表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

166/170

第五十九話 ④ 終末に決断を

 猫は神代をまっすぐ見ていた。

「宇宙が終わったとしても、まだ意思を託す余地はある。

 高度に文明が進み、銀河団規模に行動範囲が広がればさらに上の存在が目を付ける可能性がある。

 我々の文明を記述しその存在の知識の一端に加わるかもしれん」


 猫の言葉に神代は眼を見開く。

「……そう、最終的な答えはそうなります」

 猫の意見は反論のように聞こえたが、神代はむしろ喜んでいた。


「私も貴方と同じ結論です。

 三次元空間に住む我々は決してこの宇宙から飛び出る事は叶いません。

 が、高次元の存在が我々を観測している可能性は大いにあります。

 そこに生きた証が記述されれば、我々の努力は無駄ではなかったという事になります」


 ……なるほどな。

「その上の存在とやらの目に留まって、情報として記録される事が……

 言わば人類に意味を与える最後の目的って訳か」

 神代は頷いた。


 なんだかしょぼいというか……

 そこまで行っても最後にはただの情報かよ、とはなるけども。

 しかし全くの無になる、と言われるよりかは希望のある話だな。


「これで我々の目的は定まったでしょう。

 となれば、それに向かって努力する以外の事はするべきではありません。

 宇宙の寿命が定まっている以上、カウントダウンはもう始まっているのです。

 一秒も無駄にせず、我々は科学と文明を発展させ、なんとしてでもそこに意味を与えるべきです」


 それは確かに。その努力を怠ったせいで全てが無に帰すなんてことは許されないだろう。

 残り時間が決まってるならそれに間に合うよう努力するべきだ。

 言い分は通っている。


「私がこの世界を支配しようとした理由というのは、それに帰結されます。

 一つは、この世界の人類の発展の遅さに呆れたというのがあります」

「……この世界の人たちが6000年の間、殆ど文明を進歩させなかったって話か。

 まぁ、確かにこのままのスピードじゃ星の寿命すらも乗り越えられないだろうな」


 言わば、この世界に生きる意味が失われようとしていた状況だったのだろう。

 それを変えたかった。そう神代は主張する。


 停滞が生むものは身の破滅のみ。

 手段はともかく、言ってる事は正論だな。


「そして二つ、この世界を人類の発展に役立てるために使う事です。

 将来的にこの星と地球が繋がれば、

 古代文明や魔法の研究を通して人類の文明レベルは一気に引きあがるでしょう。

 今回のゲートの作成は、そのための礎でもありました」


「そうか……ここと向こうの世界を繋げたら、

 文明の劣ったここの人間たちがどんな扱いを受けるか……」

「その通りです。ここの人間たちは地球とのゲート開放に必ず反対します。

 何より彼らにメリットがありませんし、

 恐らく資源や技術などは一方的に地球文明が搾取することになります」


 それなら……と口を挟むより先に、神代は続けた。


「他者との利害が対立した時に取れる行動は限られています。

 ですが、数十億の地球上の人類の死とせいぜい数百万の人間の都合を比べた時にどちらを取るか、という話に過ぎません」


 神代の主張には色々と反論ができる。

 が、何を言っても無駄なのだろう。そうでなければこんなことは端からしていない。


「優先される目的の前で目を瞑るべき些細な事というのは世に満ちています。

 彼らを放っておいても、このままでは必ず宇宙の寿命の前に儚く絶滅するでしょう。

 そうなるより、多少被害は受けたとしても人類の礎として意思を残した方が良いとは考えられませんか?」


 神代の目は本気だった。

 とても冗談を言っているようには見えない。


 あまりの極論に、俺は答えられなかった。

 神代は、本気でその方がこの世界のためになると思っている。

 しかもその理論に従うと、彼の行動は何ら間違ったことではない。


 平和ながら緩やかな進歩をすることで死を迎えるか、

 厳しいながらも努力して進歩することで死に抗うか。


 その後者を彼は選ぶべきだと主張する。


 生きる意味と、これまでの積み重ねが無になる日。


 流石にこれは、俺一人で判断できない。

 と同時に、神代一人でも判断できない事でもある。


「お前の言い分は分かる。

 目の前の事じゃなくて先を見るってのも正しい。

 圧倒的多数を犠牲にして少数を過剰に擁護するのはおかしいって意見にも賛成する」


 つばを飲み込む。

 この決断が何よりも大事な事だってのは分かってる。


「それに、ここでお前を妨げる事が数百億年後には戦犯として語られるかもしれない。

 そのせいで、人類は生きた証を残せずに無に帰るかもしれない」


 猫が俺の足に寄り添ってきた。

 俺の決断を尊重する、という事だと解釈させてもらう。


「でも、駄目なんだよ。

 ソフィアの涙を見ちゃってから、その考え方にはどうしてもなれないんだ。

 あの時みんなのために無理をしてたソフィアを止めなければ、

 もしかしたら平和な世界になってたかもしれない

 でも、その犠牲の上に得られた平和をどうしても選べなかったんだ」


 何が正しいとか、何が正しくないなんてことは俺には分からないけど。

 

「ソフィアが笑っていられる世界を、俺は望んでる」


 神代は答えない。

 端から俺の意見をかえようとしていなかったのだろう。

 期待もまたしていない様子だった。


「そうですか。残念です」

 しばらくの沈黙の後に神代は呟いた。

 口調には諦めが感じられた。


「これで……聞きたいことは聞けた。

 そしたらここからは独り言なんだけど……この先、どうしようかなって思ってさ」

 

 俺が言うと、神代は顔を上げる。

「……この先、というのは? 私が死んだ後の事ですか」


「そうそう。魔王体制崩壊後の事。

 このままじゃ経済崩壊まっしぐらってのは見えてんだよ。

 お前が色々と裏で新しい産業の助成金とかを否決しまくったせいで」


 神代は眉を上げ、頬に笑みを浮かべる。

「よくご存じですね。

 その通り、貴方がこれから行う行為は沢山の人々の職を奪い、

 財を価値の無いものにすることに繋がります。

 沢山の人が結果的に不幸になる事は逃れざる運命なのですよ」

「一方で幸福な人間は圧倒的に増える。一概には言えんだろう」

 猫が横から口を挟んできた。


「それはそうなんだけどさ。

 でも責任を背負う側に立つと、少数の犠牲にも目が行くようになるんだよ」

「そういうものか」

「そういうものなの」


 とにかく、と俺は神代に向き直る。

「でさ、俺に政治能力は無いと思うんだよ。

 でもお前は、その能力があるよな?

 もしお前が俺の立場に立ったとして、この国をどうにか出来ると思うか?」

「私が……ですか。それは、魔王体制の維持という選択肢を取らずに、

 この国を正常化させることが出来るかどうか、という質問でよろしいでしょうか」

「そうだ。仮にお前が完全に改心したと仮定して、

 現状の王都を立て直せるのか。そんなことが可能なのかを知りたい」

「貴方を含むそこらの無能共には不可能な話かもしれませんが……私なら可能でしょうね。

 私にはその才覚が有りますから」

「……そうか。なら、良かった」


 俺が言うと、神代は首を傾げる。

「なぜ今になってそんな……」

「そうするしかないからだよ。

 今のお前はどうしようもなく危険だけど、やりようはある。

 もうちょっとだけ人に寄り添えて、同じ才覚を持つ過去のお前(・・・・・)に頼まないと、

 どっちにしろこの国は終わるからな」


「……そういう事ですか。それでは、好きになさるといいです」

 言って神代はため息をついた。

 膝を折って、空を見上げる。


「記憶が無くなれば、今の私はどうなるのでしょうね……

 これは、死と呼んでも良いのでしょうか。

 少しだけ、恐ろしいような気もします」


 観念したような口調だった。

 俯いたまま、首を差し出すようにして彼はじっとしていた。


「同じことを何千人って人にしてきたんだろ」

「ええ、しかし彼らは元から精神が崩壊した人たちです。

 私のように健常な精神を持った……」


 言いながら神代は笑いだしていた。

 ここまでの事をしておいて、“健常な精神”なんて自称したことの可笑しさに気づいたのだろう。


「記憶を消した後の私は……また野心を持って国を乗っ取ろうとするのでしょうか」

 神代は小さく呟く。


「どうだろうな。それは分からん。

 ただ、当然だけどスキルは没収するからな。

 その能力さえなければ、流石に世界を乗っ取る事は“不可能”なんじゃないか」

「それは分かりませんよ。少しでも可能性があるのなら、私は相応の努力を致しますから」

「……それは心強いな。

 その努力をもうちょっとだけ違う方向を向けるように、なんとかしてみるよ。

 この世界の住民も含めた人類の全ての努力が無にならないように。

 それで、今のお前の罪も償ってもらう」


 神代がなぜこんなことをしたのかを知っておきたかったのはこのためだ。

 これを把握しておかないとまた同じことを繰り返すことに繋がる。

 次こそ、そうはさせない。


「そうですか。頑張ってください」

「頑張るのは……お前だけどな」


 スキルを発動させる。

 俺の意識は、首を垂れた神代へと“付与”された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ