども。
「そうね。何やってもダメ。
何回か、君には才能がある!みたいなこと言って冒険者に誘ってきた人がいたけど……
そのたびに迷惑かけまくってたわ」
嫌な記憶を思い出したのか、げんなりとしながら千鶴さんは言う。
やっぱり見る人によっては才能があるように見えるのか。
でも、その力は冒険で培ったものじゃないらしい。
引退した冒険者説はあえなく消えてしまった。
「ここに来てからは何の仕事も続かなくてずぅっと苦しかったから……
ほぼ毎日炊き出しを手伝ってご飯を貰ってたわ。
まぁでも、そのお陰でこの世界の真実を知ることが出来たからね。
今では感謝しているけれど」
あ、そこでそれに繋がってくんのね。
その言い方だと、千鶴さんって転移者なのかな。
いや、そもそも名前からしてそうか。
というか話が†世界の真実†とやらに戻ってきてしまった。
マズい。次の質問をして話を逸らさないと……
「そうそう。世界の真実と言えば……
実は魔王復活には昨日言ったモノの他に、真の目的があってね……」




