表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

167/170

第六十話 目下の問題

「も、戻ったんですね。おかえりなさい……」

 霜月邸地下にはテトが居た。

 ソファの上にはティネが目を瞑っており……


「はぁー……よかったぁ……。生きてたんだな……」

 ティネのゆっくりと胸が上下するのをする姿を見て、体の力が抜けた。


「は、はい。皆さん、無事です。そちらも……元気そうですね」

 おどおどとテトはこちらを見上げて来た。


「お陰様で。他のやつらはどこに?」

「そ、ソフィアさんたちは……復興作業の手伝いに。

 奏瀬さんが呼びにいらっしゃったのですが……

 ティネちゃんを一人にするのは危ない、という事でわたしが残りました」

 

 そうか。

 ソフィア……じゃなくて、ソフィの顔を見たかったけど。仕方ないな。


「しかし……神代はティーネを殺したと言っていたはずだ。なぜこの子は生きている?」

 猫はソファの上のティネを顎で示す。


「それは……これのお陰、だそうです」

 テトはじゃらりと音を立ててアクセサリーらしきものを手の上に乗せた。

「なんだそれ。……ネックレス?」

「そ、そうです。

 これは“失われた王妃のネックレス”と言って、その効果で腐蝕の効果を弾いた、と。

 ティネちゃんが言うには、このネックレスをハイドさんが腕に巻いてくれていたみたいで」


 なんだそれ。

 良く分からんがハイドは、そこまで分かっててティネにこのネックレスをやったのか?

 魔王城でのスクロールの件といい、幹部たちの記憶解放の件といい……

 一番の功労者は間違いなくあいつだな。ここ最近ずっと顔を合わせてないけど。



「で……ティネが生きてるってことは、律さんとデュオさんは呼び戻せるってことで良いのか?」

「いや……そうではない。

 転移対象は完全に指定することが出来ないからな、

 このままでは相当な時間がかかる。

 勿論、数十年単位で時間を掛ければ不可能ではないが」


 可能ではあるけど、確実じゃないと言ったところだろうか。

 他に方法が無くとも、待っていればいつか戻って来る……というのは希望のある話だ。


「やるとすれば、もう一度ゲートを開く事が最も現実的だろう。

 しかし問題は、時間のループだ。

 ループする世界とこちらを繋げてしまうと、こちらもまたその影響を受けかねん」

「そっか……確かに。

 じゃあさ、そのループさえなんとかすれば良いんだな」

「そうだが。しかし……何か策があるのか?」


「あぁ、そんな難しい事じゃない。

 モルテの記憶さえ解放してやればいいんだよ。

 これからループを起こすのは“再時計(リ・クロック)”を持ったあいつなんだからな」

「た、確かに……そうですね。

 記憶を取り戻せば、モルテさんが神代先生の命令通り動く義理が無くなりますし……」

 賛同するテトに、猫はため息をつく。


「モルテの記憶……か。それが出来れば苦労はしないのだがな。

 しかし難儀なことに、彼の記憶に関しては、管理室に存在しないのだ」

「知ってる。だって、神代はモルテの記憶を管理してないからな」

「あ……? それならどこに……」


「ここ、地下室にある。モルテ……もとい、“茂呂くん”の記憶は」

 

 

 猫とテトは良く分かっていないみたいだった。

 というより、そもそも二年前に死んだ霜月家のお手伝いさんの存在を知らないらしい。

 まぁあまりにも当然すぎるが。

 

 とにかく、二年前に血を流して死んだ彼とモルテは同一人物のはずだ。

 記憶を取り戻したことと、先ほどの神代との問答で確信した。

 

 神代が記憶を消すまでもなく、モルテが最初から一度目の転移の記憶を失っている事。

 そして一度死を経験しているにもかかわらず、廃人化していない事。

 これは俺が茂呂くんにした処置と特徴が一致している。


 また、家の火事に巻き込まれて死んだ茂呂くんは、

 燃える炎の中で死んだという意識を強く持っていたはずだ。

 強い思い込みで火傷を負うことがある、という話の通り、

 それが元の体にも影響をもたらし、彼の顔が焼けただれた事に至る。


 それに、過去のモルテの行動にも説明がつく。


 転移してきて二日目……カウェグラ遺跡で宝箱の中に隠れていた時だ。

 魔物達の気配が消えた後に外に出た時、辺りには魔物の死体が転がっていた。

 もしその時にモルテが魔物を倒してなかったとしたら、

 果たして俺たちは本当に、宝箱の中に潜んでいるだけで魔物達をやり過ごせたのか?

 

 そのまた二日後のナーガ迷宮では、洞穴の主である土竜が急に帰ってきて焦った事があった。

 しかし帰ってきた土竜が既にボロボロで、俺達を襲うようなことは無かった。


 どちらもモルテの仕業だとすると、明らかにこちらに危害を加えないようにしていたことが伺える。


 魔獣となって俺達に襲い掛かってきていたときも、やけに危害を加えたくない事を強調していた。


 彼自身は神代に忠誠を誓っていたのだろうが、それでも過去に面識のあったソフィアに危害を加えるのは抵抗があったのではないか。


 全ては一つの事実を符合している。

 今俺が持つ“正直者”のスキルの元の持ち主と、モルテが同一人物だということ。


 そうなれば、俺が二年前にこの地下の記憶装置に付与した記憶はモルテのものになるわけだ。

 これを解放してやれば、モルテは正気に戻る。

 これでループは起こらない。彼自身にループを起こす義務がなくなるのだから。


「だから、記憶に関してはどうにでもなる。

 後はゲートだけだな。

 そっちに関しては任せて良いんだよな?」


 俺の推理に感心していた猫は、急に変わった話題に戸惑いつつも頷いた。


「……そうだな、ここからは吾輩の仕事だ。

 ただ、幹部連中の力も必要になる。

 それに城に戻るのが面倒だ。ラプラでなんとかしてくれ」


「分かった。場所はどこに?」

 俺が尋ねると、少し考えるようにして猫は言った。


「魔王城地下四階、減界質採取場。ここへ頼む」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ