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第六十一話 減界質

 見上げるとそこは暗く、天井の高い広々とした空間だった。

 入り口の扉の他にはただ一つ、その中央に巨大な建造物が鎮座している。


 砂時計の形をした、ガラス張りの大きな容器。

 容器内の物質は紫色にぼんやりと光っており、

 重力に逆らうようにゆっくりと天井へ上っていっていた。


「これが減界質だ。

 魔法現象が発見されると同時に観測された、世界の均衡をとる物質だな」

 猫の眼は紫の光を反射させ、妖しく光っていた。


「……だな。って言われても、全然分かんないんだけど。

 まず世界の均衡ってなんだよ」


 猫は砂時計の方へ歩みより、容器に手を掛けた。

「エネルギーは質量と等価だ。有名なE=mc^2という式で表されるようにな。

 例えば原子力に活用される核分裂では、

 膨大なエネルギーがわずかな質量から生み出される。

 この式は、同じ宇宙にある限りここでも同様にこの世界の法を記述している」


 急に物理学講義を始めだした。

 しかし……アインシュタインの相対性理論は古代人からしても共通理解らしい。


「無からエネルギーは生まれない。

 にもかかわらず、この世界ではしばしば魔法によって、

 エネルギー保存を破るような現象が見られる

 この世界に来てからはよく見ただろう」

「そうだな。空間から炎を生み出したり、触らずに物を動かしてたりもしてた」

 

 猫は頷くと、一度こちらを振り返った。

「ここに見える物質は、言わばそのつじつま合わせのように生み出されている物質だ。

 無からエネルギーを生み出すときに、それに応じてここに減界質が生まれる。

 これが魔法現象を可能にしている」


 つじつま合わせだの、世界の均衡だの。

 猫の言う事はあまり理解できない。


「この減界物質は、負の質量を持つ物質に非常に似た性質を持っている。

 見てのとおり、重力に逆らうような挙動をしているだろう」


 それでこの物質は天井へと昇って行ってるのか。

 しかし負の質量……か。


 核分裂において膨大なエネルギーをもたらすのは、重い原子核が軽い原子核に変化する過程で、

 そのわずかな質量の差がエネルギーとなるからだ。


 それなら無からエネルギーを取り出そうとすると、

 ゼロだったものがマイナスへと変化する……?

 

 うわべの理論では出来そうにも聞こえるが、

 しかし少なくとも地球上では絶対にありえない現象だ。

 似非科学もいい所。

 

 やはりここと地球とでは明らかに異なる法が世界を支配している。


「それと……負の質量ってなんか聞いたことあるな。

 確か……ワームホールを作る時に必要とかなんとか言ってた気がするけど」

「その通り、ワームホールの実現には不可欠な物質だ。

 だが……もう一度言うが、厳密にはそれそのものではない。

 本当に負の質量を持つならこの星が乗ってる慣性系に逆らうように動くはずだからな。

 こんなところにとどまっているなんてことは有り得ない」

「……それは良く分かんないけど。

 便宜上そう呼んでいるってやつか」


 猫の言うには、ゲートを開いておくためにこの減界質なるものが必要になるという事らしい。

 この物質は魔法によってエネルギーが使われると生み出され、ここに溜まるという。


 しかしエネルギーに対して生み出される質量は物凄く少ないため、

 この物質を貯めるのにかなりの時間がかかったらしい。

 最近になって戦争が多くなっていたのは、この物質を生み出すため。

 平和であればあるほど魔法は使われづらく、逆に戦争をすると効率よくこの物質を生み出せる。

 最後の最後に王都に襲撃が来たのも、そのためだったらしい。


「にしては結構あるように見えるけどな」

 容器は一杯ではないにしても、三分の一以上は埋まっているように見える。

「……昨夜に全て使い切ったはずなのだがな。

 今回の戦争で莫大なエネルギーが消費されたせいだろう。

 ここまで埋まっているのは吾輩も始めて見た」


 激しい戦争だったせいもあるのだろう。

 猫曰く、神代の残機を一つ削った時の魔法がその大部分を占めている、との事だった。


 因みに、この減界質は時空にも作用し、様々な応用方法がある。

 例えば魔王城の壁や天井が破壊不能な理由。

 これは、物質の時間を極限まで遅く逆に作用させることで、

 どれだけ力を加えてもごくゆっくりにしか動かず、

 はた目からみると動いていないように見えるせいらしい。


 逆に言えば、時間を考慮しなければ壁を壊すことは可能なのだ。

 しかしそれを誤魔化すために定期的に構造を変えており、今では二日に一度は地形が変化している。


 時の牢獄もまた、この反作用を受けて作られているという。


「ね、準備できたよ」

 上から声がした。

 いつの間にか天井に扉が開いていた。

 そこからハイドが逆さに顔を出している。


 俺たちがここ魔王城地下に到着した時、ハイドは既にここで待っていた。

 ゲートを開くのにこの子の能力が必要だったらしいので、都合は良いのだが……

 あまりに都合が良すぎて怖くなってくる。

 早く本人を問い詰めたい所なんだけど。


 と、砂時計の上蓋が開いた。

 減界質はゆっくりと天井へと吸い込まれてゆく。


「我々も上へ行くぞ」

 天井に開いた扉の下に階段を生み出し、俺も上へと昇った。




 神秘的な空間からは打って変わって、沢山の機械に囲まれた白い研究室。

 様々な計器に実験モデル、空調設備に計算装置と大きなマシンが所狭しと置かれていた。


 ガラスを一つ挟んで、ゲート施設とこちらの管理室は隔離されていた。

 暗い色のガラスは殆ど光を通さず、向こうの状況が僅かに見通せる程度だった。


 至る所につけられた強力な照明はその空間の中央部を照らすも、

 依然としてそこには絶対的な暗黒が佇んでいた。

 

 これがゲート。

 

 シアの生み出したエネルギーで作られたブラックホール。

 カフト先生の割り出した座標に、ティネが出口を複製した。

 その二つを同期させるのは柊の役目。


 そして最も重要なカギを握るのは、ハイドのスキル。

 “次元干渉”というらしい。なんだそれ。カッコよ。


 そのスキルのお陰で遠く離れた地球にスキルを発動させられるようになるらしいのだけど……じゃあ壁抜けとかそういう話はどこに行ったんだろうか。


 で、テトは?

 と危うく突っ込みそうになったが、

 この子の能力は、俺と律さんを攫うときに必要だったらしい。

 今回は誰も攫う必要が無いので、俺と同じく見学をしていた。



 カフトは計器を見て最終チェックを終えると、ぱたぱたとキーボードを叩く。

 警告音と共に、ゲート施設と管理室の間のガラスに分厚いシャッターが下りて来た。


 完全に閉まると、傍のモニターがついた。が、それは真っ暗だった。

 カフト先生曰く、それでいいらしい。

 カメラの裏から光を照射しており、それが見えないという事はうまくいっている証だという。


 ゲートなんていう名前だから、なんちゃらドアみたいな扉型の装置を想像していたのだけど、そこにはただの暗闇しかなかった。

 ちょっとだけ期待外れだ。


 往復で十二時間。

 彼らがワープゲートに入ってからは、またそれくらいの時間がかかるものらしい。

 向こうも大変だな、とこぼしたら猫に訂正をされる。

 どうやら彼らの体感時間は、往復でも一秒と経っていないらしい。


「しかし確かに驚くだろうな。

 神代の眼の前で何者かに攫われたかと思えば、次の瞬間には地球に居て、

 何が起こるのかと身構えるも何も起こらないのだからな」

「そうだな。モルテの記憶が戻ってるから洗脳は解けてるし……

 そうこうしてるうちに帰り用のゲートが開いて、またすぐに帰るんだもんな」


 また一秒後にはこちらに戻って来ていて、なんか全部終わってる。

 世界の平和のために今日まで頑張ってきたのに、最後は蚊帳の外って訳だ。


 可哀そうだけど、想像するとちょっとだけ面白い。

 せめて、サプライズを用意しておこう。


 いつの間にか世界が平和になっているというサプライズ以外に、もう一つ。

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